【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦

雪村

文字の大きさ
1 / 53
1章 炎王子と雪女

1話 雪女とイグニ様

しおりを挟む
「雪女様!そんな所に閉じこもってないで、僕の手を取ってくれませんか!」


炎の国ヒートヘイズの第一王子である僕は氷の国アイシクルが統べる領の端で叫んでいた。

空にも届きそうな高い塔は全て氷で作られている。暑い国であるヒートヘイズ出身の僕からしたら少々寒い。


「雪女様!いらっしゃいますか?いらっしゃいますよね!!」


氷の塔と呼ばれるこの場所は僕の愛しき相手が1人で住まう場所だった。 


「雪女様!」

「うるさいです!さっきからずっと雪女雪女言ってますけど、私は雪の女神フロスです!」

「存じ上げております!僕の名前はイグニ。炎の国ヒートヘイズの王子です!」

「そんなの耳にタコが出来るくらい聞きました!」


今日も愛おしい人は氷の塔のてっぺんで僕に話しかけてくれる。しかし顔は見せてくれない。

以前一度だけ顔を見たことがあるけど……それ以降は全く見ることが叶わなかった。でも僕は諦めないぞ。今日も片膝をついて手を上に伸ばし口説く。


「確かに貴方様は雪の女神です。しかし!それは誰しもが貴方様を呼ぶ時に使うもの。だから僕は誰も呼ばないこの名を呼びたいのです。……雪女様と!」

「妖怪みたいな名前はやめなさい!」

「妖怪…氷の国に伝わるおとぎ話ですね。それも存じ上げております。けれど僕は貴方様を妖怪なんて思っていません。いつでも雪女様は僕の愛しき人と認知していますよ」


冷たく冷静な声も、僕だけに聞かせてくれる慌てたような声も全てが愛おしい。

…そろそろ体が震えてきたな。

僕は立ち上がり残念そうに首を振って時間だと告げると雪女様は「2度と来ないでください!」とお決まりのセリフを言い放って声が聞こえなくなってしまった。


「フッ、その言葉は僕をより燃やすだけですよ」


赤と黒で染められたマントを揺らして氷の塔に背を向けると近くで待機していた従者が唇を真っ青にして震え上がっている。僕よりも先にこの寒さでダウンしてしまったのだろう。


「イ゛、グニ゛ざま」

「その厚手のコートでもダメだったか?」

「ごんな氷の塔の間近でよぐ平然といられまずね」

「鼻水が凄いぞ。このハンカチを使え」

「ごべんなざい」


僕のハンカチを使って鼻を拭う従者、ヒダカは手も足も震えて立つのも大変そうだった。今日は少し長話し過ぎただろうか。

でも僕はまだ話し足りない。いつかこの氷の塔に入って雪女様と一緒に優雅なティータイムをしながら世間話をする。なんて素敵な夢だ。


「とりあえず帰るぞ。ヒダカ」

「は、はい…ってうわぁ!」


僕は歩くのも困難なヒダカを抱え上げるとそのまま氷の塔から去っていく。ここ一帯は地面まで凍っていてコツを掴まなければすってんころりんだ。頻繁にここを訪れている僕はもう慣れっこだがな。


「ひっ!イグニ様!足は大丈夫ですか!?今揺れた気が」

「……平気だ。少し滑った」

「やはりワタクシは降ります!イグニ様のお手を煩わせるわけにはいきません!」

「僕よりもヒダカの方が歩けないだろ?良いか?これも雪女様にかっこいい所を見せる場なのだ。きっと今も氷の塔で僕が立ち去るのを眺めているはず。仲間想いな一面を見せれば心臓を掴まれるはずだ」

「な、なるほど…?」


さぁいつでも見ていてください、雪女様。僕は仲間想いで従者を担げるほどの力を持っています。きっと雪女様も軽々と抱っこ出来るでしょう。


「ムフフフ」

「イグニ様、お気を確かに…」


氷の塔は静かに佇んでいる。僕はスキップしたい気持ちを抑えて優雅にアイシクル領から我が国の領へ向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...