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異世界 〜不可解〜
何も変わらない
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翌日。
俺は美姫ちゃんよりも早く起きて、囲炉裏に火を付けた。
備え付けてあった火打石で習った通りに火を起こす。
少し手間はかかりながらも火は燃え上がった。
付けられた火を見ながら俺はボーッと座る。
寝ることなんて出来なくて目を開けては朝が来たかを確認するの繰り返しだった。
それに比べて美姫ちゃんは囲炉裏の向こう側で熟睡している。
布団が呼吸で小さく上下に動いているのできっとまだ寝ているのだろう。
美姫ちゃんの姿を見るたびに俺は昨日の辛い出来事が脳内に浮かぶ。
しかし俺は記憶を消すように頭を振りかぶった。
音を立てないようにゆっくりと囲炉裏から離れてバケツを持つと家の裏にある井戸へ向かう。
微かに物音がするので先客がいるはずだ。
「雅人、おはよう!」
「おはよう」
昨日も会ったふくよかな女性だった。
この人とはタイミングが合いすぎて水汲みに行くたびに会っている気がする。
昨日も朝、昼、夜と水汲みに来たけど3回とも出くわした。
もしかして見張っているのだろうか。
俺か美姫ちゃんのストーカー?
「そんなわけないか……」
「雅人ちょっと待っててね!」
俺は1人でおかしな事を考えている傍らふくよかな女性は水を汲み上げる。
そして毎度のことのように俺に話をしてきた。
「そういえば護衛やるんだって?」
「結構広まってるの?」
「そりゃもう!だって巫女様の護衛なんて私は初めて聞いたからね!もう色々準備は出来たのかい?」
「服はわからないけど、武器は今日の夕方にはできるって言ってたよ」
「楽しみだねぇ!巫女様も護衛が付くから安心するだろうし。あの方はずっと1人だから、雅人がちゃんと付いてあげるんだよ!あ、もしかしたら番いになる可能性もあるかもね!!」
ふくよかな女性は段々とヒートアップしてくる。
俺は何言ってるかわからないけどとりあえず頷いておいた。
最後に大笑いして水汲みを終えた女性は俺の背中を叩いて帰って行く。
毎回この流れが日常的に起こっているのだ。
意外と力が強いので元気を出すための叩きが終わった後はヒリヒリする。
背中の痛みを感じながら俺も水汲みを始めた。
「雅人」
「……えっ」
「おはよう」
水汲みを開始して10秒。
全く後ろの存在に気づかなかった。
少しまだ眠そうな顔をしている美姫ちゃんはいつの間にか俺の後ろへ来ていて俺を驚かせる。
びっくりして汲もうとしていたバケツを井戸に落としそうになってしまうが、俺は手をギュッと握って落下を阻止した。
美姫ちゃんは俺の隣へ来て井戸の中を覗き込む。
「ど、どうしたの…?」
「なんか賑やかな声が聞こえたから。それに起きたら雅人居なくなってるし」
「そっか。ごめんね。うるさくしちゃって」
うるさくしたのは女性の方なので俺が謝る必要はないのだが…。
「大丈夫。雅人も村の人と馴染めて嬉しいよ」
「…ありがとう」
「水汲み見ててもいい?」
「何も面白い事はないよ」
「いいの。私が見ていたいから」
「わかった」
美姫ちゃんは俺の返事を聞くとニコッと笑って俺が水汲みをする姿を見ていた。
見られる恥ずかしさを感じながらも俺は昨日の朝とは変わらない様子に何と表して良いかわからない感情を持ってしまった。
俺はこんなに気まずいのに何で普通で居られるのだろう。
俺が気にしすぎなだけなのか。
悶々とした考えを頭で巡らせながら俺は無言で水汲みを続けた。
隣では美姫ちゃんに真剣な表情で姿を見つめられながら。
俺は美姫ちゃんよりも早く起きて、囲炉裏に火を付けた。
備え付けてあった火打石で習った通りに火を起こす。
少し手間はかかりながらも火は燃え上がった。
付けられた火を見ながら俺はボーッと座る。
寝ることなんて出来なくて目を開けては朝が来たかを確認するの繰り返しだった。
それに比べて美姫ちゃんは囲炉裏の向こう側で熟睡している。
布団が呼吸で小さく上下に動いているのできっとまだ寝ているのだろう。
美姫ちゃんの姿を見るたびに俺は昨日の辛い出来事が脳内に浮かぶ。
しかし俺は記憶を消すように頭を振りかぶった。
音を立てないようにゆっくりと囲炉裏から離れてバケツを持つと家の裏にある井戸へ向かう。
微かに物音がするので先客がいるはずだ。
「雅人、おはよう!」
「おはよう」
昨日も会ったふくよかな女性だった。
この人とはタイミングが合いすぎて水汲みに行くたびに会っている気がする。
昨日も朝、昼、夜と水汲みに来たけど3回とも出くわした。
もしかして見張っているのだろうか。
俺か美姫ちゃんのストーカー?
「そんなわけないか……」
「雅人ちょっと待っててね!」
俺は1人でおかしな事を考えている傍らふくよかな女性は水を汲み上げる。
そして毎度のことのように俺に話をしてきた。
「そういえば護衛やるんだって?」
「結構広まってるの?」
「そりゃもう!だって巫女様の護衛なんて私は初めて聞いたからね!もう色々準備は出来たのかい?」
「服はわからないけど、武器は今日の夕方にはできるって言ってたよ」
「楽しみだねぇ!巫女様も護衛が付くから安心するだろうし。あの方はずっと1人だから、雅人がちゃんと付いてあげるんだよ!あ、もしかしたら番いになる可能性もあるかもね!!」
ふくよかな女性は段々とヒートアップしてくる。
俺は何言ってるかわからないけどとりあえず頷いておいた。
最後に大笑いして水汲みを終えた女性は俺の背中を叩いて帰って行く。
毎回この流れが日常的に起こっているのだ。
意外と力が強いので元気を出すための叩きが終わった後はヒリヒリする。
背中の痛みを感じながら俺も水汲みを始めた。
「雅人」
「……えっ」
「おはよう」
水汲みを開始して10秒。
全く後ろの存在に気づかなかった。
少しまだ眠そうな顔をしている美姫ちゃんはいつの間にか俺の後ろへ来ていて俺を驚かせる。
びっくりして汲もうとしていたバケツを井戸に落としそうになってしまうが、俺は手をギュッと握って落下を阻止した。
美姫ちゃんは俺の隣へ来て井戸の中を覗き込む。
「ど、どうしたの…?」
「なんか賑やかな声が聞こえたから。それに起きたら雅人居なくなってるし」
「そっか。ごめんね。うるさくしちゃって」
うるさくしたのは女性の方なので俺が謝る必要はないのだが…。
「大丈夫。雅人も村の人と馴染めて嬉しいよ」
「…ありがとう」
「水汲み見ててもいい?」
「何も面白い事はないよ」
「いいの。私が見ていたいから」
「わかった」
美姫ちゃんは俺の返事を聞くとニコッと笑って俺が水汲みをする姿を見ていた。
見られる恥ずかしさを感じながらも俺は昨日の朝とは変わらない様子に何と表して良いかわからない感情を持ってしまった。
俺はこんなに気まずいのに何で普通で居られるのだろう。
俺が気にしすぎなだけなのか。
悶々とした考えを頭で巡らせながら俺は無言で水汲みを続けた。
隣では美姫ちゃんに真剣な表情で姿を見つめられながら。
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