君の叫びが炎上した理由を俺は知らない

雪村

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3章 誰もが君を嘲笑う

17話 いじめ

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 いじめだ。咄嗟に思った単語がそれだった。
 笑い声に包まれる教室。その中心に居るのは3人の生徒。

 1人はツボに入ったようにお腹を抑え、もう1人は悪気がないと言わんばかりのアホ面でいる。
 そして最後の1人は俯いたままピクリとも動かなくなった。

「お前ら何笑ってんだよ。別に俺、間違ったこと言ってねぇぞ」

 そうだ。佐倉は別に間違ったことを言ってない。でもお前が言わなければ誰も笑わなかった。

「ちょっとデリケートな話題触れんなって!ごめんねぇ倉持。こいつ馬鹿だから!」

 何で笑った自分は謝罪しない?佐倉もだがお前も囃し立てた一員だろ。

「助けろよ、俺…」

 お前が1番わからないよ木崎凪斗。倉持さんの身になって考えれば今の辛さがわかるだろ。

 なのに何で動かないんだよ。何で呟いた声が小さいんだよ。もっと大きな声出してみんなを止めろよ。

「………無理だよ」

 もし大きな声を出したらどうなる?笑いは収まるだろうけど絶対みんなが俺を見るはず。
 「やめろ」と止めたらどうなる?次のターゲットが俺になる。

 瞬時に理解してしまった俺は恐怖に襲われた。俺が標的になったら俺はこの場所に居られるのだろうか。
 不可能だと思う。今度は俺が不登校になる。

 そんな先の未来まで読んでしまえば席から立つどころか声さえも掠れてしまった。

「っ…!」

 そんな時、倉持さんが小さく首を動かす。やけにスローモーションに感じた。
 倉持さんが顔を向けたその先。そこには椅子に縛りつけられている俺が居た。
 
木崎、助けて。

 倉持さんが見せる眼差しにはそんな想いが込められている。恐怖を訴えかけるような瞳は潤んでいて今にも涙が溢れそうだった。

「ねぇ倉持泣いちゃうじゃん!」
「ごめんって。キツく言い過ぎた?」

 優しさを模った罵詈雑言が大きくなる。クラスメイトが盛り上がれば盛り上がるほど俺は動けなくなった。

 何がコソコソで終わるだよ。倉持さんに伝えた俺の予想は大いに外れたじゃないか。
 久しぶりに登校した倉持さんに直接何か言う人は居ないなんて考えは甘すぎた。

 すると倉持さんは俺から視線を外してまた俯く。その姿に自分の呼吸が止まった気がした。

「……帰ります」
「え?何?倉持さんなんて言った?」
「帰ります!!」
「うわっ!ビビった」

 ガタッと音を鳴らしながら立ち上がる倉持さん。肩を組んでいたギャル生徒は目を丸くして、佐倉も同様に固まっていた。

「ちょっ倉持。何怒ってんの?別にちょっとからかっただけじゃん」

 倉持さんはこの地獄から1人で抜け出そうと鞄を持って歩き出す。しかしその足を止めたのはギャル生徒だった。

「ふざけないでください」
「うんうん。ごめんね。ふざけすぎた」
「違います。これの何処がからかいなんですか?人の傷を抉るみたいなことをからかいで済ませるんですか?」

 教室を包んでいた笑い声が次第に収まっていく。それでも全員の視線は倉持さんに集中していた。

 俺は一瞬止まった呼吸を取り戻して静かに息をする。今の俺は、黙って見守るという逃げ道へ走っていた。

「つまんね」

 静粛を破る1人の声。佐倉だ。
 倉持さんの正論に興ざめしたのだろう。飽きたように立っていた場所から離れ始める。

 それを見た倉持さんはクラスメイトの間を掻き分けて教室から出て行った。

 倉持さんが居なくなった教室はいつも通りに戻る。ある人は授業の準備を。またある人はスマホをいじっていた。

「単なるエンタメだろ。ムキになる意味がわからねー」

 呆れたような態度で佐倉は俺の所にやってくる。それでもニヤつく笑みは変わらない。俺はそれに気持ち悪さを感じてしまった。

「さ、佐倉」
「何だよ」
「今のは少しやり過ぎな気が……」
「あ?」

 佐倉の短い声に震えがまた再発する。俺は制服のズボンを強く握りしめた。

「凪斗、雨の音強くて何言ってるか聞こえない。もう少し大きな声で」
「……お腹痛い」
「ん?お腹痛い?」
「トイレ、行ってくる。時間かかるかも」
「あーなるほど。なら早く行っとけ。授業間に合わなかったら先生に言っておくわ」
「うん」

 自分でも不思議に思った。さっきまでは椅子から立ち上がることすら出来なかったのに、クラスメイトがバラけた今ならすんなり動ける。

 佐倉を否定する言葉は出ないのに、逃げる言い訳は流暢に言える。
 初めてここまで自分にイラついた。

「あっ」

 教室から出ようとすると横から小さな声が聞こえる。目だけを向ければ柳さんが気まずそうな顔でこちらを見ていた。

 しかしヘラヘラ笑うギャル生徒に呼ばれてしまいすぐに目を逸らされる。俺は構わず息が詰まるような空間から抜け出した。

「倉持さんを探さなきゃ…」

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