上 下
24 / 53
異世界 〜不可解〜

忘れられた告白

しおりを挟む
涙を拭いて家へ戻ると美姫ちゃんは囲炉裏の前に持ってきてもらった食事を並べていた。

色とりどりの料理が本当に美味しそうだ。

実際に食べても美味しい。

俺はバケツを台所の近くへ置いて、囲炉裏付近に敷いてある座布団へ座ると美姫ちゃんも同じように向かい側に座った。



「「いただきます」」



2人で手を合わせてご飯を食べ始める。

昨日の朝は話に花を咲かせていたはずなのに今日は全く会話がない。

まるで花が萎んだようだった。

俺と美姫ちゃんは黙々とご飯を食べ進める。

ここ何日かは美姫ちゃんと気まずい雰囲気になることの方が多い。

全ては俺の言葉のせいだ。

告白なんてしなければ良かったかもしれない。

やっと後悔が襲ってきてご飯の味がよくわからなかった。

先に食べ終えた俺は食器を流しに持っていく。

その行動に美姫ちゃんは囲炉裏の方から声をかけた。



「お皿洗っておくから」

「大丈夫。自分でやるよ」

「そう…」



美姫ちゃんはそれ以上何も言わなかった。

俺は汲んできたバケツの水を使って皿を華麗に洗う。

元々いた世界でもやった事ない皿洗いだけど、ぎこちない手つきでも洗うことは出来る。

美姫ちゃんに頼りっぱなしはダメだ。

もう、同棲気分ではいられないのだから。

俺は自分が使った物を全て洗い終えると手の水を切りながら囲炉裏へ戻る。

美姫ちゃんはまだご飯を食べていた。

急ぐことなく自分のペースで。



「美姫ちゃん」

「何?」

「これからは別行動が増えるから自分の事は自分でやるよ」

「でも、雅人は護衛で疲れちゃうでしょ?私も家事は出来るからさ…」

「……」

「全然迷惑じゃないんだよ?もっと頼って欲しいって言うか…」

「ダメなんだって!!」

「ま、雅人?」



俺は思わず大きな声を出してしまう。

それは美姫ちゃんに言うためではなく、俺自身に言い聞かせるためだった。

でも美姫ちゃんは自分に言われたと思って驚き目を大きく開けて固まっている。

俺は声を極力抑えながら溢れそうになる自分の気持ちを伝えた。



「ダメなんだって…」

「何でよ。理由は?」

「何でも良いだろ」

「私が納得できない!」

「俺だって言いたくない事だってある!」

「でもこれからもこの家で過ごすんだよ!?お互いに知っていた方がいいじゃん!!」

「何で……」

「え?」

「何でそんなに普通で居られるんだよ!昨日の俺の言葉を聞いても何でもない顔してんだ!少しは拒絶すれば良いだろ!気持ち悪いって言えば良いだろ!一緒に過ごすからって、、言ってないのは美姫ちゃんの方だ!」

「雅人、何言って……」



お互いに言い合って次第に熱くなる。

俺は溢れ出してしまった最後の言葉で息を切らすように話してしまった。

しかし美姫ちゃんはこんなに強く言っても首を傾げるだけ。

全く俺の気持ちが伝わってないようだった。

俺は無性にその姿に苛立ちを感じる。

初めて美姫ちゃんに怒りを向けた。



「なんで、気持ち悪いって思うの…?」

「そりゃ、俺が好きな…」

「雅人昨日何も変なこと言ってないじゃん」

「…え」



俺は拍子抜けたような返事と顔で改めて美姫ちゃんを見る。

美姫ちゃんの表情は本当にそう思っていて、嘘なんかついていない顔だった。

言葉通りに思っているのなら美姫ちゃんは別に俺の恋心を変には感じてない。

むしろ受け入れようとしてくれているのか?

俺の熱は一気に冷め始める。

しかし急激に冷めるのは次の言葉だった。



「確かに昨日、アキロさんの告白にはびっくりしたよ。別に気持ち悪いとは思ってないけどさ。でも雅人は何も言ってないでしょ?」

「どういう……」

「雅人?」

「美姫ちゃん。昨日の出来事って言える?アキロの告白の時の」

「な、何で?雅人も一緒に居たじゃん」

「いいから。俺の記憶と美姫ちゃんの記憶が違う気がする」

「えっと……昨日アキロさんに家の裏の森に呼ばれて雅人が心配だから着いて行くって言ったんだよね」

「うん。それは覚えてる」

「それで、アキロさんに告白されて」

「うん」

「一方的に言われたら帰っちゃって…雅人と2人で何だろうって言って帰った」

「俺が言った事は覚えてる?」

「雅人?特に何も…」



次は俺が大きく目を開ける番だ。

美姫ちゃんは俺からの告白を覚えてない。

脳内で俺が告白したと言う記憶が一切ないのだ。

だから何とも思ってない。

だから普通に接している。

しかし都合が良すぎないか?

俺だけの告白を無かったことのように記憶から消されている。

でもよくよく考えればこの世界に来た時も俺からの告白は全く覚えてなかった。

告白寸前で記憶が途切れている。



「雅人?」

「あ、うん」

「大丈夫?」

「ごめん。美姫ちゃん。怒鳴っちゃって」

「ううん。どうしたの?」

「少し勘違いしてたみたい。悪い夢でも見たのかな。でも大丈夫。少しスッキリしたよ」

「そっか。もし気分が悪くなったら遠慮なく言ってね」

「うん、ありがとう美姫ちゃん」



俺は考えるのをやめて美姫ちゃんの向かい側に座り、微笑む。

美姫ちゃんもつられて笑ってくれた。

不可解な現象は巫女様に聞くのが1番だ。

武器が出来る前に俺は一度巫女様の元へ向かおうと思いながら向かい側でご飯を食べている美姫ちゃんを見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...