50 / 53
異世界 〜離れないから、貴方も離れないで〜 雅人side
召され
しおりを挟む
火の燃える音だけが静寂に包まれたこの村で鳴っている。
村人は全員顔を下げて両手を合わせていた。
中央に建てられた木の棒には1人の人間が縛られている。
顔は布で覆われていて今、どんな表情をしているかわからない。
服装は全身真っ白な布を着ていてそれだけでも見惚れてしまう美しさをしている。
垂れ下がった足はとても綺麗にされていて病にかかっていた事を忘れてしまうほどだった。
「…………」
俺は他の村人達とは違い、顔を上げて胸に手を当て、まるで敬礼のような仕草で燃える炎を見ている。
これは俺自身が望んだ仕草だ。
正式な護衛とはいかなくても俺は巫女様が望んだ姿で居たいとおばあちゃんに許可を貰って、みんなとは違う立ち位置で祈りを捧げている。
ずっと火を見つめていると不思議な気持ちになってくるが、俺は祈りに集中した。
木の棒の下側は焦げ始め、黒く染まりつつある。
そろそろ心の準備を終わらせなければいけない。
「祈りを止めよ」
おばあちゃんの一言で村人は全員顔を上げる。
そしておばあちゃんは燃え盛る炎へ近づいて一礼をした。
「貴方様の弔いに我々が参加できた事。これは我々の人生の宝でございます。貴方様は1人で悩まれ、1人で村を守ろうとしてくれた。今ここに村人から感謝を申し上げます」
俺はおばあちゃんの話を聞きながら横目で村人を見る。
『あいつ来たせいで!村が……!あいつは祟りだ!魔物だ!この汚れた人の皮被った者め!』
巫女様の全てを知ってそう批判する人達も中にはいた。
儀式で意識と精神を入れ替え、村人達を洗脳した事実は魔術だとか化け物だとかを唱える者も少なくない。
俺が今視界に入れている人達もそう罵声を出している人達だ。
しかし今は嗚咽と共に涙を流している。
「貴方様の行いは全てが正しかったというわけではありません。しかし全てが間違っていたわけでもありません。貴方様は村を愛していた。そのことだけは強く我々は信じております」
次に俺が見たのは村長の家の裏にある井戸でよく会うふくよかな女性だ。
『信じた私達が間違っていた…!』
彼女も最初は巫女様の行いを受け入れられずに嘆いていたのを俺は知っている。
でも、
『なのに、まだ私は貴方と過ごしたかったと思ってしまう…』
心の底で湧き上がった本音が自然と口に出たことも俺は知っていた。
周りにいる他の女性達も自分の顔を覆って泣き叫ぶ。
これが本当に罪を犯した人の弔いの場なのかと疑いたくなるほどに村人は泣いていた。
俺は鼻をツンと痛めながらも涙を流さない。
泣いてしまったらきっと、躊躇いなく切れないから。
「貴方様が元の世界へ帰れる事を、我々は、心から…願っております……」
おばあちゃんは息を詰まらせながら頭を下げて話し続ける。
そして最後に自身の両手を重ねてより深くお辞儀をした。
「村人達。最後にあの方の姿を目にとらえよ」
その言葉に誰かが大きく泣き叫んだ。
それがまた誰かの涙の糸を切れさせて、次々と泣き声が聞こえる。
大人も子供も、みんな泣いていた。
「クソっ!クソっ!」
カルイは地面を叩いて蹲り叫ぶ。
「姉ちゃん!!」
ずっと炎の中心に向かって自分の姉を呼んでいた。
そして遂におばあちゃんが頭を上げて動き出す。
俺と目が合ったおばあちゃんは涙を流して頷いた。
「………さぁ!その剣でトドメをさすのじゃ!」
「……はい」
俺はおばあちゃんと交代するように火の近くへ歩き始める。
熱が俺の体に当たって顔を顰めてしまうがしここではまだ止まれない。
木の棒を中心に囲む焚き火は巫女様の体が括り付けられている方向だけ薪が置いてないので、この間を通って巫女様の亡骸へと向かうのだ。
俺は1歩ずつ村の土を強く踏んで巫女様の元へ辿り着く。
近くで見ると布から出ているスラっとした手足がより白く見える。
俺は自分が背負う白の眼の大剣の柄を握って鞘から抜き出した。
「………」
本来ならば巫女様を守るために作られた剣なのに守るべき主に刃を向けている。
俺はゆっくり目を瞑り息を整えた。
……余計な事は考えるな、感じるな。
一瞬で切れ。
目を開けて腕を天へと上げる。
「召されてください」
斜めに振りかぶった白の眼の大剣は感覚を俺に走らせる事なく、巫女様の体に傷を付けたのだった。
村人は全員顔を下げて両手を合わせていた。
中央に建てられた木の棒には1人の人間が縛られている。
顔は布で覆われていて今、どんな表情をしているかわからない。
服装は全身真っ白な布を着ていてそれだけでも見惚れてしまう美しさをしている。
垂れ下がった足はとても綺麗にされていて病にかかっていた事を忘れてしまうほどだった。
「…………」
俺は他の村人達とは違い、顔を上げて胸に手を当て、まるで敬礼のような仕草で燃える炎を見ている。
これは俺自身が望んだ仕草だ。
正式な護衛とはいかなくても俺は巫女様が望んだ姿で居たいとおばあちゃんに許可を貰って、みんなとは違う立ち位置で祈りを捧げている。
ずっと火を見つめていると不思議な気持ちになってくるが、俺は祈りに集中した。
木の棒の下側は焦げ始め、黒く染まりつつある。
そろそろ心の準備を終わらせなければいけない。
「祈りを止めよ」
おばあちゃんの一言で村人は全員顔を上げる。
そしておばあちゃんは燃え盛る炎へ近づいて一礼をした。
「貴方様の弔いに我々が参加できた事。これは我々の人生の宝でございます。貴方様は1人で悩まれ、1人で村を守ろうとしてくれた。今ここに村人から感謝を申し上げます」
俺はおばあちゃんの話を聞きながら横目で村人を見る。
『あいつ来たせいで!村が……!あいつは祟りだ!魔物だ!この汚れた人の皮被った者め!』
巫女様の全てを知ってそう批判する人達も中にはいた。
儀式で意識と精神を入れ替え、村人達を洗脳した事実は魔術だとか化け物だとかを唱える者も少なくない。
俺が今視界に入れている人達もそう罵声を出している人達だ。
しかし今は嗚咽と共に涙を流している。
「貴方様の行いは全てが正しかったというわけではありません。しかし全てが間違っていたわけでもありません。貴方様は村を愛していた。そのことだけは強く我々は信じております」
次に俺が見たのは村長の家の裏にある井戸でよく会うふくよかな女性だ。
『信じた私達が間違っていた…!』
彼女も最初は巫女様の行いを受け入れられずに嘆いていたのを俺は知っている。
でも、
『なのに、まだ私は貴方と過ごしたかったと思ってしまう…』
心の底で湧き上がった本音が自然と口に出たことも俺は知っていた。
周りにいる他の女性達も自分の顔を覆って泣き叫ぶ。
これが本当に罪を犯した人の弔いの場なのかと疑いたくなるほどに村人は泣いていた。
俺は鼻をツンと痛めながらも涙を流さない。
泣いてしまったらきっと、躊躇いなく切れないから。
「貴方様が元の世界へ帰れる事を、我々は、心から…願っております……」
おばあちゃんは息を詰まらせながら頭を下げて話し続ける。
そして最後に自身の両手を重ねてより深くお辞儀をした。
「村人達。最後にあの方の姿を目にとらえよ」
その言葉に誰かが大きく泣き叫んだ。
それがまた誰かの涙の糸を切れさせて、次々と泣き声が聞こえる。
大人も子供も、みんな泣いていた。
「クソっ!クソっ!」
カルイは地面を叩いて蹲り叫ぶ。
「姉ちゃん!!」
ずっと炎の中心に向かって自分の姉を呼んでいた。
そして遂におばあちゃんが頭を上げて動き出す。
俺と目が合ったおばあちゃんは涙を流して頷いた。
「………さぁ!その剣でトドメをさすのじゃ!」
「……はい」
俺はおばあちゃんと交代するように火の近くへ歩き始める。
熱が俺の体に当たって顔を顰めてしまうがしここではまだ止まれない。
木の棒を中心に囲む焚き火は巫女様の体が括り付けられている方向だけ薪が置いてないので、この間を通って巫女様の亡骸へと向かうのだ。
俺は1歩ずつ村の土を強く踏んで巫女様の元へ辿り着く。
近くで見ると布から出ているスラっとした手足がより白く見える。
俺は自分が背負う白の眼の大剣の柄を握って鞘から抜き出した。
「………」
本来ならば巫女様を守るために作られた剣なのに守るべき主に刃を向けている。
俺はゆっくり目を瞑り息を整えた。
……余計な事は考えるな、感じるな。
一瞬で切れ。
目を開けて腕を天へと上げる。
「召されてください」
斜めに振りかぶった白の眼の大剣は感覚を俺に走らせる事なく、巫女様の体に傷を付けたのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる