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2章 君のためにやっただけなのに
9話 中間テストの打ち上げ
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「中間テストお疲れー!」
明るい女子の掛け声でファミレスに居る生徒達は盛り上がる。
中間テストが終わった今日、佐倉に誘われた打ち上げに俺は参加していた。
「英語マジでわからなかった」
「本当それ。国数英理社無理だわ」
「全滅じゃねーか」
ここに居る人達は佐倉以外そこまで話すわけではない。女子は勿論、男子との接点も薄かった。
正直緊張しているけど隣に佐倉が居れば何とかなるだろう。
最近は放課後に倉持さんの所に行っていたからこういう付き合いは少なくなっていた。
だからこそ、佐倉から発せられる「打ち上げに来るよな?」の圧に大人しく従ったのである。
「ポテトと何頼むー?」
「ステーキ頼もうぜ。お疲れ様ってことで」
「おい、佐倉。誰が食うんだよ」
「俺と凪斗」
すると急に俺の名前が出てきて驚く。不意打ちを食らったようだ。
隣に居る佐倉は注文タブレットを俺に見せつけてニヤつく。そこには大きな1枚のステーキが表示されていた。
「食うだろ?」
「えっと……まさか1人1つ?」
「凪斗がそうしたいならそれで良いぜ」
「いや。流石に1枚は多い」
「なら2人で食うか」
佐倉がステーキを注文すると他のクラスメイト達が面白おかしく笑う。流れを感じ取って頷いたけど、痛い出費だ。
ポテトとドリンクバーだけならまだしも、約1500円のステーキを頼むことになるなんて。
勿論佐倉と割り勘だろうけど頼まなくて良いものを頼んでしまった。
「そういえば中間テストにも倉持来なかったよね?退学になるんじゃない?」
ひと通り注文が終わるとギャルのような生徒が呆れた態度で話題を出す。
そうすれば周りのみんなはおもちゃを見つけたように食いついた。
「つーか倉持さんのアカウントって今見れんの?」
「鍵掛かってる」
「削除はしないんだねー」
「でも炎上した投稿はスクショで出回っているぜ」
隣に座る佐倉はスマホを操作してテーブルの中心に置く。倉持さんのアカウントが呟いた投稿が再度みんなに晒された。
「そうそうこれ!ジジババ達!」
「ジジババの言い方ウケるよな」
「あたし最初信じらんなかったもん。あの倉持がこんなこと言うはずないって」
「人間の本性が現れるSNSって怖いよなぁ」
ゲラゲラ笑うクラスメイトの会話を聞きながら俺はジュースを飲む。
視線は佐倉のスマホではなく、何も置かれてないテーブルに向けられていた。
炎上から1ヶ月以上経ったお陰で頻繁にこの話題を聞くことは無くなった。
それでも誰かが話せば全員が釣られて笑う。
倉持さんの学校面は心配だけど、こんなクラスに行くことを勧める必要はないのかもしれないな。
「ドリンクバー行ってくる」
「あー凪斗。じゃあこれも」
「何が良い?」
「コーラ」
少しでも倉持さんの炎上を笑う声を避けたくて俺はドリンクバーに向かう。
佐倉のコップを持ってテーブルから離れれば小さな開放感が心に広がった。
「木崎くん」
「ん?」
まずは佐倉の分のコーラをと思っていた時、後ろから声をかけられる。振り向けば今日一緒に来た別グループの女子がコップを持っていた。
「えっと、柳さん?先に使う?」
「ううん。お先どうぞ」
確か柳さんはあのギャル生徒と一緒に居る子だ。でもギャルには程遠く、大人しめな印象を受ける。
それでも倉持さんとはまた違うタイプで喋れば明るく返してくれるようなイメージだった。
「みんなよく飽きないよね」
「え?」
「倉持さんの炎上。木崎くんもそこまで気にしているわけではないでしょ?」
「もしかして柳さんも?」
「うん。だって炎上呟きなんて日常茶飯事じゃん。それがたまたま同じクラスだったってわけで、別に珍しいことじゃない」
佐倉にステーキを注文された時とは別の驚きだ。今日来たメンバーは俺以外全員が炎上ネタについて興味津々な人達だと思っていた。
しかし柳さんは違う。俺と考えていることは同じではないけど、今更炎上を擦る必要性を感じない部類だった。
「コーラ溢れちゃうよ」
「あっ」
仲間が出来たような気になっているとコーラがタプタプまで注がれているのを教えてくれる。
慌ててドリンクバーのボタンを止めれば十分なほどにコーラが入っていた。
「じゃあ次どうぞ」
「それ佐倉くんのでしょ?木崎くんの分やっちゃいなよ」
「いや先に佐倉のを持っていくから。片手だと溢れそうで危ないし」
「そっか」
俺は自分のコップを端の方に置いたまま一度みんなの所へ戻る。限界まで注がれた佐倉のコーラにクラスメイトは笑っていた。
佐倉に関しては「どうやって飲むんだよ!」と言いながら慎重に口を付けている。
そしてまたドリンクバーに戻れば柳さんはにこやかに微笑みながら待っていた。
「溢れなかった?」
「ギリギリ大丈夫だったよ」
「木崎くんは何飲むの?注ごうか?」
「えっ、ああ。ならお願いしようかな。メロンソーダで」
「OK」
もしかして柳さんは、炎上の話題をなるべく聴きたくないから時間稼ぎをしているのだろうか。
わざわざ注いでくれるということはそうなのかもしれない。
そんな推理しながら俺は、コップに入っていくメロンソーダを見つめた。
「ねぇ木崎くん」
「何?」
「帰り、連絡先交換しない?」
「俺なんかで良ければ」
「ありがとう。明日から土日になっちゃうし交換するなら今日かなって」
柳さんは注ぎ終わったコップを渡してくれる。
そうだ、明日は土曜日だ。今週はあっという間に過ぎて行ったな。
火曜日から始まった中間テストの日から俺は倉持さんの家に通うことは無かった。
先生もテストだからと気遣ってお便りを渡さなかったのだ。
俺からしたら単純にありがたい。だってあんなことを言って立ち去ってしまったのだから。
でももしかしたら来週の月曜日にはまた……。
「木崎くん?」
「あっごめん。ボーッとしてた」
「疲れてるなら帰る?無理しない方が良いよ」
「大丈夫。この後ステーキ食べるし」
「ふふっ、そうだった。でも無理しないでね。行こう」
「うん」
最近はずっと倉持さんの刺々しい言葉を受けていたからだろうか。柳さんの優しさが身に染み渡っていく。
今は余計なことを考えずに打ち上げを楽しもう。
ジュースを持った俺達は2人並んで盛り上がっているテーブルへと戻って行った。
明るい女子の掛け声でファミレスに居る生徒達は盛り上がる。
中間テストが終わった今日、佐倉に誘われた打ち上げに俺は参加していた。
「英語マジでわからなかった」
「本当それ。国数英理社無理だわ」
「全滅じゃねーか」
ここに居る人達は佐倉以外そこまで話すわけではない。女子は勿論、男子との接点も薄かった。
正直緊張しているけど隣に佐倉が居れば何とかなるだろう。
最近は放課後に倉持さんの所に行っていたからこういう付き合いは少なくなっていた。
だからこそ、佐倉から発せられる「打ち上げに来るよな?」の圧に大人しく従ったのである。
「ポテトと何頼むー?」
「ステーキ頼もうぜ。お疲れ様ってことで」
「おい、佐倉。誰が食うんだよ」
「俺と凪斗」
すると急に俺の名前が出てきて驚く。不意打ちを食らったようだ。
隣に居る佐倉は注文タブレットを俺に見せつけてニヤつく。そこには大きな1枚のステーキが表示されていた。
「食うだろ?」
「えっと……まさか1人1つ?」
「凪斗がそうしたいならそれで良いぜ」
「いや。流石に1枚は多い」
「なら2人で食うか」
佐倉がステーキを注文すると他のクラスメイト達が面白おかしく笑う。流れを感じ取って頷いたけど、痛い出費だ。
ポテトとドリンクバーだけならまだしも、約1500円のステーキを頼むことになるなんて。
勿論佐倉と割り勘だろうけど頼まなくて良いものを頼んでしまった。
「そういえば中間テストにも倉持来なかったよね?退学になるんじゃない?」
ひと通り注文が終わるとギャルのような生徒が呆れた態度で話題を出す。
そうすれば周りのみんなはおもちゃを見つけたように食いついた。
「つーか倉持さんのアカウントって今見れんの?」
「鍵掛かってる」
「削除はしないんだねー」
「でも炎上した投稿はスクショで出回っているぜ」
隣に座る佐倉はスマホを操作してテーブルの中心に置く。倉持さんのアカウントが呟いた投稿が再度みんなに晒された。
「そうそうこれ!ジジババ達!」
「ジジババの言い方ウケるよな」
「あたし最初信じらんなかったもん。あの倉持がこんなこと言うはずないって」
「人間の本性が現れるSNSって怖いよなぁ」
ゲラゲラ笑うクラスメイトの会話を聞きながら俺はジュースを飲む。
視線は佐倉のスマホではなく、何も置かれてないテーブルに向けられていた。
炎上から1ヶ月以上経ったお陰で頻繁にこの話題を聞くことは無くなった。
それでも誰かが話せば全員が釣られて笑う。
倉持さんの学校面は心配だけど、こんなクラスに行くことを勧める必要はないのかもしれないな。
「ドリンクバー行ってくる」
「あー凪斗。じゃあこれも」
「何が良い?」
「コーラ」
少しでも倉持さんの炎上を笑う声を避けたくて俺はドリンクバーに向かう。
佐倉のコップを持ってテーブルから離れれば小さな開放感が心に広がった。
「木崎くん」
「ん?」
まずは佐倉の分のコーラをと思っていた時、後ろから声をかけられる。振り向けば今日一緒に来た別グループの女子がコップを持っていた。
「えっと、柳さん?先に使う?」
「ううん。お先どうぞ」
確か柳さんはあのギャル生徒と一緒に居る子だ。でもギャルには程遠く、大人しめな印象を受ける。
それでも倉持さんとはまた違うタイプで喋れば明るく返してくれるようなイメージだった。
「みんなよく飽きないよね」
「え?」
「倉持さんの炎上。木崎くんもそこまで気にしているわけではないでしょ?」
「もしかして柳さんも?」
「うん。だって炎上呟きなんて日常茶飯事じゃん。それがたまたま同じクラスだったってわけで、別に珍しいことじゃない」
佐倉にステーキを注文された時とは別の驚きだ。今日来たメンバーは俺以外全員が炎上ネタについて興味津々な人達だと思っていた。
しかし柳さんは違う。俺と考えていることは同じではないけど、今更炎上を擦る必要性を感じない部類だった。
「コーラ溢れちゃうよ」
「あっ」
仲間が出来たような気になっているとコーラがタプタプまで注がれているのを教えてくれる。
慌ててドリンクバーのボタンを止めれば十分なほどにコーラが入っていた。
「じゃあ次どうぞ」
「それ佐倉くんのでしょ?木崎くんの分やっちゃいなよ」
「いや先に佐倉のを持っていくから。片手だと溢れそうで危ないし」
「そっか」
俺は自分のコップを端の方に置いたまま一度みんなの所へ戻る。限界まで注がれた佐倉のコーラにクラスメイトは笑っていた。
佐倉に関しては「どうやって飲むんだよ!」と言いながら慎重に口を付けている。
そしてまたドリンクバーに戻れば柳さんはにこやかに微笑みながら待っていた。
「溢れなかった?」
「ギリギリ大丈夫だったよ」
「木崎くんは何飲むの?注ごうか?」
「えっ、ああ。ならお願いしようかな。メロンソーダで」
「OK」
もしかして柳さんは、炎上の話題をなるべく聴きたくないから時間稼ぎをしているのだろうか。
わざわざ注いでくれるということはそうなのかもしれない。
そんな推理しながら俺は、コップに入っていくメロンソーダを見つめた。
「ねぇ木崎くん」
「何?」
「帰り、連絡先交換しない?」
「俺なんかで良ければ」
「ありがとう。明日から土日になっちゃうし交換するなら今日かなって」
柳さんは注ぎ終わったコップを渡してくれる。
そうだ、明日は土曜日だ。今週はあっという間に過ぎて行ったな。
火曜日から始まった中間テストの日から俺は倉持さんの家に通うことは無かった。
先生もテストだからと気遣ってお便りを渡さなかったのだ。
俺からしたら単純にありがたい。だってあんなことを言って立ち去ってしまったのだから。
でももしかしたら来週の月曜日にはまた……。
「木崎くん?」
「あっごめん。ボーッとしてた」
「疲れてるなら帰る?無理しない方が良いよ」
「大丈夫。この後ステーキ食べるし」
「ふふっ、そうだった。でも無理しないでね。行こう」
「うん」
最近はずっと倉持さんの刺々しい言葉を受けていたからだろうか。柳さんの優しさが身に染み渡っていく。
今は余計なことを考えずに打ち上げを楽しもう。
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