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最終話 あの災厄のおひめさま
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朝起きたらみんなが洞穴の入り口に集まってざわめいていた。昨夜入口のそばで暖を取っていた若いノル・ズーの姿が見えないと言うのさ。
「朝早く一人で発ったんじゃないのかい」
私が言うと、太ったエーデが首を振ってこわごわ森のとっつきを指差した。血が点々と落ちていて、引き裂かれたような衣服の残骸も散らばっていた。
「早く助けに行ってあげてよ」
一行のうちで一番若いドーデが言った。
「助けられるわけないだろ。どっちにしても昨夜のうちに何もかも終わったに違いないよ」
と私が言った。
「あの子がエマをもたぬ者ならイザリ虫の餌食になっちまったんだろうし、エマをもつ者なら翼をもつ者に犯されちまったんだろう」
と、白髪交じりのレダがうなずいた。
「エマをもつむすめがこんな所にいるはずもないけどね」
と小柄なデルダが言った。
「あの災厄のおひめさまじゃないのかい」
太ったエーデが言った。
「それだ、きっと。トイで隠していたけれど、手首がどす黒い痣になっていたもの」
小柄なデルダの言葉を聞いて、みんな一斉に騒ぎ出した。
「あんたも見たのかい。私も気づいたよ」
「そのおひめさまはとても狂暴だからいつも腕を縛られていたんだろ?」
「そういえば、なんだかそぶりが怪しかったね。狂暴な感じではなかったけど」
「あのおひめさまは何と言ったっけ」
「クフベツさまだろう。オルさまを殺してお城を逃げだした……」
「アーユーラもそれきり姿を消したって」
「どこでどうしているのかね」
アーユーラという名前を聞いたのは久しぶりだった。ちりッと胸が痛んだ。今でもあの子を世界で一番愛してた。私は急いで話をそらそうとした。
「この頃は卵祭りと言ったって、おひめさまが全員そろってることなんてないじゃないか。クデカの都以外のどこかで、おとうさま以外のラ・ズーと結婚するおひめさまもいるってことじゃないのかね」
「どこかで卵を産んでるってこと?」
と一番若いドーデが聞いた。
「そうだとしても不思議はないやね」
「なんだかんだ言ってもオルさまの力は大きかったからね。亡くなるまでは悪く言う者もいたけど」
と小柄なデルダが言った。
「悪く言ってたのは自分じゃないのかい」
白髪交じりのレダが横から茶々を入れた。みんなくすくす笑った。
「なんにしろ、今年こそ卵を拾いたいもんだ」
と太ったエーデが言った。
「クフベツさまが、たくさん卵を産むといいね」
とみつくちのネルデが言った。
(完)
「朝早く一人で発ったんじゃないのかい」
私が言うと、太ったエーデが首を振ってこわごわ森のとっつきを指差した。血が点々と落ちていて、引き裂かれたような衣服の残骸も散らばっていた。
「早く助けに行ってあげてよ」
一行のうちで一番若いドーデが言った。
「助けられるわけないだろ。どっちにしても昨夜のうちに何もかも終わったに違いないよ」
と私が言った。
「あの子がエマをもたぬ者ならイザリ虫の餌食になっちまったんだろうし、エマをもつ者なら翼をもつ者に犯されちまったんだろう」
と、白髪交じりのレダがうなずいた。
「エマをもつむすめがこんな所にいるはずもないけどね」
と小柄なデルダが言った。
「あの災厄のおひめさまじゃないのかい」
太ったエーデが言った。
「それだ、きっと。トイで隠していたけれど、手首がどす黒い痣になっていたもの」
小柄なデルダの言葉を聞いて、みんな一斉に騒ぎ出した。
「あんたも見たのかい。私も気づいたよ」
「そのおひめさまはとても狂暴だからいつも腕を縛られていたんだろ?」
「そういえば、なんだかそぶりが怪しかったね。狂暴な感じではなかったけど」
「あのおひめさまは何と言ったっけ」
「クフベツさまだろう。オルさまを殺してお城を逃げだした……」
「アーユーラもそれきり姿を消したって」
「どこでどうしているのかね」
アーユーラという名前を聞いたのは久しぶりだった。ちりッと胸が痛んだ。今でもあの子を世界で一番愛してた。私は急いで話をそらそうとした。
「この頃は卵祭りと言ったって、おひめさまが全員そろってることなんてないじゃないか。クデカの都以外のどこかで、おとうさま以外のラ・ズーと結婚するおひめさまもいるってことじゃないのかね」
「どこかで卵を産んでるってこと?」
と一番若いドーデが聞いた。
「そうだとしても不思議はないやね」
「なんだかんだ言ってもオルさまの力は大きかったからね。亡くなるまでは悪く言う者もいたけど」
と小柄なデルダが言った。
「悪く言ってたのは自分じゃないのかい」
白髪交じりのレダが横から茶々を入れた。みんなくすくす笑った。
「なんにしろ、今年こそ卵を拾いたいもんだ」
と太ったエーデが言った。
「クフベツさまが、たくさん卵を産むといいね」
とみつくちのネルデが言った。
(完)
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