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異世界 〜不可解〜
風
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「美姫ちゃん、俺今日は巫女様の所へ行ってから武器を取りに行くね。だからまた別行動になるけど…」
「私も一緒に行こうか?」
「ううん。俺1人で行かせて」
「わかった。それなら私はおばあちゃん家のお嫁さんに色々習ってくるね」
「習う?何を?」
「料理」
「美姫ちゃんが作ってくれるの?」
「雅人が良ければ…」
「食べたい!!」
「ふふっ、わかった。頑張って勉強するね」
「でも無理はしなくていいから…」
「うん」
美姫ちゃんは味噌汁を啜り朝ごはんを完食した。
立ち上がってさっきの俺と同じように流しで皿洗いをする。
そんな後ろ姿を見て俺は思い出したように声をかけた。
「アキロには気をつけてね」
「はいはい」
半分笑いながら答える美姫ちゃん。
昨日の俺からの告白を忘れてるとはいえアキロの存在には油断できない。
もしかしたらアキロも俺の告白を忘れているだろうか。
考えれば考えるほどわからなくなってこんがらがる。
結局巫女様頼りになってしまうな。
俺は皿洗いしている美姫ちゃんに声をかけて玄関へ向かうと、汚れが目立つスニーカーを履いて外へ出た。
「雅人、いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
一瞬だけ振り返ってくれて美姫ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。
そんな姿を見ると告白なんてしない方がいいと思ってしまう。
自分で壊すくらいなら、黙って現状維持していた方が幸せだ。
「でも、それで良いのかな…」
複雑な恋心は俺の思考を正常ではなくする。
色んなパターンの考えが一気に溢れ出るから。
俺は玄関を閉めると朝の光を浴びながら巫女様がいる森へと足を進めた。
ーーーーーー
もう何回も来ていますよ的な感じで祈りを捧げて巫女様の社へ着くと昨日と同じで自然と扉が開く。
やはり自動ドアなのだろうか。
でもセンサーとかは見当たらないからきっと違うはずだ。
美姫ちゃんの事といい、巫女様の社といい不思議がありすぎて訳がわからなくなる。
「よく来ましたね。雅人」
「巫女様、おはようございます」
「ええ、もう準備は整ったのですか?」
扉の先には定位置に座る巫女様。
まるで俺が来るのを見透かしたように待っていた。
巫女様は俺の姿を見ながら確認する。
しかし俺は目の前に手を持ってきて横に振った。
「まだ護衛の準備は出来てません。別の用事で来てしまいました」
「なるほど。別件ですか。構いませんよ」
「ありがとうございます」
「立ってないで座ってください」
「はい」
巫女様の優しい声が俺を静かに動かす。
面と向かって喋れるように同じ席に座った。
「実は美姫ちゃんの事なんです」
「美姫のこと…?」
「その、記憶が抜けているというか」
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい。その、昨日色々ありまして少し気まずい雰囲気になってしまったんです。でも朝起きたら美姫ちゃんは全く気にしてないようで違和感があって聞いてみたところ、昨日の事は忘れているようでした」
「それは全てですか?」
「いえ、ほんの一部です」
「…雅人。色々を教える事は?」
「えっと……」
俺は恥ずかしくて少し迷ってしまう。
巫女様は人に言いふらすような方ではないのは知っているけど、言う気にはなれない。
どうすればいいか口を閉じていると巫女様は急に立ち上がった。
「巫女様?」
「雅人!伏せなさい!!!」
「えっ!」
巫女様の声に反射的に俺は体を下へ向ける。
すると扉が勢いよく開いたと思えば強風が流れ込んできた。
「な…!」
「そのままじっとしててください!!」
「は、はい!!」
俺は床に這いつくばるように体を押さえつける。
一瞬でも力を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな風だった。
社にある書物や飾り物は全て落ちて部屋がぐちゃぐちゃになってしまう。
巫女様は顔の前に腕を持ってきて飛んでくる家具が当たらないように立っていた。
しかし風は収まる事なく吹き続ける。
「厄災か……!」
巫女様は全身を風に吹かれながらそう言った。
厄災の言葉で俺はハッとする。
俺達と同じ状況の物語に出てきた言葉。
それなら対処法は俺か美姫ちゃんにあるのではないか。
回転の悪い頭でもそれは瞬時に理解できて床に体を付けながら巫女様に向かって話す。
「巫女様!俺に出来る事は!?」
「わかりません!!こんなの初めてなのです!今は書物も漁れない!白虎様と通じてみるので少々お待ちください!」
いつも落ち着いている巫女様が取り乱すように叫ぶ。
きっと風の影響で声が聞こえにくいからと言うのもあるかもしれないが、そんな様子に俺は焦ることしか出来なかった。
村は大丈夫だろうか。
美姫ちゃんは無事だろうか。
駆け巡るように色んな疑問が出てくる。
しかし風は強くなる一方で俺が瞬きをした瞬間、体が宙を舞った。
「え…」
「雅人!」
巫女様が懸命に伸ばしている手を掴もうと俺も伸ばすが俺は社の外に吹き飛ばされる。
回転するように暴れ回る体を止めることが出来ず、俺は意識を失った。
「私も一緒に行こうか?」
「ううん。俺1人で行かせて」
「わかった。それなら私はおばあちゃん家のお嫁さんに色々習ってくるね」
「習う?何を?」
「料理」
「美姫ちゃんが作ってくれるの?」
「雅人が良ければ…」
「食べたい!!」
「ふふっ、わかった。頑張って勉強するね」
「でも無理はしなくていいから…」
「うん」
美姫ちゃんは味噌汁を啜り朝ごはんを完食した。
立ち上がってさっきの俺と同じように流しで皿洗いをする。
そんな後ろ姿を見て俺は思い出したように声をかけた。
「アキロには気をつけてね」
「はいはい」
半分笑いながら答える美姫ちゃん。
昨日の俺からの告白を忘れてるとはいえアキロの存在には油断できない。
もしかしたらアキロも俺の告白を忘れているだろうか。
考えれば考えるほどわからなくなってこんがらがる。
結局巫女様頼りになってしまうな。
俺は皿洗いしている美姫ちゃんに声をかけて玄関へ向かうと、汚れが目立つスニーカーを履いて外へ出た。
「雅人、いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
一瞬だけ振り返ってくれて美姫ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。
そんな姿を見ると告白なんてしない方がいいと思ってしまう。
自分で壊すくらいなら、黙って現状維持していた方が幸せだ。
「でも、それで良いのかな…」
複雑な恋心は俺の思考を正常ではなくする。
色んなパターンの考えが一気に溢れ出るから。
俺は玄関を閉めると朝の光を浴びながら巫女様がいる森へと足を進めた。
ーーーーーー
もう何回も来ていますよ的な感じで祈りを捧げて巫女様の社へ着くと昨日と同じで自然と扉が開く。
やはり自動ドアなのだろうか。
でもセンサーとかは見当たらないからきっと違うはずだ。
美姫ちゃんの事といい、巫女様の社といい不思議がありすぎて訳がわからなくなる。
「よく来ましたね。雅人」
「巫女様、おはようございます」
「ええ、もう準備は整ったのですか?」
扉の先には定位置に座る巫女様。
まるで俺が来るのを見透かしたように待っていた。
巫女様は俺の姿を見ながら確認する。
しかし俺は目の前に手を持ってきて横に振った。
「まだ護衛の準備は出来てません。別の用事で来てしまいました」
「なるほど。別件ですか。構いませんよ」
「ありがとうございます」
「立ってないで座ってください」
「はい」
巫女様の優しい声が俺を静かに動かす。
面と向かって喋れるように同じ席に座った。
「実は美姫ちゃんの事なんです」
「美姫のこと…?」
「その、記憶が抜けているというか」
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい。その、昨日色々ありまして少し気まずい雰囲気になってしまったんです。でも朝起きたら美姫ちゃんは全く気にしてないようで違和感があって聞いてみたところ、昨日の事は忘れているようでした」
「それは全てですか?」
「いえ、ほんの一部です」
「…雅人。色々を教える事は?」
「えっと……」
俺は恥ずかしくて少し迷ってしまう。
巫女様は人に言いふらすような方ではないのは知っているけど、言う気にはなれない。
どうすればいいか口を閉じていると巫女様は急に立ち上がった。
「巫女様?」
「雅人!伏せなさい!!!」
「えっ!」
巫女様の声に反射的に俺は体を下へ向ける。
すると扉が勢いよく開いたと思えば強風が流れ込んできた。
「な…!」
「そのままじっとしててください!!」
「は、はい!!」
俺は床に這いつくばるように体を押さえつける。
一瞬でも力を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな風だった。
社にある書物や飾り物は全て落ちて部屋がぐちゃぐちゃになってしまう。
巫女様は顔の前に腕を持ってきて飛んでくる家具が当たらないように立っていた。
しかし風は収まる事なく吹き続ける。
「厄災か……!」
巫女様は全身を風に吹かれながらそう言った。
厄災の言葉で俺はハッとする。
俺達と同じ状況の物語に出てきた言葉。
それなら対処法は俺か美姫ちゃんにあるのではないか。
回転の悪い頭でもそれは瞬時に理解できて床に体を付けながら巫女様に向かって話す。
「巫女様!俺に出来る事は!?」
「わかりません!!こんなの初めてなのです!今は書物も漁れない!白虎様と通じてみるので少々お待ちください!」
いつも落ち着いている巫女様が取り乱すように叫ぶ。
きっと風の影響で声が聞こえにくいからと言うのもあるかもしれないが、そんな様子に俺は焦ることしか出来なかった。
村は大丈夫だろうか。
美姫ちゃんは無事だろうか。
駆け巡るように色んな疑問が出てくる。
しかし風は強くなる一方で俺が瞬きをした瞬間、体が宙を舞った。
「え…」
「雅人!」
巫女様が懸命に伸ばしている手を掴もうと俺も伸ばすが俺は社の外に吹き飛ばされる。
回転するように暴れ回る体を止めることが出来ず、俺は意識を失った。
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