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異世界 〜迷い恋〜
この時がずっと
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森の中を歩く帰り道。
美姫ちゃんと並びながら向かう村への歩幅は小さく、少しゆっくりだった。
「色々とびっくりしたね」
「うん……」
「雅人大丈夫?」
「よく、わからない。でもたぶん大丈夫」
「そっか。私もそんな感じ」
ポツリポツリと言葉を交わしながら俺と美姫ちゃんは村との境の門を潜る。
声だけで2人して気分が沈んでいた。
「俺、答え間違ったかな…」
ずっと頭の中で反響する巫女様の声はいつもより冷たい。
たった一言がこんなにも考えさせられるとは。
美姫ちゃんは凹む俺の様子を見て意識して声を明るくしてくれる。
そんな優しさが心に染みると同時に虚しくなった。
「私も雅人と同じ考えだよ。だから大丈夫」
「うん。………美姫ちゃんに言われる大丈夫はなんか本当な気がして安心する」
「そう?でもあまり言わない方がいいかな?適当な奴って思われるかもしれない…」
「俺はそうは思わないよ。まぁ人それぞれだからどう思うかはその人次第だけどね」
「それなら私は、雅人が私に対して話す口調が安心する」
「どう言う事?」
「なんか優しく聞こえるの。私の勘違いかもしれないけど、雅人が友達と話す時やおばさん達と話す時とはなんか違う気がする」
美姫ちゃんは俺の方を向いて微笑む。
完全なる無意識だけど、それはきっと美姫ちゃんが特別だからだ。
嫌われないように知らず知らずのうちに柔らかい口調にしていたのかもしれない。
言われて初めて気付いた口調に俺は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
美姫ちゃんにバレてからかわれる。
けれど嫌な気持ちにならないのは相手に片想いをしているのが原因。
腕で顔を隠し、俺は隣を歩く美姫ちゃんのからかいを食いながら着々と村の入り口へと進んで行く。
「そ、そういえば!一応護衛の延期とは言え武器取りに行くね!カルイの用事もまだ終わってないし!!」
「ふふっ、焦ってる焦ってる」
「美姫ちゃん……!」
「ごめんね。可愛くて」
「可愛いはちょっと」
「はいはい。雅人はかっこいい、かっこいい」
「気持ち込もってないなぁ…」
「でも嬉しそうだよ?」
「………」
沈んだ空気が一瞬で無くなったのは良いことだけど、俺の心がもたなくなる。
例え美姫ちゃんが本心でなくてもかっこいいと言われたり、近くに来て顔を覗き込まれたりするだけで爆発しそうだ。
きっと俺はずっと美姫ちゃんに頭が上がらないのだろうな。
……叶っても叶わなくても。
「私も一緒に行っていい?」
「カルイの家に?」
「雅人に着いていく」
「それって昨日の俺?」
「うん」
「良いけど…」
「それは私の真似?」
「うん」
「似てない」
「似せたつもりなんだけど…」
俺達は目を合わせてまた笑い合う。
美姫ちゃんが俺の特徴を言って、俺がそれを否定しながら自分を教える。
こんな時間がずっと続いて欲しいと思うくらいに楽しく感じた。
しかし心の中は晴れない。
巫女様の言葉、そして何処かから感じる冷たい視線が俺の中に突き刺さっていた。
ーーーーーー
村に戻った俺達は真っ直ぐにカルイの家へ向かう。
俺は2回目で、美姫ちゃんは初めてだ。
日の傾きからしてまだ夕方ではないが、時刻で表せば午後の3時くらいだろう。
途中途中、村人に挨拶されながらカルイの家の前に着いて俺はノックしてから玄関を開けた。
「お邪魔します。雅人です」
「美姫です」
「おっ、来たか!早いな!」
ちょうど俺が開いたら奥ののれんからカルイのお父さんが登場する。
汗だくで手拭いを頭に巻いている姿を見ると頑張って作ってくれてるんだと感動した。
それなのに護衛を延期してしまうのは申し訳なくなる。
でもカルイのお父さんならわかってくれるはずだ。
問題はアキロの家にいるおじいさんになんて話すかだけど…。
「もう少し待っててくれ!最後の段階だからな」
「大丈夫。逆にごめん。早く来すぎた」
「ハハっ、遅く来るよりはマシだ。美姫も上がってくれ」
「ありがとうございます」
カルイのお父さんはそう言うとお茶の準備を始めてくれる。
丁寧に美姫ちゃんが断ってくれたけど、そうはいかないらしく素早いスピードでお茶を出してくれた。
「妻がそういうのをちゃんとする人なんだ。ちょっと今は起きれないから別の部屋で寝ているけどな。だからあの人が起きれるようになるまではもてなすのも俺の仕事だ」
「体調が悪いんですか?」
「ある時からな。カルイの姉が居なくなったあたりに」
「あっ、」
「雅人は知ってるか。…まぁ気にしないでくれ。妻が寝ているからって静かにしなくても良い。騒がしい方がかえって気分が良くなるんだ」
俺は出してもらったお茶を飲みながら頷く。
美姫ちゃんは事情を何も知らないので相槌を打ちながらもハテナマークを浮かばせていた。
カルイのお父さんが奥ののれんを潜って居間から居なくなると俺は美姫ちゃんの耳に口を寄せる。
美姫ちゃんも聞く気満々で自分から寄ってきた。
「カルイのお姉さん、行方不明らしいんだ」
「そ、そうなの?」
「村の人からは神隠しって言われてる。おばあちゃんの息子さんの話によれば」
「だからか……」
美姫ちゃんは納得して閉まりきっている1つの扉を見つめた。
たぶん別室はあの部屋だ。
他は開放的に開いてあるのに1番端にある部屋だけ扉がピッタリと閉じていた。
「捜索はしてるの?」
「わからない。でも2年は経ってるって言ってたんだ。もしかしたら……」
「うん……」
それ以上の言葉は口にはしなかったけど美姫ちゃんはちゃんと読み取ってくれた。
俺と美姫ちゃんは話終わると体を離してお茶を飲む。
すると奥の方から金属を叩くような音が聞こえた。
大きく鳴り響く音。
もしかしたらカルイのお父さんはわざと大きな音を出しながら仕事をしているのかもしれない。
そんな中、カルイの元気な声も聞こえてくる。
俺は少し安心しながら、金属を叩く音をBGMにお茶を飲んでいた。
美姫ちゃんと並びながら向かう村への歩幅は小さく、少しゆっくりだった。
「色々とびっくりしたね」
「うん……」
「雅人大丈夫?」
「よく、わからない。でもたぶん大丈夫」
「そっか。私もそんな感じ」
ポツリポツリと言葉を交わしながら俺と美姫ちゃんは村との境の門を潜る。
声だけで2人して気分が沈んでいた。
「俺、答え間違ったかな…」
ずっと頭の中で反響する巫女様の声はいつもより冷たい。
たった一言がこんなにも考えさせられるとは。
美姫ちゃんは凹む俺の様子を見て意識して声を明るくしてくれる。
そんな優しさが心に染みると同時に虚しくなった。
「私も雅人と同じ考えだよ。だから大丈夫」
「うん。………美姫ちゃんに言われる大丈夫はなんか本当な気がして安心する」
「そう?でもあまり言わない方がいいかな?適当な奴って思われるかもしれない…」
「俺はそうは思わないよ。まぁ人それぞれだからどう思うかはその人次第だけどね」
「それなら私は、雅人が私に対して話す口調が安心する」
「どう言う事?」
「なんか優しく聞こえるの。私の勘違いかもしれないけど、雅人が友達と話す時やおばさん達と話す時とはなんか違う気がする」
美姫ちゃんは俺の方を向いて微笑む。
完全なる無意識だけど、それはきっと美姫ちゃんが特別だからだ。
嫌われないように知らず知らずのうちに柔らかい口調にしていたのかもしれない。
言われて初めて気付いた口調に俺は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
美姫ちゃんにバレてからかわれる。
けれど嫌な気持ちにならないのは相手に片想いをしているのが原因。
腕で顔を隠し、俺は隣を歩く美姫ちゃんのからかいを食いながら着々と村の入り口へと進んで行く。
「そ、そういえば!一応護衛の延期とは言え武器取りに行くね!カルイの用事もまだ終わってないし!!」
「ふふっ、焦ってる焦ってる」
「美姫ちゃん……!」
「ごめんね。可愛くて」
「可愛いはちょっと」
「はいはい。雅人はかっこいい、かっこいい」
「気持ち込もってないなぁ…」
「でも嬉しそうだよ?」
「………」
沈んだ空気が一瞬で無くなったのは良いことだけど、俺の心がもたなくなる。
例え美姫ちゃんが本心でなくてもかっこいいと言われたり、近くに来て顔を覗き込まれたりするだけで爆発しそうだ。
きっと俺はずっと美姫ちゃんに頭が上がらないのだろうな。
……叶っても叶わなくても。
「私も一緒に行っていい?」
「カルイの家に?」
「雅人に着いていく」
「それって昨日の俺?」
「うん」
「良いけど…」
「それは私の真似?」
「うん」
「似てない」
「似せたつもりなんだけど…」
俺達は目を合わせてまた笑い合う。
美姫ちゃんが俺の特徴を言って、俺がそれを否定しながら自分を教える。
こんな時間がずっと続いて欲しいと思うくらいに楽しく感じた。
しかし心の中は晴れない。
巫女様の言葉、そして何処かから感じる冷たい視線が俺の中に突き刺さっていた。
ーーーーーー
村に戻った俺達は真っ直ぐにカルイの家へ向かう。
俺は2回目で、美姫ちゃんは初めてだ。
日の傾きからしてまだ夕方ではないが、時刻で表せば午後の3時くらいだろう。
途中途中、村人に挨拶されながらカルイの家の前に着いて俺はノックしてから玄関を開けた。
「お邪魔します。雅人です」
「美姫です」
「おっ、来たか!早いな!」
ちょうど俺が開いたら奥ののれんからカルイのお父さんが登場する。
汗だくで手拭いを頭に巻いている姿を見ると頑張って作ってくれてるんだと感動した。
それなのに護衛を延期してしまうのは申し訳なくなる。
でもカルイのお父さんならわかってくれるはずだ。
問題はアキロの家にいるおじいさんになんて話すかだけど…。
「もう少し待っててくれ!最後の段階だからな」
「大丈夫。逆にごめん。早く来すぎた」
「ハハっ、遅く来るよりはマシだ。美姫も上がってくれ」
「ありがとうございます」
カルイのお父さんはそう言うとお茶の準備を始めてくれる。
丁寧に美姫ちゃんが断ってくれたけど、そうはいかないらしく素早いスピードでお茶を出してくれた。
「妻がそういうのをちゃんとする人なんだ。ちょっと今は起きれないから別の部屋で寝ているけどな。だからあの人が起きれるようになるまではもてなすのも俺の仕事だ」
「体調が悪いんですか?」
「ある時からな。カルイの姉が居なくなったあたりに」
「あっ、」
「雅人は知ってるか。…まぁ気にしないでくれ。妻が寝ているからって静かにしなくても良い。騒がしい方がかえって気分が良くなるんだ」
俺は出してもらったお茶を飲みながら頷く。
美姫ちゃんは事情を何も知らないので相槌を打ちながらもハテナマークを浮かばせていた。
カルイのお父さんが奥ののれんを潜って居間から居なくなると俺は美姫ちゃんの耳に口を寄せる。
美姫ちゃんも聞く気満々で自分から寄ってきた。
「カルイのお姉さん、行方不明らしいんだ」
「そ、そうなの?」
「村の人からは神隠しって言われてる。おばあちゃんの息子さんの話によれば」
「だからか……」
美姫ちゃんは納得して閉まりきっている1つの扉を見つめた。
たぶん別室はあの部屋だ。
他は開放的に開いてあるのに1番端にある部屋だけ扉がピッタリと閉じていた。
「捜索はしてるの?」
「わからない。でも2年は経ってるって言ってたんだ。もしかしたら……」
「うん……」
それ以上の言葉は口にはしなかったけど美姫ちゃんはちゃんと読み取ってくれた。
俺と美姫ちゃんは話終わると体を離してお茶を飲む。
すると奥の方から金属を叩くような音が聞こえた。
大きく鳴り響く音。
もしかしたらカルイのお父さんはわざと大きな音を出しながら仕事をしているのかもしれない。
そんな中、カルイの元気な声も聞こえてくる。
俺は少し安心しながら、金属を叩く音をBGMにお茶を飲んでいた。
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