14 / 33
2章 君のためにやっただけなのに
14話 膨れ上がる期待
しおりを挟む
期待通りだった。それでも俺の腕には感動したように鳥肌が立つ。
「そっか」
何でそんな気持ちになったのか色々と聞きたかったが俺は唇を強く閉じる。余計なことは言わないでおこう。
「俺はいつでも待っているよ」
「まだ行くって言ったわけじゃ……」
「うん。わかってる」
倉持さんが学校に行くのは確定ではない。もしかしたら明日には気が変わって拒否する可能性だってある。
しかし1回でもそう思ってくれたのが嬉しくて俺は自然と笑顔になった。
「助けが必要な時は俺に言ってね。もし学校行くってなったら一緒に行こうか?」
「いや、助けはいらないです。むしろ放っておいてください」
「えっ!?」
「それに登校くらい1人で出来ます。小学生じゃあるまいし」
単純に心細いかなと思って言ったのだが…。でも倉持さんには余計なお世話だったみたい。
「ああ、そうだ。一応教えとくよ。教室は席替えしてないから4月の時と同じ」
「そうですか」
「倉持さんの隣の席って誰だっけ?」
「知りません」
やっぱり隣の席さえ興味無いらしい。すると急に雨音が強くなる。
玄関から目を背ければ本降り直前の振り方になっていた。天気予報ではそこまで降らない予定だったのに。
「そろそろ帰ったらどうですか?家の中でも雨の音聞こえてます」
「うん…」
「何でそんな残念そうに」
「もう少しだけ感動に浸りたかった」
「意味がわかりません」
倉持さんは黙り込む。雨の音で聞こえないけど、絶対ため息をついているはずだ。
「でも強くなる前に帰るよ」
「早くそうしてください」
「百合小説の3巻返すのもう少し待ってて」
「早くしなくて良いです」
真逆の答えが返ってきたなと思いながら俺は小さく笑う。口調もいつもの感じに戻ってきてくれているようだ。
やっぱり倉持さんはオドオドしているよりもハッキリとした口調が似合っている。
俺は鞄の中から折りたたみ傘を取り出して帰る準備をした。
「あっ木崎」
「何?」
「最後に1つ聞いて良いですか?」
「勿論。俺が答えられることなら」
「……2年の教室に3年の人が来ていることってあります?」
「3年の?」
俺は質問の意図を深く考えずに記憶を辿る。いつもは佐倉と話しているから他なんて気にしないけど、先輩が来ることは無かったはずだ。
まぁ完全に来ないとは言い切れないが。
「俺の記憶では無い気がするよ。3年の教室は別の階だし、俺達の教室は特別教室から離れているし」
「そうですか。ありがとうございます」
「いいえ。誰か3年の先輩探しているの?」
「違います」
「そう?もし仲良い先輩が居るならコンタクト取ってみようか?」
「結構です。しつこいです」
「ご、ごめん」
じゃあ何でそんなこと聞いたのだろうか。でもまた関連することを質問すれば怒られてしまう。
俺は大人しく折りたたみ傘を持って倉持家から離れようとした。
「それじゃあね」
「…はい」
今日は良い日なのかもしれない。倉持さんが学校に興味を持ってくれて、帰りには返事までしてくれた。
ここに通い続けて約1ヶ月半。やっと努力が実を結んだような気がする。
でもまだ担任にはこのことを言わない方が良いか。あの人なら完全に学校に来てくれると思い込んでしまいそうだ。
俺は傘で雨を凌ぎながら来た道を折り返していく。
いつになるかわからないけど、近いうちに倉持さんは学校に来てくれるかもしれない。
そんな期待は止まることを知らずに俺の中で大きくなっていった。
「そっか」
何でそんな気持ちになったのか色々と聞きたかったが俺は唇を強く閉じる。余計なことは言わないでおこう。
「俺はいつでも待っているよ」
「まだ行くって言ったわけじゃ……」
「うん。わかってる」
倉持さんが学校に行くのは確定ではない。もしかしたら明日には気が変わって拒否する可能性だってある。
しかし1回でもそう思ってくれたのが嬉しくて俺は自然と笑顔になった。
「助けが必要な時は俺に言ってね。もし学校行くってなったら一緒に行こうか?」
「いや、助けはいらないです。むしろ放っておいてください」
「えっ!?」
「それに登校くらい1人で出来ます。小学生じゃあるまいし」
単純に心細いかなと思って言ったのだが…。でも倉持さんには余計なお世話だったみたい。
「ああ、そうだ。一応教えとくよ。教室は席替えしてないから4月の時と同じ」
「そうですか」
「倉持さんの隣の席って誰だっけ?」
「知りません」
やっぱり隣の席さえ興味無いらしい。すると急に雨音が強くなる。
玄関から目を背ければ本降り直前の振り方になっていた。天気予報ではそこまで降らない予定だったのに。
「そろそろ帰ったらどうですか?家の中でも雨の音聞こえてます」
「うん…」
「何でそんな残念そうに」
「もう少しだけ感動に浸りたかった」
「意味がわかりません」
倉持さんは黙り込む。雨の音で聞こえないけど、絶対ため息をついているはずだ。
「でも強くなる前に帰るよ」
「早くそうしてください」
「百合小説の3巻返すのもう少し待ってて」
「早くしなくて良いです」
真逆の答えが返ってきたなと思いながら俺は小さく笑う。口調もいつもの感じに戻ってきてくれているようだ。
やっぱり倉持さんはオドオドしているよりもハッキリとした口調が似合っている。
俺は鞄の中から折りたたみ傘を取り出して帰る準備をした。
「あっ木崎」
「何?」
「最後に1つ聞いて良いですか?」
「勿論。俺が答えられることなら」
「……2年の教室に3年の人が来ていることってあります?」
「3年の?」
俺は質問の意図を深く考えずに記憶を辿る。いつもは佐倉と話しているから他なんて気にしないけど、先輩が来ることは無かったはずだ。
まぁ完全に来ないとは言い切れないが。
「俺の記憶では無い気がするよ。3年の教室は別の階だし、俺達の教室は特別教室から離れているし」
「そうですか。ありがとうございます」
「いいえ。誰か3年の先輩探しているの?」
「違います」
「そう?もし仲良い先輩が居るならコンタクト取ってみようか?」
「結構です。しつこいです」
「ご、ごめん」
じゃあ何でそんなこと聞いたのだろうか。でもまた関連することを質問すれば怒られてしまう。
俺は大人しく折りたたみ傘を持って倉持家から離れようとした。
「それじゃあね」
「…はい」
今日は良い日なのかもしれない。倉持さんが学校に興味を持ってくれて、帰りには返事までしてくれた。
ここに通い続けて約1ヶ月半。やっと努力が実を結んだような気がする。
でもまだ担任にはこのことを言わない方が良いか。あの人なら完全に学校に来てくれると思い込んでしまいそうだ。
俺は傘で雨を凌ぎながら来た道を折り返していく。
いつになるかわからないけど、近いうちに倉持さんは学校に来てくれるかもしれない。
そんな期待は止まることを知らずに俺の中で大きくなっていった。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる