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異世界 〜不可解〜
細い目線
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「今の生活が幸せなの。たった3日くらいでも毎日が充実している。元の世界より楽しいって思えちゃう。それに……」
「それに?」
「この世界に来たら、胸の中の突っ掛かりが取れたから…」
「突っ掛かり…?」
いつもより聞こえづらい声で話す美姫ちゃんは俺を見ずに社の床をみて話す。
突っ掛かりとは話の流れからして元の世界で何かあったのか。
元の世界とこの世界は全く違う。
それは環境や生活だけじゃなく、空気から空まで違うのだ。
美姫ちゃんが言う充実の点も俺は十分理解できる。
東京にいた時は何かに縛られながら動く事が多かったのに対してこの世界は自由そのものだ。
それでも美姫ちゃんが話す突っ掛かりとは別らしい。
俺は首を傾げながら言葉の紐を解くように考える。
「突っ掛かりって何?ごめん。俺、理解力が無いから」
「…雅人はこの世界に来た時の事覚えてる?」
「森で寝ていたところを、カルイに助けられたんだよね?そして村に案内してもらった」
「違う、その前」
「前?どうやってこの世界に来たのかって事?それはわからないけど…」
「前も言ったかもしれないけど、私に学校一緒に帰ろうって言われて帰る直前のことしか覚えてないの」
「そういえば、言ってたね」
「もしかしたら元の世界に戻る手がかりがあるかもしれないって思って思い出そうとするんだけど…」
「えっ思い出したの?」
俺は少し焦ってしまい前のめりになる。
言った告白は忘れられるとはいえ思い出してしまったら終わりだ。
振り出しに戻ることになる。
俺の背中に冷や汗が出てくるのを感じた。
しかし美姫ちゃんは首を横に張って否定する。
その様子に恐ろしく速くなっていた心臓が息を吐く事に落ち着いていく。
結構ハラハラしてしまった。
俺はまた自分の座布団の位置に戻って美姫ちゃんから出る言葉に耳を傾ける。
「考えれば考えるほど、頭が真っ白になるの。でもその感覚が嫌じゃなくて寧ろ心地いい。詰まってたものが取れる感じがする」
「そっか…」
俺は細く息を吐き切りながら力を抜く。
美姫ちゃんは意図的に言ったわけじゃないけど、発せられた言葉から読み取れるのは美姫ちゃんにとって俺からの告白は迷惑だったと言うこと。
突っ掛かり=俺からの告白だろう。
俺はずっと見ていた美姫ちゃんの目から視線を離して巫女様と向かい合うように座り直す。
「俺からは何も言わないよ。ただ、これだけは頭に入れておいて欲しいんだ」
「何…?」
「美姫ちゃんが本当に聞きたいってなったら俺はちゃんと話すから。だからその時はいつでも言って」
美姫ちゃんは何も言わなかった。
俺は顔を見なくたって頭の中には美姫ちゃんの今の表情が浮かんでいる。
俺は1回目をギュッと瞑って心を整えると目を開け、巫女様に口を開く。
「一方的でごめんなさい。だけど俺から巫女様にお願いがあります」
「何でしょうか」
「護衛のお仕事を準備出来次第ではなく、少し落ち着いてからでも良いですか?」
「ええ、雅人がそう言うなら私はその意見を尊重します」
「ありがとう、ございます」
巫女様はいつもと同じ声と同じ雰囲気で答える。
この人は本当に優しい。
部外者同然の俺の願いを聞き入れてくれるのだから。
自分から言っといて申し訳なさが溢れ上がってくるけど、顔に出ないよう力を入れた。
すると巫女様は少し目を細める。
それは最後に別れるときにした白虎様と同じ目だった。
「それではこちらから雅人に質問を」
「……はい」
次なる一言は俺の頬にビンタをするように、重く鋭いものだった。
「死ぬ事は怖いですか?」
「……え?」
俺は2度見するように巫女様に驚く表情を見せてしまう。
顔に入れた力は何処かに行ってしまった。
ずっと視線を床に当てていた美姫ちゃんも勢いよく顔を上げる。
巫女様は、ずっと目を細めて視線で俺を捕らえていた。
「それに?」
「この世界に来たら、胸の中の突っ掛かりが取れたから…」
「突っ掛かり…?」
いつもより聞こえづらい声で話す美姫ちゃんは俺を見ずに社の床をみて話す。
突っ掛かりとは話の流れからして元の世界で何かあったのか。
元の世界とこの世界は全く違う。
それは環境や生活だけじゃなく、空気から空まで違うのだ。
美姫ちゃんが言う充実の点も俺は十分理解できる。
東京にいた時は何かに縛られながら動く事が多かったのに対してこの世界は自由そのものだ。
それでも美姫ちゃんが話す突っ掛かりとは別らしい。
俺は首を傾げながら言葉の紐を解くように考える。
「突っ掛かりって何?ごめん。俺、理解力が無いから」
「…雅人はこの世界に来た時の事覚えてる?」
「森で寝ていたところを、カルイに助けられたんだよね?そして村に案内してもらった」
「違う、その前」
「前?どうやってこの世界に来たのかって事?それはわからないけど…」
「前も言ったかもしれないけど、私に学校一緒に帰ろうって言われて帰る直前のことしか覚えてないの」
「そういえば、言ってたね」
「もしかしたら元の世界に戻る手がかりがあるかもしれないって思って思い出そうとするんだけど…」
「えっ思い出したの?」
俺は少し焦ってしまい前のめりになる。
言った告白は忘れられるとはいえ思い出してしまったら終わりだ。
振り出しに戻ることになる。
俺の背中に冷や汗が出てくるのを感じた。
しかし美姫ちゃんは首を横に張って否定する。
その様子に恐ろしく速くなっていた心臓が息を吐く事に落ち着いていく。
結構ハラハラしてしまった。
俺はまた自分の座布団の位置に戻って美姫ちゃんから出る言葉に耳を傾ける。
「考えれば考えるほど、頭が真っ白になるの。でもその感覚が嫌じゃなくて寧ろ心地いい。詰まってたものが取れる感じがする」
「そっか…」
俺は細く息を吐き切りながら力を抜く。
美姫ちゃんは意図的に言ったわけじゃないけど、発せられた言葉から読み取れるのは美姫ちゃんにとって俺からの告白は迷惑だったと言うこと。
突っ掛かり=俺からの告白だろう。
俺はずっと見ていた美姫ちゃんの目から視線を離して巫女様と向かい合うように座り直す。
「俺からは何も言わないよ。ただ、これだけは頭に入れておいて欲しいんだ」
「何…?」
「美姫ちゃんが本当に聞きたいってなったら俺はちゃんと話すから。だからその時はいつでも言って」
美姫ちゃんは何も言わなかった。
俺は顔を見なくたって頭の中には美姫ちゃんの今の表情が浮かんでいる。
俺は1回目をギュッと瞑って心を整えると目を開け、巫女様に口を開く。
「一方的でごめんなさい。だけど俺から巫女様にお願いがあります」
「何でしょうか」
「護衛のお仕事を準備出来次第ではなく、少し落ち着いてからでも良いですか?」
「ええ、雅人がそう言うなら私はその意見を尊重します」
「ありがとう、ございます」
巫女様はいつもと同じ声と同じ雰囲気で答える。
この人は本当に優しい。
部外者同然の俺の願いを聞き入れてくれるのだから。
自分から言っといて申し訳なさが溢れ上がってくるけど、顔に出ないよう力を入れた。
すると巫女様は少し目を細める。
それは最後に別れるときにした白虎様と同じ目だった。
「それではこちらから雅人に質問を」
「……はい」
次なる一言は俺の頬にビンタをするように、重く鋭いものだった。
「死ぬ事は怖いですか?」
「……え?」
俺は2度見するように巫女様に驚く表情を見せてしまう。
顔に入れた力は何処かに行ってしまった。
ずっと視線を床に当てていた美姫ちゃんも勢いよく顔を上げる。
巫女様は、ずっと目を細めて視線で俺を捕らえていた。
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