上 下
3 / 53
プロローグ 〜失恋〜

バーベキュー

しおりを挟む
シャワーを浴び終えた俺はお風呂場から出た後、ラフな格好に着替えて部屋へと戻ろうとする。

廊下を通っているとちょうどリビングの窓越しに父さんと目が合ってしまった。



「雅人!手伝ってくれ!」

「…はいはい」



俺は渋々父さんの元へ行くと、うちわを渡される。

これで仰いで火を起こせと言うことなのだろう。

俺は側にあった椅子に座ってうちわで仰ぐ。



「雅人くん、久しぶり!」

「おじさん。お久しぶりです」



せっかくシャワーを浴びたのにと心の中で愚痴を叩きながら仰いでいると後ろから声をかけられる。

美姫ちゃんのお父さんだった。

ジュースを持って来てくれたようでレジ袋からクーラーボックスに入れ始める。

俺は立ち上がってジュースを入れるのを手伝った。



「ありがとう。雅人くんも沢山飲んで!」

「はい」

「それじゃあ美姫達呼んでくるから火おこしよろしくね?」

「…はい」



ついに来てしまったこの瞬間。

おじさんはもう隣にある自分の家に歩いて行ってしまった。

俺は椅子に座って、自分の家族に悟られないようにうちわを動かす。

美姫ちゃんはどういう反応をするのか。

その前に俺が不自然ではないか。

不安が積もってきた。



「おっ、良い感じだな。肉置くか!」

「ああ、了解」

「ん?なんだ?お腹すいたのか?」

「…うん」

「よし!それならじゃんじゃん焼くぞ!」



父さんは張り切って腕まくりをするとパックから肉を取り出して焼き始めた。

するとウッドデッキに繋がる窓から出てきた母さんは嬉しそうな声をあげる。



「美姫ちゃん久しぶり!」

「……!」



俺は一瞬肩が上がりそうになった。

それでもうちわを仰ぎ続ける。

まるでロボットのように。

うちわに神経を尖らせていれば何も問題ない。

火おこしだけを考えろ…。



「雅人、もう仰がなくていいぞ」



いつの間にか隣にいた父さんにうちわを没収されて代わりに箸と皿を渡される。



「謙さんもう焼いてるんですか?」



おじさんが言う謙さんとは俺の父さんの名前だ。

神家謙(かみや けん)

あだ名で呼んでいるわけではない。

美姫ちゃん家のみんなは父さんのとこは謙さんと呼んでいた。



「腹ペコがここにいるからな」

「まぁ雅人くんも高校1年生だからね。食べ盛りでしょう?」

「そうなのよ。昨日は疲れたって言って夕食も食べてないから余計ね」



母さん余計なこと言うなよ!

俺は口に出さないで母さんに怒鳴りつける。

その瞬間、俺の母さんとおばさんの隣で微笑んでいた美姫ちゃんと目が合った。

俺は目を少しだけ逸らしたが、また目を合わせる。

無理矢理笑うと美姫ちゃんも眉を下げて笑ってくれた。

これで不自然ではないだろう。

俺は皿に視線を戻すと肉が山盛りに置いてあった。



「あれ?誰が…」

「ほら焼けたから食べろ!」

「あっありがとう」



トングをカチカチと鳴らしながら父さんは次々と肉を乗せてくる。

これはわんこ蕎麦形式なのだろうか。

俺は山盛りの肉を口に頬張っていればいつの間にか美姫ちゃんの方を向かなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...