君の叫びが炎上した理由を俺は知らない

雪村

文字の大きさ
上 下
28 / 33
4章 君も俺も誰かに道連れにされる

28話 虚無

しおりを挟む
 昨日炎上した人からのDMってことは謝罪なのだろうか。
 それとも八つ当たり…?

「なんて送られたの?」

 予想もしていなかった大事(おおごと)に俺は呆気に取られる。

 さっきまで自分のことしか考えられなかったくせに、急に倉持さんが心配になってきた。
 ……これも良い子ちゃんなのか?

「一見謝罪ですね。でも所々、僕の気持ちもわかって欲しいみたいな感じで書かれています。言い訳付きの謝罪連絡です」
「返信するの?」
「貴方が余計なことをしたせいでトラウマが蘇ったと返信したら、それも晒されるでしょうか?」

 倉持さんならやってしまいそうな返信だ。

 でも今のSNSでは気に入らないことがあれば、すぐに晒そうとする。
 それは良くも悪くも効果があるものだった。

 倉持さんの3度目の炎上を経験させたくないのなら止めるべきだ。

「その返信は別分野で炎上するかも。だから……」

 当たり障りのない返信をした方が良い。そう言おうと思っていた。

 でも途中で、この考えに俺は納得しているのかと疑問になる。
 止まってしまった言葉の続きは発せられることなく沈黙が訪れた。

「やめておきますか」

 すると倉持さんはアプリを閉じて画面を暗くする。

「後でゆっくり考えます。返信するにしても、君の言う通り炎上したくないので」
「そっか」
「……君がそこまで深く考えるとは思いませんでした」
「ごめん」
「別に今すぐ変われって言っているわけじゃないんですよ。そもそも意識して言葉を発するのは、時に本心と真逆なことを言ってしまいます」

 でも倉持さんが意識させるようなことを教えたんじゃないか。
 なんて心の中で呟いてみる。口には出さない臆病者がやることだ。

「私は単純に、サクラさんの件について君が苦しそうだったから伝えただけです」
「苦しそう…?」

 倉持さんは俺の心を読んだように話してくる。

 苛立つような表情は俺に対してなのか、炎上者に対してなのかはわからない。
 それでも貫くような視線は俺の背筋を真っ直ぐにさせた。

「でも私に掛けてくれた言葉は良い子ちゃんを含んでいても、苦しそうにはしていない。って受け取った私はそう信じたいです」

 眉間に皺を寄せる倉持さん。
 現に苦しそうにしているのはそっちな気がする。

「ああもう!表現の仕方がわからないんです!とにかく深く考えないでください!浅く考えて嫌だと思ったことは否定する。大丈夫だと思ったことは肯定する。それくらいの基準でお願いします!」

 一気に早口で話す倉持さんに俺は口を軽く開ける。
 ここまで感情的になるのは大雨のあの日以来だろうか。

 倉持さんに返事を求められた俺は慌てて頷く。
 そうすれば安心したように表情を緩めて立ち上がった。

「元々の予定とは全然違う感じになってしまいましたね。まぁ炎上の件は気にしないでください」
「…わかった」
「ジュースご馳走様でした。私は帰ります」
「送っていくよ」
「平気です。見送りも結構なので」

 倉持さんは持ち物を手にすると俺に背を向けて部屋の扉を開ける。

「明日の放課後、来る来ないは任せます。それでは」
「うん…」

 静かに扉が閉まるとゆっくりと階段を降りる音が聞こえる。
 いつもの自分なら、拒否されても迷いなく立ち上がって倉持さんの家まで送っていっただろう。

 でも色んなことに自覚してしまった俺は立つことすら億劫だった。

「時々苦しい理由ってこれか?」

 俺以外居ない部屋には答えを教えてくれる人は居ない。
 ローテーブルに腕を置いて頭を乗せると身体は一気に脱力した。

「でも、どのタイミングで俺は苦しいんだよ…」

 自分のことは自分が1番わかっているはずだった。体力の限界も、苦手分野も得意分野も。
 でもそれは所詮外側の俺だった。

 内側の俺を木崎凪斗は何も知らない。
 初めて俺は虚無感というものに襲われた。

 瞬きするたびに浮かび上がるのは、八方美人のように対応している俺。
 そして1人違う方向を見つめている倉持さんの姿だった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...