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5章 炎王子と女騎士団長
17話 あの日から
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あの日から変わったことがあった。
1つはフレイヤが積極的になったこと。あれ以来キスのようなことはしていない。けれどヒートヘイズの城内で会った時は少し微笑んで頭を下げるようになった。前までは無表情がデフォルトだったフレイヤも僕にだけ表情を見せてくれるようになる。
そしてもう1つ変わったこと。それは父上だった。頻繁に城を出るようになって玉座の間に誰も座らない日々が続いている。勿論、長期の仕事というわけではない。帰っては来る。帰っては来るのだけど……。
「やはり早朝になると何処かに出向いているのか」
「はい。護衛に就いた騎士達に話を聞いた結果、何処に向かうと言うのではなくヒートヘイズ領を馬で駆け回っているとか」
「ただの趣味では無さそうなのは確かだよなぁ…」
「なーんか騎士達も何をしているのか聞くに聞けないって言ってたよ」
いつもの場所、いつものメンバーで父上のことについて話し合う。しかし2人はフレイヤの件には一切触れることは無かった。
流石に僕からもあの日のことについては言おうとは思えない。初めてヒダカとヒメナには言えないことが出来てしまったな。
「アイシクルについての件は?」
「それなら停滞してるってさ」
「何でもアイシクルの女王から書簡の返事が返って来ていないとか。停滞するのも当たり前ですね」
「その前に女王に渡ったのかな?イグニ様が言うには公爵を伝って渡すって感じでしょ?やっぱり面と向かって渡さないと効果ないような…」
「それも頭の中にはあった。けれどもあの状態で無理矢理行こうとしたらそれこそ問題になる」
それにまだ炎帝の丘での事件が1回あったきりでそれ以降被害は出ていない。頻繁に氷漬けが起こったら無理矢理にでもアイシクルに行かなければならないけど。
「雪女様に会いたい……」
「まーた始まった。イグニ様の駄々こね」
「今の所会ってない日数最長記録を更新していますよ」
「1週間だっけ?外出している国王様にバッタリ会わないかビビっているから」
「いやビビるのは当たり前だろ。秘密裏にやっているんだぞ?」
フレイヤには若干バレていたが。
「でもそろそろ限界が来るのがわかる。会いたい、会いたい……雪女様に」
「アハハッ!イグニ様壊れた」
「ヒメナ、笑わないであげてください」
父上はヒートヘイズのどこ辺りを走っているのだろうか。それさえ情報を得られればこっそり行くことが出来るのに。
「そーいえばイグニ様。炎の訓練はどうなったの?」
「ああ…それなら」
ヒメナに見せつけるように僕は手のひらを上に向けて小さな炎の塊を出して見せる。すると感動したようにヒメナは声を出した。
「凄いじゃん!やっぱり王族なんだね!イグニ様って」
「口を慎みなさいヒメナ。…でもワタクシが言った通り訓練は少しずつしていた方が良いかと」
「そうだな」
実はこの1週間、ヒダカの提案で王族特有の炎の力の訓練を本格的に始めた。そろそろちゃんと身につけないと雪女様との逢瀬を隠し通せないだろうというヒダカの助言がきっかけだ。
今の所炎の塊を長時間維持出来るようにはなった。1週間でここまで成長したのは僕の天才的なものだろうか。
「雪女様にも見せてあげたい……ムフフ」
「氷の塔溶けちゃわない?」
いずれは炎帝の丘で見せた父上の炎のようにまで強くならなければ。
そう考えると長い月日が必要なのかと嫌に思えてしまうけど王族として産まれたからには仕方ないのだ。僕は紛れもなく王子だとこの炎が物語っている。
「失礼します!イグニ様!」
「ん?どうした?」
すると自室の外から騎士が声をかけてくる。僕が返事をすれば扉の奥から続けて騎士の言葉が聞こえた。
「フレイヤ様が…!」
「えっ?」
頭が真っ白になる瞬間を初めて理解した気がする。騎士の伝言を聞いた僕はすぐさま部屋を出て、騎士詰所に向かった。
1つはフレイヤが積極的になったこと。あれ以来キスのようなことはしていない。けれどヒートヘイズの城内で会った時は少し微笑んで頭を下げるようになった。前までは無表情がデフォルトだったフレイヤも僕にだけ表情を見せてくれるようになる。
そしてもう1つ変わったこと。それは父上だった。頻繁に城を出るようになって玉座の間に誰も座らない日々が続いている。勿論、長期の仕事というわけではない。帰っては来る。帰っては来るのだけど……。
「やはり早朝になると何処かに出向いているのか」
「はい。護衛に就いた騎士達に話を聞いた結果、何処に向かうと言うのではなくヒートヘイズ領を馬で駆け回っているとか」
「ただの趣味では無さそうなのは確かだよなぁ…」
「なーんか騎士達も何をしているのか聞くに聞けないって言ってたよ」
いつもの場所、いつものメンバーで父上のことについて話し合う。しかし2人はフレイヤの件には一切触れることは無かった。
流石に僕からもあの日のことについては言おうとは思えない。初めてヒダカとヒメナには言えないことが出来てしまったな。
「アイシクルについての件は?」
「それなら停滞してるってさ」
「何でもアイシクルの女王から書簡の返事が返って来ていないとか。停滞するのも当たり前ですね」
「その前に女王に渡ったのかな?イグニ様が言うには公爵を伝って渡すって感じでしょ?やっぱり面と向かって渡さないと効果ないような…」
「それも頭の中にはあった。けれどもあの状態で無理矢理行こうとしたらそれこそ問題になる」
それにまだ炎帝の丘での事件が1回あったきりでそれ以降被害は出ていない。頻繁に氷漬けが起こったら無理矢理にでもアイシクルに行かなければならないけど。
「雪女様に会いたい……」
「まーた始まった。イグニ様の駄々こね」
「今の所会ってない日数最長記録を更新していますよ」
「1週間だっけ?外出している国王様にバッタリ会わないかビビっているから」
「いやビビるのは当たり前だろ。秘密裏にやっているんだぞ?」
フレイヤには若干バレていたが。
「でもそろそろ限界が来るのがわかる。会いたい、会いたい……雪女様に」
「アハハッ!イグニ様壊れた」
「ヒメナ、笑わないであげてください」
父上はヒートヘイズのどこ辺りを走っているのだろうか。それさえ情報を得られればこっそり行くことが出来るのに。
「そーいえばイグニ様。炎の訓練はどうなったの?」
「ああ…それなら」
ヒメナに見せつけるように僕は手のひらを上に向けて小さな炎の塊を出して見せる。すると感動したようにヒメナは声を出した。
「凄いじゃん!やっぱり王族なんだね!イグニ様って」
「口を慎みなさいヒメナ。…でもワタクシが言った通り訓練は少しずつしていた方が良いかと」
「そうだな」
実はこの1週間、ヒダカの提案で王族特有の炎の力の訓練を本格的に始めた。そろそろちゃんと身につけないと雪女様との逢瀬を隠し通せないだろうというヒダカの助言がきっかけだ。
今の所炎の塊を長時間維持出来るようにはなった。1週間でここまで成長したのは僕の天才的なものだろうか。
「雪女様にも見せてあげたい……ムフフ」
「氷の塔溶けちゃわない?」
いずれは炎帝の丘で見せた父上の炎のようにまで強くならなければ。
そう考えると長い月日が必要なのかと嫌に思えてしまうけど王族として産まれたからには仕方ないのだ。僕は紛れもなく王子だとこの炎が物語っている。
「失礼します!イグニ様!」
「ん?どうした?」
すると自室の外から騎士が声をかけてくる。僕が返事をすれば扉の奥から続けて騎士の言葉が聞こえた。
「フレイヤ様が…!」
「えっ?」
頭が真っ白になる瞬間を初めて理解した気がする。騎士の伝言を聞いた僕はすぐさま部屋を出て、騎士詰所に向かった。
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