上 下
38 / 53
8章 炎と氷が交わる地獄

38話 3人の火の子達

しおりを挟む
「はぁ……。全くとんでもないことをしてくれたものですわ」

「それはこっちのセリフだ。ヒートヘイズを侵略して何をするつもりだ?」

「内緒」

「可愛い子ぶるな。お前がどんな大義を理由にしようと、人を傷つける行為は許されない。ここで拘束させてもらう」

「殺さないのかしら?」

「殺す考えは僕にはない」

「そういう甘ったるい考えが、悲劇を生むのですよ」


女王は次々にアイスマンを出してくる。一度に10数体を出せるようで僕を囲むように迫ってきた。


「ヒートヘイズの王子イグニを殺しなさい!」


その命令に従うようにアイスマンは僕に向かって走り出してくる。僕は手に炎を宿し、回転するように体を動かせばその熱がアイスマンに伝わり行動が止まる。

その隙に父上から借りた剣で叩きつければバラバラになったアイスマンが高い気温によって溶け出してくれた。しかし女王は僕に休ませる暇もなく次のアイスマンを形成する。


「キリがないな…」


フェニックスの炎を2回見て理解した。たぶんあれは炎を溜めるのに時間を必要とするのだ。それとは逆に女王がアイスマンを形成する時に使う時間は短い。

立て続けに出されてしまえば僕が操る炎の力が先に枯れてしまうだろう。粘って勝ちの作戦は出来なそうだ。

だからと言って決着をつけようとしてもアイスマンが邪魔して本体である女王に近づけない。その間にもまた体に霜が付き始める。


「さっきの威勢はどうしたんですの?」

「ベラベラ喋るよりも静かに戦った方がかっこいいと思ってね」

「かっこいいもクソもありませんわよ」

「お前にかっこいいって言われたくてやってるんじゃない。僕は心に決めた人が居るんだ」

「へぇ…」


僕がそう言った時、女王の目の色が変わった気がした。するとアイスマンを相手にする僕の視界から女王が何かを飲んだのが見える。

出された分のアイスマンを颯爽と粉々にして女王を拘束しようと走り出すが、懐に入ることは叶わなかった。


「なっ…!」


地面から氷が突き出たと思えば生きたように僕に絡みつく。あっという間に身動きが取れなくなってしまって僕が拘束されてしまった。


「アハハッ!無様な姿ですこと!」


バカにするように女王は笑って僕を見下す。炎の力を腕に込めるけど氷の冷たさにかき消されてしまった。霜も首を伝って顔にまで出来てくる。とてつもなく寒い。口まで震えそうだ。


「あー面白い。この姿をフロスお姉様が見たらどう思うのかしらねぇ?」

「……」


やっと今確信を得れた。やはり女王は雪女様の妹か。雪女様が雪の女神になったとヒートヘイズに知らせが来た時からそこまで長い年は経ってない。

雪の女神になる条件と、過去に会った年齢を解いていけばこいつが妹だということに間違いはないだろう。


「イグニ、私は貴方を許さない。貴方がフロスお姉様を変えてしまった。静かなる王女と呼ばれていたフロスお姉様は貴方のせいで感情を植え付けさせられ、敵国であるヒートヘイズに慈愛を寄せるようになったのよ!」

「それは被害妄想じゃないのか?」

「黙りなさいイグニ!貴方がフロスお姉様を洗脳させた!陥れてアイシクルを略奪するために!」


本当に被害妄想だ。僕は呆れたようにため息をつくけどその息が真っ白になっているのがわかる。このままでは体の外側も内側も凍ってしまう。

火山のフェニックスはまだ炎を溜めていた。向こう側に見える砦は熱を与えるため、篝火に薪を更にくべたようで目印のように燃え上がっている。それでもアイスマンの攻撃に耐えるため騎士達が立ち向かっているようだった。


「……1人では無理じゃないですか。父上」

「何をぶつぶつ言ってるのかしら?遂に冷たさでおかしくなって幻覚でも見ているの?そこにフロスお姉様が居ると良いですわね!?」


女王の口は熱くなっているのに僕に纏わりつく氷は冷たいままだ。僕の体も悲鳴を上げ始めている。そろそろ限界かもしれない。


「お前の姉は今どうしている?」

「死ぬ前の質問?それを聞いて貴方は死にたいのかしら?」

「死ぬ?僕が?何を戯言を話している。僕はお前から姉を奪えていないのだぞ?このまま死ねるか」

「バカが…」

「ああ゛っ!」


僕の答えにイラついたのか女王はより氷を冷たくさせ締めつける。寒さと苦しさが同時にきて壊れそうだった。

それでも僕は女王に笑みを浮かべる。それは「バカはどっちだ?」と言わんばかりの笑いだった。


「姉妹でここまでも違うんだな。…ぐっ。…お前の姉はとても優しくて綺麗な人だ。それは心も体も。しかしお前はどちらも汚れている!月とスッポンだな!」

「イグニ……!!」

「僕は何度も雪女様に名前を呼ばれた。でも不思議だ。お前に名前を呼ばれるとヘドが出そうになる」


ヤケクソのように僕は声を出す。女王は僕にバカにされたことで顔を真っ赤にしていた。

雪女様が顔を真っ赤にした時は可愛かったけど、こいつの場合は面白くて仕方ない。女王は更に氷の力を込めようとしたその時…


「「「お待たせしました」」」

「遅いぞ」


花火が打ち上がるような音がしたと思えば僕と女王の周りに火が落ちてくる。それは生み出したアイスマンと僕を拘束していた氷を爆発させるかのように弾け飛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...