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3章 炎王子と不可思議現象

10話 襲撃

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それから1週間。僕はひたすらに氷の塔に通い続けた。

自作のポエムを渡しては呆れられ、自作の風景画を渡しては怒鳴られ。そして自作の自画像を渡せば次の日には氷漬けにされていた。


「は、ハハッ!雪女様も中々やるな!ハハッ」

「ヤケクソになってませんか?」


ヒダカの冷たいツッコミが入るけど、それくらいの冷たさでは僕の心は刺激されない。頻繁に氷の塔に通っているからか冷たい寒さには耐性が付いたようだ。


「イグニ様!」

「ヒメナ?」


いつものように自室で次の作戦を立てている僕の元にヒメナが入ってくる。騒がしく来る様子にヒダカは注意しようとするけど、すぐに口を閉してしまった。


「で、伝言!」


そう言うヒメナの顔は真っ青だったのだ。何事かと思い、自然と立ち上がってヒメナに近づいてしまう。


「どうした?」

「国境の近くに位置する炎帝の丘の一部分に氷が張っているとの報告」

「炎帝の丘に!?」

「ヒメナ。それはどこ情報ですか?」

「騎士団から受け取ったの。国王様はこの目で見ると直々に炎帝の丘に出向くって」


炎帝の丘は古き時代、ヒートヘイズの初代国王が神から炎の力を授かったと言われる丘。ヒートヘイズでは聖地と呼ばれるくらいに名高い場所だ。

今は誰も寄りつかない寂しい所となってしまっている。けれども氷が張るなんて初めてのことだ。一部分とはどれくらいの範囲だろうか。


「イグニ様。どうされますか?」

「行こう。王子として確かめなければならない」

「なら護衛を手配してくる!」

「ご、護衛?別にそんなものは…」

「ヒメナ、出来れば腕が立つ者を選びなさい」

「りょーかい!」


ヒメナは僕の答えを聞くとすぐに部屋から出て騎士詰所に行ってしまう。別に護衛なんて要らないのに。どうせヒダカとヒメナが着いて来るんだし…。


「どういう状況かはまだわかりません。しかしアイシクルが絡んでいるのは確かです。……お忘れかもしれませんが、ヒートヘイズとアイシクルは今や敵対に近い関係です。イグニ様に何かあってからでは遅いのですよ」

「……わかった」


正直忘れかけていた両国の現状。けれども雪女様が何かしたわけではないと思っている。あの人は理由もなく手を出す人ではない。そうであってほしい。

僕はヒダカと共に自室を出て早足で城内から出ていく。城下町と城を繋ぐ門の前に着くと、ヒメナの姿があった。


「イグニ様!無事手配できました!最強の護衛ですよ!」

「最強…?」


外なのでヒメナの敬語に違和感を持ちながらも、僕は最強の護衛に首を傾げる。すると横から鎧のカチャカチャ音が聞こえた。


「私です。イグニ王子」

「ふ、フレイヤ!?」

「ちょうど今から出るそうです!ついでに護衛を頼みました」

「ついでって…」

「ご安心ください。イグニ王子の身が1番大事なのには変わりありません。炎帝の丘までお供します」

「ああ…頼もしいよ」


拒否権は、無いようだ。


ーーーーーー


炎帝の丘には既に父上の姿があった。騎士団長であるフレイヤが父上の護衛に就かなかったのは僕を待っていたのだろうか。そんなことは流石に聞けなかったけど。


「父上」

「イグニとフレイヤか。これを見ろ」


炎帝の丘の中心には巨大な石碑がある。初代国王と神に関して記されているものだ。しかし現在その半分は氷で覆われ、文字が見えなくなっていた。


「酷い有様だ…」

「やはりアイシクルからでしょうか?」

「それが1番考えられる。しかし奇妙なのは氷がアイシクル領から伸びているわけではなく、石碑の下辺りから発生したようなのだ」

「ということは、炎帝の丘にアイシクルの王族関係者が来た説が高いのか?」


確かに氷は石碑を覆っている。けれどアイシクル領側の地面は特に氷は張っていなかった。氷の力を操れるのはヒートヘイズと同じ王族。

アイシクルの女王が出向いた?いや、流石にそれは無茶すぎる。頂点の存在である女王が直々になんて普通はない。まさか…。


「とりあえずこれを溶かす。お前達下がってろ」

「「はい」」


僕とフレイヤは父上から離れる。他の兵士達も逃げるように炎帝の丘から降りた。


「炎よ!」


父上は手のひらを氷に向ければすぐに赤い炎が石碑を包む。やはり凄い。火山の噴火の如く舞う炎は離れた僕達まで火傷しそうに熱かった。


「……溶けたな」

「流石です。父上」


一瞬で氷は溶けて周りに水溜りができる。石碑を凍らせていたのは至って普通の氷だったらしい。元通りになって炎帝の丘には暖かい風が吹き始めた。


「これからどうしましょうか?」

「ふむ。まずはアイシクルに伝令を出そう。事の真相を直接聞くのだ」

「直接に…。大丈夫でしょうか」

「気が向かないがそれが1番手っ取り早い。イグニ、お前がやってくれるな?」

「ぼ、僕がですか?」

「これも経験だ。今日中に手紙を書き留める。お前は使者としてアイシクルに持っていくのだ」

「失礼ですが国王様。現在ヒートヘイズからアイシクルへの関所は厳重な警備体制になっています。国に着くには困難かと」

「ああ。しかしこの件を見過ごすわけにはいかない。最低でも手紙を女王へ届ける。手段は問わない」

「…わかりました。父上」


手段を問われないのであれば別に女王に会う必要もない。まずは関所で交渉を得て、それから考えよう。

どうせ断る事のできない任務だ。王子としてやってやるさ。父上は僕が頷いたのを見て炎帝の丘から去っていく。すると一緒に来ていたヒダカとヒメナがこっちに来た。


「明日、アイシクルに行くんですか?イグニ様」

「ああ。2人はいつも通り一緒に…」

「私が共に行きましょう」

「フレイヤ?正気か?」

「騎士団長である私が王子の護衛をするのは普通のことです」

「そうかもしれないけど…」

「従者のお2人は戦いの経験が少ない。アイシクルでは何が起きるかわかりません。私を連れて行けば近くでお守りすることが出来ます」


僕が思い描いていたのはヒダカとヒメナと共に気楽にアイシクルに行くというもの。しかしフレイヤから正論と共に申し出が出てしまったら父上と同じで断ることが出来ない。

フレイヤの場合は断るのが面倒だ。どうせ正論が返ってきてしまう。ヒダカに助けを求めようとするけど今回ばかりはフレイヤが正しいと思ったのか首を小さく振った。


「よろしく、頼む…」

「かしこまりました。では明日、厳選した騎士達と共にアイシクルへと向かいましょう」


明日は、雪女様に会えないだろうな……。辛くて泣きそうな僕をヒメナは肩を振るわせながら笑いに耐えていた。
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