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3章 誰もが君を嘲笑う
22話 君は誰とも違う
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「私は絶対に受け入れてくれると思ってました。でもそれは私の都合の良い期待だったんです。いつも優しかったあの人が私を引く顔はずっと記憶に残っています」
俺は何も言えなかった。ここで何を言えば正解なのだろう。
頭の中に浮かんでくるものは全部曖昧だ。結局、同じような言葉で相槌を打つことしか出来ない。
「面白くない話ですよね。すみません。忘れてください」
「謝ることはないよ。俺の方こそ辛いのに話させちゃってごめん」
「本当、君に相手してもらっていると余計なことを喋りすぎます」
「俺は嬉しいよ?倉持さんの話が聞けて。百合作品の話をするのも楽しいけど、やっぱりお互いの話をする時が1番好きだな」
玄関の奥ではため息が聞こえる。今日は雨が降っていないお陰ではっきりと耳に届いた。
さて、倉持さんの今回のため息はどんな理由があるのかな。
「なんか今日は負けてばかりですね。私」
「俺達何か勝負していたっけ?」
「私が勝手に思っているだけです。というか、柳百合とも今みたいに話せば良いじゃないんですか?」
「え?今みたいって?」
「いつものように素直に良い子ちゃんしていれば良いんですよ。意識するしないとか君が考えても無駄です」
「な、なるほど?」
倉持さんは深く考えずに素直でいろと言いたいのだろうか。俺は顎に手を当てながら1人納得する。
付き合う経験は無くても、俺よりは恋愛に詳しいはず。
ならば倉持さんのその教えを胸に刻み込まなくては。
「ちなみにこれは私の視点からですが」
「何?」
「君はあの時、柳百合と普通に喋れていましたよ。私は君の真後ろを通って教室に行ったのですからそれは確かです」
俺は倉持さんが久しぶりに登校したあの日の朝を思い出す。
そういえば倉持さんと廊下で鉢合わせた時、俺は柳さんと一緒に居た。
声をかけられることすら無かったが、ちゃんと見てくれていたんだ。
そう思い始めると心の奥底から感動が湧き上がってくる。
「ありがとう。倉持さんに相談して良かったかも!」
倉持さんにとっては面白くない話だったのに、最後の最後に言ってくれた言葉がとても心強い。
本当に単純だ。
自分に笑いながら俺は背中を伸ばすような格好になる。力が入っていた身体は一気に脱力した。
しかし、俺ばかりがモヤモヤを解消するのはおかしい。倉持さんの恋愛の話を考えればヘラヘラなんて出来なかった。
姿勢を正した俺はピッタリ閉まっている玄関と向き合う。
「倉持さんも何か相談したいことがあったら言ってね。恋愛でもその他のことでも良いから」
「じゃあ私好みの女性を見つけてきてもらえますか?」
「ええっ!?」
「冗談です」
まさか倉持さんが冗談を言うとは。意外過ぎて俺は間抜け顔になる。
でも最初の時に比べれば、俺達の仲は着実に縮まっていた。すると静かに玄関の扉が開かれる。
「どうしたの?倉持さん」
前触れもなく顔を覗かせるのも慣れてきた。倉持さんはラフな私服と、ある程度整えた髪を俺に見せながら唇を尖らせる。
「私は、君が柳百合とのお出かけで微妙な失敗をすることを願っています」
それだけ伝えると俺が反応する暇もなく玄関を閉められた。
「…やっぱり俺に嫉妬しているの?」
「さぁ?どうでしょう」
倉持さんの声は少し弾んでいる。それに対して俺の頬は緩んだ。
俺は改めてこの時間がとても楽しいと感じる。佐倉と居る時や、柳さんと話す時とはまた違う。
心の何処かで俺を堰き止めている物が外れるような感覚だ。
一体、何が違うのだろう。
それを知るにはもっと倉持さんと話したほうが良いのかもしれない。
倉持さんと関わっていると何となく別の俺を見つけれる気がした。
「まだ帰らないんですか?」
「もう少し居るよ」
「はぁ」
でもこの時の俺は知らない。知らないからこそ呑気に笑っていた。
数日後、倉持さんのSNSのアカウントに火が燃え移ったことを俺は佐倉から教えられるのだった。
俺は何も言えなかった。ここで何を言えば正解なのだろう。
頭の中に浮かんでくるものは全部曖昧だ。結局、同じような言葉で相槌を打つことしか出来ない。
「面白くない話ですよね。すみません。忘れてください」
「謝ることはないよ。俺の方こそ辛いのに話させちゃってごめん」
「本当、君に相手してもらっていると余計なことを喋りすぎます」
「俺は嬉しいよ?倉持さんの話が聞けて。百合作品の話をするのも楽しいけど、やっぱりお互いの話をする時が1番好きだな」
玄関の奥ではため息が聞こえる。今日は雨が降っていないお陰ではっきりと耳に届いた。
さて、倉持さんの今回のため息はどんな理由があるのかな。
「なんか今日は負けてばかりですね。私」
「俺達何か勝負していたっけ?」
「私が勝手に思っているだけです。というか、柳百合とも今みたいに話せば良いじゃないんですか?」
「え?今みたいって?」
「いつものように素直に良い子ちゃんしていれば良いんですよ。意識するしないとか君が考えても無駄です」
「な、なるほど?」
倉持さんは深く考えずに素直でいろと言いたいのだろうか。俺は顎に手を当てながら1人納得する。
付き合う経験は無くても、俺よりは恋愛に詳しいはず。
ならば倉持さんのその教えを胸に刻み込まなくては。
「ちなみにこれは私の視点からですが」
「何?」
「君はあの時、柳百合と普通に喋れていましたよ。私は君の真後ろを通って教室に行ったのですからそれは確かです」
俺は倉持さんが久しぶりに登校したあの日の朝を思い出す。
そういえば倉持さんと廊下で鉢合わせた時、俺は柳さんと一緒に居た。
声をかけられることすら無かったが、ちゃんと見てくれていたんだ。
そう思い始めると心の奥底から感動が湧き上がってくる。
「ありがとう。倉持さんに相談して良かったかも!」
倉持さんにとっては面白くない話だったのに、最後の最後に言ってくれた言葉がとても心強い。
本当に単純だ。
自分に笑いながら俺は背中を伸ばすような格好になる。力が入っていた身体は一気に脱力した。
しかし、俺ばかりがモヤモヤを解消するのはおかしい。倉持さんの恋愛の話を考えればヘラヘラなんて出来なかった。
姿勢を正した俺はピッタリ閉まっている玄関と向き合う。
「倉持さんも何か相談したいことがあったら言ってね。恋愛でもその他のことでも良いから」
「じゃあ私好みの女性を見つけてきてもらえますか?」
「ええっ!?」
「冗談です」
まさか倉持さんが冗談を言うとは。意外過ぎて俺は間抜け顔になる。
でも最初の時に比べれば、俺達の仲は着実に縮まっていた。すると静かに玄関の扉が開かれる。
「どうしたの?倉持さん」
前触れもなく顔を覗かせるのも慣れてきた。倉持さんはラフな私服と、ある程度整えた髪を俺に見せながら唇を尖らせる。
「私は、君が柳百合とのお出かけで微妙な失敗をすることを願っています」
それだけ伝えると俺が反応する暇もなく玄関を閉められた。
「…やっぱり俺に嫉妬しているの?」
「さぁ?どうでしょう」
倉持さんの声は少し弾んでいる。それに対して俺の頬は緩んだ。
俺は改めてこの時間がとても楽しいと感じる。佐倉と居る時や、柳さんと話す時とはまた違う。
心の何処かで俺を堰き止めている物が外れるような感覚だ。
一体、何が違うのだろう。
それを知るにはもっと倉持さんと話したほうが良いのかもしれない。
倉持さんと関わっていると何となく別の俺を見つけれる気がした。
「まだ帰らないんですか?」
「もう少し居るよ」
「はぁ」
でもこの時の俺は知らない。知らないからこそ呑気に笑っていた。
数日後、倉持さんのSNSのアカウントに火が燃え移ったことを俺は佐倉から教えられるのだった。
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