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1章 炎王子と雪女
1話 雪女とイグニ様
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「雪女様!そんな所に閉じこもってないで、僕の手を取ってくれませんか!」
炎の国ヒートヘイズの第一王子である僕は氷の国アイシクルが統べる領の端で叫んでいた。
空にも届きそうな高い塔は全て氷で作られている。暑い国であるヒートヘイズ出身の僕からしたら少々寒い。
「雪女様!いらっしゃいますか?いらっしゃいますよね!!」
氷の塔と呼ばれるこの場所は僕の愛しき相手が1人で住まう場所だった。
「雪女様!」
「うるさいです!さっきからずっと雪女雪女言ってますけど、私は雪の女神フロスです!」
「存じ上げております!僕の名前はイグニ。炎の国ヒートヘイズの王子です!」
「そんなの耳にタコが出来るくらい聞きました!」
今日も愛おしい人は氷の塔のてっぺんで僕に話しかけてくれる。しかし顔は見せてくれない。
以前一度だけ顔を見たことがあるけど……それ以降は全く見ることが叶わなかった。でも僕は諦めないぞ。今日も片膝をついて手を上に伸ばし口説く。
「確かに貴方様は雪の女神です。しかし!それは誰しもが貴方様を呼ぶ時に使うもの。だから僕は誰も呼ばないこの名を呼びたいのです。……雪女様と!」
「妖怪みたいな名前はやめなさい!」
「妖怪…氷の国に伝わるおとぎ話ですね。それも存じ上げております。けれど僕は貴方様を妖怪なんて思っていません。いつでも雪女様は僕の愛しき人と認知していますよ」
冷たく冷静な声も、僕だけに聞かせてくれる慌てたような声も全てが愛おしい。
…そろそろ体が震えてきたな。
僕は立ち上がり残念そうに首を振って時間だと告げると雪女様は「2度と来ないでください!」とお決まりのセリフを言い放って声が聞こえなくなってしまった。
「フッ、その言葉は僕をより燃やすだけですよ」
赤と黒で染められたマントを揺らして氷の塔に背を向けると近くで待機していた従者が唇を真っ青にして震え上がっている。僕よりも先にこの寒さでダウンしてしまったのだろう。
「イ゛、グニ゛ざま」
「その厚手のコートでもダメだったか?」
「ごんな氷の塔の間近でよぐ平然といられまずね」
「鼻水が凄いぞ。このハンカチを使え」
「ごべんなざい」
僕のハンカチを使って鼻を拭う従者、ヒダカは手も足も震えて立つのも大変そうだった。今日は少し長話し過ぎただろうか。
でも僕はまだ話し足りない。いつかこの氷の塔に入って雪女様と一緒に優雅なティータイムをしながら世間話をする。なんて素敵な夢だ。
「とりあえず帰るぞ。ヒダカ」
「は、はい…ってうわぁ!」
僕は歩くのも困難なヒダカを抱え上げるとそのまま氷の塔から去っていく。ここ一帯は地面まで凍っていてコツを掴まなければすってんころりんだ。頻繁にここを訪れている僕はもう慣れっこだがな。
「ひっ!イグニ様!足は大丈夫ですか!?今揺れた気が」
「……平気だ。少し滑った」
「やはりワタクシは降ります!イグニ様のお手を煩わせるわけにはいきません!」
「僕よりもヒダカの方が歩けないだろ?良いか?これも雪女様にかっこいい所を見せる場なのだ。きっと今も氷の塔で僕が立ち去るのを眺めているはず。仲間想いな一面を見せれば心臓を掴まれるはずだ」
「な、なるほど…?」
さぁいつでも見ていてください、雪女様。僕は仲間想いで従者を担げるほどの力を持っています。きっと雪女様も軽々と抱っこ出来るでしょう。
「ムフフフ」
「イグニ様、お気を確かに…」
氷の塔は静かに佇んでいる。僕はスキップしたい気持ちを抑えて優雅にアイシクル領から我が国の領へ向かったのだった。
炎の国ヒートヘイズの第一王子である僕は氷の国アイシクルが統べる領の端で叫んでいた。
空にも届きそうな高い塔は全て氷で作られている。暑い国であるヒートヘイズ出身の僕からしたら少々寒い。
「雪女様!いらっしゃいますか?いらっしゃいますよね!!」
氷の塔と呼ばれるこの場所は僕の愛しき相手が1人で住まう場所だった。
「雪女様!」
「うるさいです!さっきからずっと雪女雪女言ってますけど、私は雪の女神フロスです!」
「存じ上げております!僕の名前はイグニ。炎の国ヒートヘイズの王子です!」
「そんなの耳にタコが出来るくらい聞きました!」
今日も愛おしい人は氷の塔のてっぺんで僕に話しかけてくれる。しかし顔は見せてくれない。
以前一度だけ顔を見たことがあるけど……それ以降は全く見ることが叶わなかった。でも僕は諦めないぞ。今日も片膝をついて手を上に伸ばし口説く。
「確かに貴方様は雪の女神です。しかし!それは誰しもが貴方様を呼ぶ時に使うもの。だから僕は誰も呼ばないこの名を呼びたいのです。……雪女様と!」
「妖怪みたいな名前はやめなさい!」
「妖怪…氷の国に伝わるおとぎ話ですね。それも存じ上げております。けれど僕は貴方様を妖怪なんて思っていません。いつでも雪女様は僕の愛しき人と認知していますよ」
冷たく冷静な声も、僕だけに聞かせてくれる慌てたような声も全てが愛おしい。
…そろそろ体が震えてきたな。
僕は立ち上がり残念そうに首を振って時間だと告げると雪女様は「2度と来ないでください!」とお決まりのセリフを言い放って声が聞こえなくなってしまった。
「フッ、その言葉は僕をより燃やすだけですよ」
赤と黒で染められたマントを揺らして氷の塔に背を向けると近くで待機していた従者が唇を真っ青にして震え上がっている。僕よりも先にこの寒さでダウンしてしまったのだろう。
「イ゛、グニ゛ざま」
「その厚手のコートでもダメだったか?」
「ごんな氷の塔の間近でよぐ平然といられまずね」
「鼻水が凄いぞ。このハンカチを使え」
「ごべんなざい」
僕のハンカチを使って鼻を拭う従者、ヒダカは手も足も震えて立つのも大変そうだった。今日は少し長話し過ぎただろうか。
でも僕はまだ話し足りない。いつかこの氷の塔に入って雪女様と一緒に優雅なティータイムをしながら世間話をする。なんて素敵な夢だ。
「とりあえず帰るぞ。ヒダカ」
「は、はい…ってうわぁ!」
僕は歩くのも困難なヒダカを抱え上げるとそのまま氷の塔から去っていく。ここ一帯は地面まで凍っていてコツを掴まなければすってんころりんだ。頻繁にここを訪れている僕はもう慣れっこだがな。
「ひっ!イグニ様!足は大丈夫ですか!?今揺れた気が」
「……平気だ。少し滑った」
「やはりワタクシは降ります!イグニ様のお手を煩わせるわけにはいきません!」
「僕よりもヒダカの方が歩けないだろ?良いか?これも雪女様にかっこいい所を見せる場なのだ。きっと今も氷の塔で僕が立ち去るのを眺めているはず。仲間想いな一面を見せれば心臓を掴まれるはずだ」
「な、なるほど…?」
さぁいつでも見ていてください、雪女様。僕は仲間想いで従者を担げるほどの力を持っています。きっと雪女様も軽々と抱っこ出来るでしょう。
「ムフフフ」
「イグニ様、お気を確かに…」
氷の塔は静かに佇んでいる。僕はスキップしたい気持ちを抑えて優雅にアイシクル領から我が国の領へ向かったのだった。
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