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5章 炎王子と女騎士団長
21話 バカ真面目の悪友
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「ヒダカ」
「イグニ様。珍しいですね。この時間帯にここに来るなんて」
「散歩しないか?」
「散歩、ですか?」
「城の中庭を歩くだけだ。今日は1日中城の中にいたから外の空気が吸いたくてな」
「それならお供します」
従者が仕事をする部屋で何やら本を読んでいたヒダカ。僕が急に散歩を誘うから何事かと疑うような顔をしたけど、すぐに勘付いてくれて了承してくれる。
「ヒメナは?」
「もう寝てるはずです」
「相変わらず早いな…」
まだ夜が始まったばかりの時間だけど早寝早起きがモットーのヒメナは既に寝ているらしい。これは小さい時から変わらなくて、僕が夜更かしに誘おうとしてもその前には寝ているという経験が何度もあった。
ちなみにヒダカは夜更かしは体の毒と言って付き合ってはくれなかったな。だから僕は1人夜更かしの経験しかない。
「なぁヒダカ。今日夜更かししないか?」
「しません。明日アイシクルに向かう国王様をお見送りされるのでしょう?」
「やっぱりダメか」
「当たり前です」
フレイヤと同じくこいつもバカ真面目だと思う。将来従者として小さい頃から色々と教えられたからだろうか。でもその割にはヒメナは結構緩い。やはり元からの性格か?
僕達は中庭に繋がる廊下を歩いて夜にしか味わえないこの静けさを堪能する。足音1つが響き渡る心地のいい感じは幾つになっても心躍る。
中庭に到着した僕達は夜風に当たりながら近くのベンチに腰を下ろした。
「単刀直入に言おう。明日ヒダカにお使いを頼みたい」
「お使い…?」
「今日の夜、雪女様に手紙を書き留める。それを氷の塔まで届けて欲しいんだ」
「それは明日から玉座の間を守らなければならないからでしょうか?」
「それもある。でも1番は僕が前に進むためだ」
月は今、城の影に隠れて見えなくなっている。暗い中庭では僕とヒダカの姿は誰にも見えないだろう。
「王子として選ぶか。人間のイグニとして選ぶか。天秤にかけても重さは決まっている。だから、最後の悪足掻きがしたいんだ」
「……そうですか。では明日、ワタクシが氷の塔に出向き手紙を渡してきます」
「ありがとう」
僕は空を見上げて月がゆっくり顔を見せるのを見届ける。ヒダカも同じように首を上に向けた。
「アイシクルではオーロラという光が夜空に浮かぶようです」
「聞いたことがあるな。布みたいな感じなんだろう?」
「布かどうかはわかりませんが……一度くらい見てきてはいかがでしょう?」
ヒダカの言葉にハッとする。僕が捉えた意味とヒダカが言った意味は違うかもしれない。でも隣に座るヒダカの表情は何か企むようで、しかし優しい顔だった。
「……その時は協力頼む」
「勿論。その時だけですよ」
「ああ」
幼い頃から一緒にいたヒダカは妹のヒメナと違ってずっと僕を主人として扱っていた。それは彼に取っては当たり前の対応だったけど、僕はたまに寂しいと思っていたこともある。
でも今のヒダカは僕を主人として見てない。幼馴染として悪友に呆れながらも面白そうに見る人間だった。
「今度ヒメナを混ぜた3人で夜のピクニックなんてのも良いな」
「ヒメナの寝る時間を考えて不可能に近いでしょうね」
「ハハッ。やっぱりそれはダメか」
中庭には月が完全に姿を現して僕達は月光に染まっていた。この月を雪女様も見ているだろうか。
場所は違えど同じ月を見ているなんて何だか物語の一節のようだ。もう少しだけ中庭に居よう。今日はヒダカと幼馴染として語れる気がするから。
「イグニ様。珍しいですね。この時間帯にここに来るなんて」
「散歩しないか?」
「散歩、ですか?」
「城の中庭を歩くだけだ。今日は1日中城の中にいたから外の空気が吸いたくてな」
「それならお供します」
従者が仕事をする部屋で何やら本を読んでいたヒダカ。僕が急に散歩を誘うから何事かと疑うような顔をしたけど、すぐに勘付いてくれて了承してくれる。
「ヒメナは?」
「もう寝てるはずです」
「相変わらず早いな…」
まだ夜が始まったばかりの時間だけど早寝早起きがモットーのヒメナは既に寝ているらしい。これは小さい時から変わらなくて、僕が夜更かしに誘おうとしてもその前には寝ているという経験が何度もあった。
ちなみにヒダカは夜更かしは体の毒と言って付き合ってはくれなかったな。だから僕は1人夜更かしの経験しかない。
「なぁヒダカ。今日夜更かししないか?」
「しません。明日アイシクルに向かう国王様をお見送りされるのでしょう?」
「やっぱりダメか」
「当たり前です」
フレイヤと同じくこいつもバカ真面目だと思う。将来従者として小さい頃から色々と教えられたからだろうか。でもその割にはヒメナは結構緩い。やはり元からの性格か?
僕達は中庭に繋がる廊下を歩いて夜にしか味わえないこの静けさを堪能する。足音1つが響き渡る心地のいい感じは幾つになっても心躍る。
中庭に到着した僕達は夜風に当たりながら近くのベンチに腰を下ろした。
「単刀直入に言おう。明日ヒダカにお使いを頼みたい」
「お使い…?」
「今日の夜、雪女様に手紙を書き留める。それを氷の塔まで届けて欲しいんだ」
「それは明日から玉座の間を守らなければならないからでしょうか?」
「それもある。でも1番は僕が前に進むためだ」
月は今、城の影に隠れて見えなくなっている。暗い中庭では僕とヒダカの姿は誰にも見えないだろう。
「王子として選ぶか。人間のイグニとして選ぶか。天秤にかけても重さは決まっている。だから、最後の悪足掻きがしたいんだ」
「……そうですか。では明日、ワタクシが氷の塔に出向き手紙を渡してきます」
「ありがとう」
僕は空を見上げて月がゆっくり顔を見せるのを見届ける。ヒダカも同じように首を上に向けた。
「アイシクルではオーロラという光が夜空に浮かぶようです」
「聞いたことがあるな。布みたいな感じなんだろう?」
「布かどうかはわかりませんが……一度くらい見てきてはいかがでしょう?」
ヒダカの言葉にハッとする。僕が捉えた意味とヒダカが言った意味は違うかもしれない。でも隣に座るヒダカの表情は何か企むようで、しかし優しい顔だった。
「……その時は協力頼む」
「勿論。その時だけですよ」
「ああ」
幼い頃から一緒にいたヒダカは妹のヒメナと違ってずっと僕を主人として扱っていた。それは彼に取っては当たり前の対応だったけど、僕はたまに寂しいと思っていたこともある。
でも今のヒダカは僕を主人として見てない。幼馴染として悪友に呆れながらも面白そうに見る人間だった。
「今度ヒメナを混ぜた3人で夜のピクニックなんてのも良いな」
「ヒメナの寝る時間を考えて不可能に近いでしょうね」
「ハハッ。やっぱりそれはダメか」
中庭には月が完全に姿を現して僕達は月光に染まっていた。この月を雪女様も見ているだろうか。
場所は違えど同じ月を見ているなんて何だか物語の一節のようだ。もう少しだけ中庭に居よう。今日はヒダカと幼馴染として語れる気がするから。
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