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10章 炎国王と氷の側近
50話 両国会議
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『歴史に残るであろう戦争は、歴史的な速さで幕を閉じた。その立役者になったのはヒートヘイズの新国王イグニと雪の女神フロス。フロスはこの戦争で女神としての力を失ってしまったが、アイシクルの女王の側近として国を支えている。この2人が炎の国ヒートヘイズと氷の国のアイシクルの架け橋となることを願う』
ヒダカに見せてもらった戦争のことを記した本の一節を読んで僕は何度も目を擦る。
「ヒダカ、正直に言ってくれ。これ本当にヒメナが書いたのか?」
「偽りなく申し上げます。本当にヒメナが書きました。自分が後世に伝える文章を書くと言い出して、まさか書き切るとはワタクシも思っていませんでしたが」
今回の戦争は2度とあってはならないということをヒートヘイズとアイシクルは誓った。意外とすんなり平和条約が結べたのはきっとフロスがダイヤの側に付くことになったからだろう。
それは嬉しいことなのだが、取り組まなければならない課題が山ほどあるのには変わらない。今日は我がヒートヘイズの城で両国の会議が行われる予定だった。
その待ち時間に執務室でヒダカから本を見せてもらったのだけど……。やはりこの文章がヒメナが書いたとは思えない。誰かに手伝わせたのか?
「失礼します。イグニ国王」
「ああ、フレイヤ。入ってくれ」
執務室の扉が開くと同時に入って来たのは元騎士団長のフレイヤ。戦争後正式に騎士団長の座を降り前線から離れ、僕の補佐官として国のために動いてくれている。そんなフレイヤの片腕は氷による低温火傷によって包帯が巻かれていた。
「腕の調子はどうだ?」
「多少は跡が残ると思われますが問題ありません。私なんかよりもイグニ国王の方が酷いでしょう?」
「まぁな。でも自分が思ったよりはマシだった。最悪腕が動かなくなるとも考えていたから」
「それなら何よりです。確かその本はヒメナ様が書かれた…」
「フレイヤも読んだのか?結構出来が良すぎてあいつが書いたとは思えない文章だった。戦争から少しだけ時が経ったとはいえ、これだけの情報を集めるのも大変だっただろうし」
「……」
「フレイヤ?」
「あまり詳しくは言えませんが、ヒメナ様は頑張りましたよ。途中躓いて泣きついた時には諦めると思いましたが」
「まさか、フレイヤが手伝ってくれたのか?」
「ヒメナ様には内緒だと言われていますがイグニ国王に嘘はつけません」
やはり1人で書いたわけではないのだな。それを知ったヒダカは僕の後ろで大きなため息をつく。これを完成した時ヒメナは1人で書き切ったとドヤ顔で持って来たのだから。
「それはそうと、アイシクルの馬車がお見えになりました」
「わかった。すぐに会場へ向かおう」
やっと久しぶりにフロスに会える。僕は少し上機嫌になりながらヒダカとフレイヤを連れ執務室を出る。廊下の窓からは何台かのアイシクルの馬車が見えて自然と口角が上がった。
ーーーーーー
「今回はお招き頂き感謝いたしますわ。イグニ国王」
「こちらこそ忙しい中ヒートヘイズに出向いてくれて感謝する。女王ダイヤ」
会議室に入れば既にアイシクル王族は居て、早速お決まりの挨拶を交わす。ダイヤの隣にはフロスも居て僕と目が合えば小さくお辞儀をしてくれた。
「今回の件はアイシクルの責任にあります。重ねてお詫び申し上げますわ」
「もう大丈夫だ。ヒートヘイズとアイシクルは平和条約を結んで同盟国となった。これから手を取って歩めば良い」
「その言葉に救われるばかりですわ」
向かい合って座ったヒートヘイズとアイシクルは両国の課題点について話す。まずは国の復興。と言っても1夜で終わった戦争なので国自体が深刻な状況というわけではない。
けれど、ヒートヘイズ領の半分は焼けこげたり地面が抉られていたりと直さないといけなかった。
「次にお互いの国の異変について調べ上げましたわ。グレイシャー公、話してくださる?」
「かしこまりました」
戦争でフロスに氷漬けされたグレイシャー公は元々ダイヤの右腕として活躍していたようだ。関所で会った時も実は周辺の調査をしていたらしい。
半分は侵略の企み、もう半分は単純な自然調査だったと後から聞いた。でも未だ鋭い視線を向けられるのは無視しておこう。きっと僕の猿発言が忘れられないんだと思う。
「以前アイシクルの国境付近にあった氷が溶け始めたことについて調べたところ、ヒートヘイズから来る熱風が原因と考えられます」
「熱風か。しかしヒートヘイズ側では確認されなかった。ただの自然現象か…?」
「あくまで考えられるだけです。もう少し詳しく調べればまた違った原因が見えてくるかもしれません」
「ありがとうグレイシャー公。僕達の方でも色々と調べてみるよ」
熱風がアイシクルの氷を溶かしていた。その事実は戦争が終わった後に知ったことだ。それも女王が戦争を起こしたきっかけの1つと聞いている。もう少し自然に関しても目を向けなければならないな。後でヒダカ達とも話し合おう。
「イグニ様、会議中失礼します!」
「ヒメナか。入ってくれ」
すると外から慣れない敬語を使うヒメナの声が聞こえてくる。僕が返事をしたと同時に扉が開いて、ワゴンを押すヒメナが現れた。
「少し休憩にしよう。こちら、ヒートヘイズの名物篝火クレープだ」
長々と会議が続けばみんな頭が痛くなってしまうだろうと思って僕が事前に頼んでおいた。しかしヒメナが持って来た篝火クレープは僕が頼んだ個数よりも多い気がするのだが…。
「菓子屋の店主が張り切った結果です!」
「だろうな……」
ワゴンには倍の個数のクレープが並べられている。苦笑いをする僕らヒートヘイズの人間とは反対に女王を始めとするアイシクルの人間は篝火クレープに目を輝かせていた。
フロスも初めて食べる篝火クレープに嬉しそうな顔をする。僕は心の中でその顔が見たかったんだとガッツポーズをした。
ヒダカに見せてもらった戦争のことを記した本の一節を読んで僕は何度も目を擦る。
「ヒダカ、正直に言ってくれ。これ本当にヒメナが書いたのか?」
「偽りなく申し上げます。本当にヒメナが書きました。自分が後世に伝える文章を書くと言い出して、まさか書き切るとはワタクシも思っていませんでしたが」
今回の戦争は2度とあってはならないということをヒートヘイズとアイシクルは誓った。意外とすんなり平和条約が結べたのはきっとフロスがダイヤの側に付くことになったからだろう。
それは嬉しいことなのだが、取り組まなければならない課題が山ほどあるのには変わらない。今日は我がヒートヘイズの城で両国の会議が行われる予定だった。
その待ち時間に執務室でヒダカから本を見せてもらったのだけど……。やはりこの文章がヒメナが書いたとは思えない。誰かに手伝わせたのか?
「失礼します。イグニ国王」
「ああ、フレイヤ。入ってくれ」
執務室の扉が開くと同時に入って来たのは元騎士団長のフレイヤ。戦争後正式に騎士団長の座を降り前線から離れ、僕の補佐官として国のために動いてくれている。そんなフレイヤの片腕は氷による低温火傷によって包帯が巻かれていた。
「腕の調子はどうだ?」
「多少は跡が残ると思われますが問題ありません。私なんかよりもイグニ国王の方が酷いでしょう?」
「まぁな。でも自分が思ったよりはマシだった。最悪腕が動かなくなるとも考えていたから」
「それなら何よりです。確かその本はヒメナ様が書かれた…」
「フレイヤも読んだのか?結構出来が良すぎてあいつが書いたとは思えない文章だった。戦争から少しだけ時が経ったとはいえ、これだけの情報を集めるのも大変だっただろうし」
「……」
「フレイヤ?」
「あまり詳しくは言えませんが、ヒメナ様は頑張りましたよ。途中躓いて泣きついた時には諦めると思いましたが」
「まさか、フレイヤが手伝ってくれたのか?」
「ヒメナ様には内緒だと言われていますがイグニ国王に嘘はつけません」
やはり1人で書いたわけではないのだな。それを知ったヒダカは僕の後ろで大きなため息をつく。これを完成した時ヒメナは1人で書き切ったとドヤ顔で持って来たのだから。
「それはそうと、アイシクルの馬車がお見えになりました」
「わかった。すぐに会場へ向かおう」
やっと久しぶりにフロスに会える。僕は少し上機嫌になりながらヒダカとフレイヤを連れ執務室を出る。廊下の窓からは何台かのアイシクルの馬車が見えて自然と口角が上がった。
ーーーーーー
「今回はお招き頂き感謝いたしますわ。イグニ国王」
「こちらこそ忙しい中ヒートヘイズに出向いてくれて感謝する。女王ダイヤ」
会議室に入れば既にアイシクル王族は居て、早速お決まりの挨拶を交わす。ダイヤの隣にはフロスも居て僕と目が合えば小さくお辞儀をしてくれた。
「今回の件はアイシクルの責任にあります。重ねてお詫び申し上げますわ」
「もう大丈夫だ。ヒートヘイズとアイシクルは平和条約を結んで同盟国となった。これから手を取って歩めば良い」
「その言葉に救われるばかりですわ」
向かい合って座ったヒートヘイズとアイシクルは両国の課題点について話す。まずは国の復興。と言っても1夜で終わった戦争なので国自体が深刻な状況というわけではない。
けれど、ヒートヘイズ領の半分は焼けこげたり地面が抉られていたりと直さないといけなかった。
「次にお互いの国の異変について調べ上げましたわ。グレイシャー公、話してくださる?」
「かしこまりました」
戦争でフロスに氷漬けされたグレイシャー公は元々ダイヤの右腕として活躍していたようだ。関所で会った時も実は周辺の調査をしていたらしい。
半分は侵略の企み、もう半分は単純な自然調査だったと後から聞いた。でも未だ鋭い視線を向けられるのは無視しておこう。きっと僕の猿発言が忘れられないんだと思う。
「以前アイシクルの国境付近にあった氷が溶け始めたことについて調べたところ、ヒートヘイズから来る熱風が原因と考えられます」
「熱風か。しかしヒートヘイズ側では確認されなかった。ただの自然現象か…?」
「あくまで考えられるだけです。もう少し詳しく調べればまた違った原因が見えてくるかもしれません」
「ありがとうグレイシャー公。僕達の方でも色々と調べてみるよ」
熱風がアイシクルの氷を溶かしていた。その事実は戦争が終わった後に知ったことだ。それも女王が戦争を起こしたきっかけの1つと聞いている。もう少し自然に関しても目を向けなければならないな。後でヒダカ達とも話し合おう。
「イグニ様、会議中失礼します!」
「ヒメナか。入ってくれ」
すると外から慣れない敬語を使うヒメナの声が聞こえてくる。僕が返事をしたと同時に扉が開いて、ワゴンを押すヒメナが現れた。
「少し休憩にしよう。こちら、ヒートヘイズの名物篝火クレープだ」
長々と会議が続けばみんな頭が痛くなってしまうだろうと思って僕が事前に頼んでおいた。しかしヒメナが持って来た篝火クレープは僕が頼んだ個数よりも多い気がするのだが…。
「菓子屋の店主が張り切った結果です!」
「だろうな……」
ワゴンには倍の個数のクレープが並べられている。苦笑いをする僕らヒートヘイズの人間とは反対に女王を始めとするアイシクルの人間は篝火クレープに目を輝かせていた。
フロスも初めて食べる篝火クレープに嬉しそうな顔をする。僕は心の中でその顔が見たかったんだとガッツポーズをした。
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