【完結】片想い転生 〜振られた次の日に2人で死んだので、異世界で恋を成就させます〜

雪村

文字の大きさ
上 下
45 / 53
異世界 〜貴方の大切さ〜 美姫side

どんな答えでも君の側に

しおりを挟む
でも私は負けたくない。

目の前で笑みを崩さずに微笑んでいる人には絶対負けたくなかった。


「雅人。このままで良いから聞いて」

「……」


腕の中に居る雅人をより強く抱きしめ、耳元に口を寄せて優しく話す。

自分の想いが全て伝わるように。

相変わらず返事は無いけど私は構わずに続けた。


「まず、お礼を言わせて。今日までずっと守ってくれてありがとう。雅人がいなくなってからそれに気付くなんて馬鹿だよね。本当に……馬鹿なんだよ。なのに、失って気付く馬鹿なのに、雅人は笑顔で私の側に居てくれた。きっと知らず知らずうちに私が傷つけたこともあったよね」

「………」

「次は謝らせて。本当にごめんなさい。巫女様に言われてやっと雅人が何かに悩んでいる事がわかった。でも、まだその何かはわからない。だから約束する。その悩みが解決するまで私は雅人の隣から……ううん。その悩みが解決しても、雅人から離れないよ。どんな事が雅人の中で渦を巻いているか私は知らないけど………。でも絶対に約束する。例え私の事が嫌いでも、好きでも、私は雅人の隣にいる」

「……」

「私は雅人が大切」


全て言い終わった私は抱える雅人の頭に頬を擦り寄せた。

そして下に降ろしている雅人の手を片手で強く握る。

雅人に取ってはきっと強く握っても私の力では痛くないだろう。

だから遠慮なく握らせてもらった。


「ゲホッ、、ゲホッ」

「巫女様?」

「ふぅ…ゲホッ。そろそろ、ですかね…」


雅人と私の邪魔をするかのように咳き込む巫女様は口に手を当てながら私を見つめる。

わざとの咳きではなさそうだが、その表情は先程と打って変わっていて笑みなどは浮かんでなかった。


「何をするつもりですか?」

「雅人を寄越して」

「嫌です」

「それなら貴方をちょうだい」

「わ、私?」

「ええ。人1人居れば十分」

「まさか…生贄ですか?」

「本当、美姫は頭が冴えますね」


巫女様は立ち上がって私達の所へ歩いてくる。

その姿は亡霊のように恐ろしく、ゆらゆらと体を揺らし近づいていた。

私は雅人を庇うように自分の体を前に出す。

今は、私が守らなくてはいけない。


「せっかく雅人の気持ちが固まったと言うのに……貴方が…」

「雅人も私も生贄なんかならない」

「貴方さえ、あんな言葉をかけなければ、雅人は素直に洗脳されていたのに……」


瞬時にわかった。

きっと巫女様は雅人の弱みに入って良い言葉で生贄とは言わずに一緒に帰ろうとでも言ったのだ。

私が雅人に言った言葉がどう影響を与えたのかはわからないけど、きっと雅人の心が変わったのかもしれない。

私は徐々に縮まる巫女様との距離を保つべく背中の大剣を降ろして引き抜き、突き出した。

白の眼はこんな暗い部屋でもキラキラと輝いている。

鋭い剣先は巫女様の足を止めさせた。


「それが護衛用の武器ですか?」

「もう貴方の為の物ではありません」

「この剣を携え、護衛服を着る雅人が見てみたかった」

「貴方が雅人の話をしないで!!」

「その剣でどうするつもりでしょうか?私を刺しますか?平和で武器のない日本で生まれ育った美姫が?」

「… っ!」


私が持つ大剣は小さく震えていた。

雅人を抱き寄せるために片手は塞がっているので余計に震えが増す。

突き出した事によって巫女様が怖気付いてくれればと思っていたのに無効だ。

全く怖がっていない。

寧ろ、馬鹿にしたような笑みをしている。


「儀式の準備に時間がかかり過ぎてしまいました。もう少し早く終わればさっさと雅人を連れて行けたのに」

「連れて…?殺しての間違いでしょう?」

「ふふっ」

「私は貴方を刺そうと思いここに来たわけではありません。でも、これ以上近寄るのであれば本当に突き刺します」

「突き刺した後は?」

「白虎様の元へ連れて行きます」

「そう……」

「本心を言えば貴方にはお世話になりました。戦いたくありません。…降参してください」

 
巫女様にこれでもかと言うほど睨みつけて私は近寄らせなかった。

しかし1回咳払いした巫女様は覚悟を決めた顔でまた足を踏み出す。

私は剣を前へと突き出すがもう止まることはなかった。


「私は……帰りたいのです」


そう私に言った巫女様の瞳からは一雫が流れて頬を伝う。

私はその姿に驚き、手に持つ剣を降ろしてしまう。

それを好機と捉えた巫女様はそのまま素早く私達へと近寄ってきた。


「離れてください」


いつもより低い声が私の腕の中から聞こえたと思えば右手に握っていた大剣を取られて守るように前に立つ。

座っている私に背を向けて剣を構えるのは紛れもなく雅人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

処理中です...