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8章 炎と氷が交わる地獄
36話 ブリザード
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頬を撫でる風は若干冷たさを感じる。ヒートヘイズは夜でも暖かい風が吹くのに今日はおかしい。嫌な予感が当たりそうな気がした。
砦に着いた僕達はそれぞれ別れて行動する。フレイヤは警戒を強化するために見張り台にいる騎士の元へ。僕は待機している騎士達の様子を見るために。
僕が顔を出せば騎士達は安心したような顔付きになりながらも敬礼をしてくれる。僕が微笑んで頷けば腕を下ろした時に鎧の音が聞こえた。
「ご苦労様。調子はどうだ?」
「特に変わりありません!昼間に菓子屋の店主が作った篝火クレープを貰ったので元気も出ました!」
「それなら良かった。あの店主、普通に地下避難所にも道具を持ち込んでいたからな」
「職人魂に尊敬です!」
「この一件が終わったら国の予算で騎士達に篝火クレープをご馳走しよう。好きな味を考えといてくれ」
「はい!ありがとうございます!」
地下避難所に居る民達と同じように1人1人に声をかけていく。これも毎晩やっていることで、国王としては当然のことだった。
まだ騎士達も僕のことは王子として扱っているが、きっとこうやって馴れ馴れしく話せるのは王子の身分の時だけだと思う。このコミュニケーションを大切にしなければ。
「しかし今日は風が強いですね。火が消えないようにちゃんと見ておかなくては」
「そうだな……」
「イグニ様?」
「あくまで予感だ。いつでも守りに入れるようにしておいてくれ」
「…!」
僕の言葉で周りにいた騎士達に緊張が走る。風は段々と強くなってきて、温度も低い。
ここは砦の内側なのに隙間風が結構入ってくるのだ。簡易だから仕方ないかもしれないけど様子がおかしい。
「イグニ王子!」
するとフレイヤが見張り台の方から声をかけてくる。上を見上げて返事をすればアイシクル領の方向を指差して声を上げた。
「アイシクル領から雪が舞い始めました!」
「ブリザード…!?」
「騎士達!今すぐに隠れなさい!」
「「「はい!」」」
「イグニ王子!今そちらに向かいます!」
風は時間が経つごとにより冷たくなる。騎士達は砦の壁に身を隠すようにして風を凌ぎ、フレイヤは見張り台から降りて僕の元へやって来た。
「イグニ王子は今すぐヒートヘイズにお戻りください」
「僕もここで」
「いけません。貴方はヒートヘイズの次なる希望なのです。さぁ早く!」
フレイヤに手を取られた僕は強制的にヒートヘイズに帰還させられる。悔しいが次なる希望の言葉に間違いはなかった。砦に居た馬を1頭フレイヤは用意すると僕を乗せて手を握る。
「フレイヤは?」
「私はここに残ります。騎士団長としてまだやることが残っているので」
「…でも」
「しかし流石にイグニ王子を1人で帰らせるわけにはいきません。なので伝達を送るための騎士を護衛に使って戻ってください」
するともう1頭の馬のいななきが聞こえて横を見れば別の騎士が僕を待っていた。フレイヤは僕の手を離すと敬礼をする。そんな僕達の後ろでは霧のようなものが舞い上がっているのを確認できた。
「イグニ王子に火のご加護がありますように」
「フレイヤも」
「はい」
僕は馬を走らせると伝達用の騎士と共にヒートヘイズへ駆けていく。背中には冷たい風が当たって手が震えそうだった。王族の僕でも寒いと感じるのだから騎士達はもっと寒いだろう。ヒダカかヒメナにあのポンチョを用意させれば良かった。
「イグニ様!もう少し速く走らせることは出来ますでしょうか!」
「平気だ!」
「後ろを見る限り、ブリザードがどんどん迫って来ています!」
「砦はどうだ!?」
「っ、ブリザードで見えません!」
あの一瞬で飲み込まれた。伝達の騎士が慌てたように言った言葉がそれを意味していたのだ。僕は更に馬のスピードを上げようとする。馬も寒さが体にきているのか辛そうな息遣いをしていた。
ヒートヘイズは近づいてくる。地下避難所ならブリザードの影響を受けることはない。しかしそこに辿り着く前に僕達が飲み込まれてしまえば終わりだ。
騎士は後ろを確認しながら僕の隣を走る。僕は馬の扱いに慣れてないから前だけ見るので精一杯だった。
「クソっ、やられた!」
ブリザードを起こされるなんて頭になかった。予想では氷の塊を形成されて攻め入られると思っていたのだ。しかし実際、アイシクルの女王の方が上手だった。
『確か女王は即位して数年という短さだが、知力に満ちているという印象を受けた』
父上が玉座の間でそう教えてくれたのにも関わらず頭の外へ投げ出した自分を殴ってやりたい。このままではブリザードだけで全滅してしまう。
「イグニ様!地面が凍り始めています!」
「っ…!」
もし砦に留まっていたら僕がブリザードを消せたのではないか?王族の力を使えばこの氷も溶かせたのではないか?本当に僕はこのままヒートヘイズに向かって良いのか?
寒さでと混乱で頭がおかしくなる。もしかして、この戦争…負ける?
「あれ、なんか暖かくなって……」
すると伝達の騎士が何かに気付いたように首を回す。次の瞬間地響きが聞こえたと思えば、ヒートヘイズの火山が噴火した。
砦に着いた僕達はそれぞれ別れて行動する。フレイヤは警戒を強化するために見張り台にいる騎士の元へ。僕は待機している騎士達の様子を見るために。
僕が顔を出せば騎士達は安心したような顔付きになりながらも敬礼をしてくれる。僕が微笑んで頷けば腕を下ろした時に鎧の音が聞こえた。
「ご苦労様。調子はどうだ?」
「特に変わりありません!昼間に菓子屋の店主が作った篝火クレープを貰ったので元気も出ました!」
「それなら良かった。あの店主、普通に地下避難所にも道具を持ち込んでいたからな」
「職人魂に尊敬です!」
「この一件が終わったら国の予算で騎士達に篝火クレープをご馳走しよう。好きな味を考えといてくれ」
「はい!ありがとうございます!」
地下避難所に居る民達と同じように1人1人に声をかけていく。これも毎晩やっていることで、国王としては当然のことだった。
まだ騎士達も僕のことは王子として扱っているが、きっとこうやって馴れ馴れしく話せるのは王子の身分の時だけだと思う。このコミュニケーションを大切にしなければ。
「しかし今日は風が強いですね。火が消えないようにちゃんと見ておかなくては」
「そうだな……」
「イグニ様?」
「あくまで予感だ。いつでも守りに入れるようにしておいてくれ」
「…!」
僕の言葉で周りにいた騎士達に緊張が走る。風は段々と強くなってきて、温度も低い。
ここは砦の内側なのに隙間風が結構入ってくるのだ。簡易だから仕方ないかもしれないけど様子がおかしい。
「イグニ王子!」
するとフレイヤが見張り台の方から声をかけてくる。上を見上げて返事をすればアイシクル領の方向を指差して声を上げた。
「アイシクル領から雪が舞い始めました!」
「ブリザード…!?」
「騎士達!今すぐに隠れなさい!」
「「「はい!」」」
「イグニ王子!今そちらに向かいます!」
風は時間が経つごとにより冷たくなる。騎士達は砦の壁に身を隠すようにして風を凌ぎ、フレイヤは見張り台から降りて僕の元へやって来た。
「イグニ王子は今すぐヒートヘイズにお戻りください」
「僕もここで」
「いけません。貴方はヒートヘイズの次なる希望なのです。さぁ早く!」
フレイヤに手を取られた僕は強制的にヒートヘイズに帰還させられる。悔しいが次なる希望の言葉に間違いはなかった。砦に居た馬を1頭フレイヤは用意すると僕を乗せて手を握る。
「フレイヤは?」
「私はここに残ります。騎士団長としてまだやることが残っているので」
「…でも」
「しかし流石にイグニ王子を1人で帰らせるわけにはいきません。なので伝達を送るための騎士を護衛に使って戻ってください」
するともう1頭の馬のいななきが聞こえて横を見れば別の騎士が僕を待っていた。フレイヤは僕の手を離すと敬礼をする。そんな僕達の後ろでは霧のようなものが舞い上がっているのを確認できた。
「イグニ王子に火のご加護がありますように」
「フレイヤも」
「はい」
僕は馬を走らせると伝達用の騎士と共にヒートヘイズへ駆けていく。背中には冷たい風が当たって手が震えそうだった。王族の僕でも寒いと感じるのだから騎士達はもっと寒いだろう。ヒダカかヒメナにあのポンチョを用意させれば良かった。
「イグニ様!もう少し速く走らせることは出来ますでしょうか!」
「平気だ!」
「後ろを見る限り、ブリザードがどんどん迫って来ています!」
「砦はどうだ!?」
「っ、ブリザードで見えません!」
あの一瞬で飲み込まれた。伝達の騎士が慌てたように言った言葉がそれを意味していたのだ。僕は更に馬のスピードを上げようとする。馬も寒さが体にきているのか辛そうな息遣いをしていた。
ヒートヘイズは近づいてくる。地下避難所ならブリザードの影響を受けることはない。しかしそこに辿り着く前に僕達が飲み込まれてしまえば終わりだ。
騎士は後ろを確認しながら僕の隣を走る。僕は馬の扱いに慣れてないから前だけ見るので精一杯だった。
「クソっ、やられた!」
ブリザードを起こされるなんて頭になかった。予想では氷の塊を形成されて攻め入られると思っていたのだ。しかし実際、アイシクルの女王の方が上手だった。
『確か女王は即位して数年という短さだが、知力に満ちているという印象を受けた』
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「っ…!」
もし砦に留まっていたら僕がブリザードを消せたのではないか?王族の力を使えばこの氷も溶かせたのではないか?本当に僕はこのままヒートヘイズに向かって良いのか?
寒さでと混乱で頭がおかしくなる。もしかして、この戦争…負ける?
「あれ、なんか暖かくなって……」
すると伝達の騎士が何かに気付いたように首を回す。次の瞬間地響きが聞こえたと思えば、ヒートヘイズの火山が噴火した。
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