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10章 炎国王と氷の側近
52話 不意打ち告白
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「アハハッ!イグニ様ったらフラれてやんの!それよりもフレイヤ様はこんなイグニ様を見て大丈夫?」
「ええ。もう吹っ切れた部分もあるから」
中庭での微笑ましい光景を私とヒメナ様は上の階から見ていた。騎士団長から国王補佐官になった私フレイヤはイグニ国王との婚約関係を解消した。
その理由は、私と結ばれればイグニ国王はきっと心の底から笑ってくれないから。それが嫌なだけで私は自ら許嫁の立場から去ったのだ。伝えた時のイグニ様の顔は今でも笑ってしまうほどにポカーンとしていたのを覚えている。
「にしてもフレイヤ様って強いよね。ひと殴りくらいイグニ様にぶちかましても良いんだよ?」
「流石に出来ないわよ」
「なら私が代わりにやってあげようか?」
「遠慮しておくわ」
ヒメナ様とはここ数ヶ月でやっと打ち解けた気がする。元々はイグニ国王の従者と騎士団長の立場だったのでそこまで親交は深くなかった。
しかし突然ヒメナ様が補佐官になった私の元に来たと思えば、今回の戦争を記した本を書きたいと言い出し手伝わされたのだ。別に断る理由も無かったので手伝った結果が今に繋がる。
まるで姉妹のような関係性になった私達はお互いに敬語も抜けてラフな感じで喋るようになった。
「でも私心配だよ」
「何で?」
「あれだけ体張ってイグニ様を守ったのに結果的にはこうなっちゃったでしょ?なんか腑に落ちなくてさ」
「イグニ国王を守ったのはあの人が次のヒートヘイズを担う者だからよ」
「嘘つき。本当は好きだったくせに」
「……」
確かに好きだ。それは今だって続いている。フロス様に見せる笑顔を私にも向けてくれたらと何度願っただろう。
けれども全ては私が決めたことだ。このことに関しては、先代国王である焔の神も認めている。私は廊下の壁に背中を預けて寄りかかるように力を抜いた。
「いつかヒメナ様もわかるわよ。好きな人には幸せになって笑って欲しいって思う気持ちが」
「ふーん」
少しカッコつけすぎだろうか。それでもこれが私の本心なのだから仕方ない。これからも私はイグニ国王の補佐官として近くで生きることになる。
だからこそ笑っていて欲しかった。初めて見たあの時の笑顔と同じ表情で。
「じゃあこれからフレイヤ様はどうするの?新しいお相手候補とか」
「残念ながら今の所居ないわね。まぁしばらくは補佐官として忙しくなると思うし別に」
「なら私を候補にする?」
「何言ってるのよ」
ヒメナ様の爆弾発言に私は耳を疑いながら顔を向ける。しかしヒメナ様は真剣な顔をしていながらも私を見て微笑んでいた。
「あまり年上をからかわないの」
「からかってなんかいないよ?だって他の変な奴に渡すよりは私の方が幸せにできるかなぁって思ってさ」
「さっきから本当何言って」
「イグニ様ならきっと認めてくれるよ!あ、何なら今から恋人になっちゃう?私誰かと付き合うなんて初めてだから至らない所もあると思うけど…」
「だ、だから急に何なの!?」
このまま彼女を喋らせたら色々と取り返しのつかないことになりそうだ。私は黙らせようとヒメナ様の口に両手を当てると、何だか嬉しそうに笑っている。
「ふへいひゃ様のふぇほほひいね」
「え?」
「フレイヤ様の手大きいね。なんか安心する手」
「なっ…!」
別に心臓が跳ねたわけではない。ただ、ヒメナ様の笑顔がイグニ国王と重なってしまったのだ。そんな私の気も知らずにヒメナ様は自分の手と私の重ねてくる。
「ねぇねぇ今から逢瀬行く?」
「行かないわよ」
一難去ってまた一難というやつだ。せっかくイグニ国王から解放されたと思ったけど、今度は予想もしない人物に捕まってしまった。
私は呑気に笑っているヒメナ様の手にせめてもの抵抗で強く力を入れればまた太陽のような笑顔を見せてくれた。
「ええ。もう吹っ切れた部分もあるから」
中庭での微笑ましい光景を私とヒメナ様は上の階から見ていた。騎士団長から国王補佐官になった私フレイヤはイグニ国王との婚約関係を解消した。
その理由は、私と結ばれればイグニ国王はきっと心の底から笑ってくれないから。それが嫌なだけで私は自ら許嫁の立場から去ったのだ。伝えた時のイグニ様の顔は今でも笑ってしまうほどにポカーンとしていたのを覚えている。
「にしてもフレイヤ様って強いよね。ひと殴りくらいイグニ様にぶちかましても良いんだよ?」
「流石に出来ないわよ」
「なら私が代わりにやってあげようか?」
「遠慮しておくわ」
ヒメナ様とはここ数ヶ月でやっと打ち解けた気がする。元々はイグニ国王の従者と騎士団長の立場だったのでそこまで親交は深くなかった。
しかし突然ヒメナ様が補佐官になった私の元に来たと思えば、今回の戦争を記した本を書きたいと言い出し手伝わされたのだ。別に断る理由も無かったので手伝った結果が今に繋がる。
まるで姉妹のような関係性になった私達はお互いに敬語も抜けてラフな感じで喋るようになった。
「でも私心配だよ」
「何で?」
「あれだけ体張ってイグニ様を守ったのに結果的にはこうなっちゃったでしょ?なんか腑に落ちなくてさ」
「イグニ国王を守ったのはあの人が次のヒートヘイズを担う者だからよ」
「嘘つき。本当は好きだったくせに」
「……」
確かに好きだ。それは今だって続いている。フロス様に見せる笑顔を私にも向けてくれたらと何度願っただろう。
けれども全ては私が決めたことだ。このことに関しては、先代国王である焔の神も認めている。私は廊下の壁に背中を預けて寄りかかるように力を抜いた。
「いつかヒメナ様もわかるわよ。好きな人には幸せになって笑って欲しいって思う気持ちが」
「ふーん」
少しカッコつけすぎだろうか。それでもこれが私の本心なのだから仕方ない。これからも私はイグニ国王の補佐官として近くで生きることになる。
だからこそ笑っていて欲しかった。初めて見たあの時の笑顔と同じ表情で。
「じゃあこれからフレイヤ様はどうするの?新しいお相手候補とか」
「残念ながら今の所居ないわね。まぁしばらくは補佐官として忙しくなると思うし別に」
「なら私を候補にする?」
「何言ってるのよ」
ヒメナ様の爆弾発言に私は耳を疑いながら顔を向ける。しかしヒメナ様は真剣な顔をしていながらも私を見て微笑んでいた。
「あまり年上をからかわないの」
「からかってなんかいないよ?だって他の変な奴に渡すよりは私の方が幸せにできるかなぁって思ってさ」
「さっきから本当何言って」
「イグニ様ならきっと認めてくれるよ!あ、何なら今から恋人になっちゃう?私誰かと付き合うなんて初めてだから至らない所もあると思うけど…」
「だ、だから急に何なの!?」
このまま彼女を喋らせたら色々と取り返しのつかないことになりそうだ。私は黙らせようとヒメナ様の口に両手を当てると、何だか嬉しそうに笑っている。
「ふへいひゃ様のふぇほほひいね」
「え?」
「フレイヤ様の手大きいね。なんか安心する手」
「なっ…!」
別に心臓が跳ねたわけではない。ただ、ヒメナ様の笑顔がイグニ国王と重なってしまったのだ。そんな私の気も知らずにヒメナ様は自分の手と私の重ねてくる。
「ねぇねぇ今から逢瀬行く?」
「行かないわよ」
一難去ってまた一難というやつだ。せっかくイグニ国王から解放されたと思ったけど、今度は予想もしない人物に捕まってしまった。
私は呑気に笑っているヒメナ様の手にせめてもの抵抗で強く力を入れればまた太陽のような笑顔を見せてくれた。
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