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まあ見てろ。私の正しさを証明してやるよ
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オルさまはうろたえた。ツォルガがいなくなるなんて、考えたこともなかったんだ。オルさまは狼狽を気取られないように平静を装いながら聞いた。
「どこへ行く気だ」
「エマをもつむすめを探しに行く」
「エマをもつむすめなら、私が連れてきてやるよ」
自分でも思ってもいなかった言葉が口を突いて出た。
「どうやってだよ」
ツォルガは苦笑した。
「翼をもたぬ者のネットワークをなめるなよ。どんな噂もパッと広がるんだ。嘘でもホントでもな。エマをもつむすめがいたら教えろって言っとけば、すぐ情報は集まるさ」
「へえ。ノル・ズーってすげえな」
「私はこれでも人望があるんだ。みんな私のところに真っ先に情報を持ってくる」
オルさまについてくるノル・ズーは当時から多かった。弓の腕前は右に出る者がいないし、勇気も決断力も備えていて、何よりリーダーシップがあったからだ。
「へえ、そうか。俺のところにばっかり来るから、ハブられてるのかと思ったよ」
「バカ言うな。翼をもたぬ者の連中と話しても退屈だからお前の所に来るんだ。大体お前は私のせいで死にかけたんだしな」
オルさまはもっともらしく言ったが、本当はただツォルガに会いたいだけだった。
「エマをもつむすめを見つけたら連れてこさせるよ。お前の話が本当なら、結婚しないまま成長したラ・エマは世界のあちこちにいるはずだろ」
「そりゃいるだろうけど」
「ノル・ズーは簡単にリーダーの言うなりになる。ましてお前みたいな強い翼をもつ者がついてれば、みんな私の言うことを聞くさ。翼をもたぬ者はラ・ズーを恐れてるからな」
言葉が途切れたらその瞬間にツォルガが去って行ってしまうとでもいうように、オルさまはぺらぺらと思いつくままにしゃべった。
「だからここにいろよ。これはニンゲンの繁栄のためでもあるんだ。お前、セイリョクゼツリンなんだろ。お前が産ませた卵ならきっと強い子が孵る」
「お前はすぐ『繁栄のため』だな」
ツォルガは苦笑した。
「ゆくゆくはは子供のうちにエマをもつむすめを集めるようにすればいいんだ。そうすれば他のひ弱なラ・ズーと結婚しちまう心配もない」
「翼をもたぬ者は子供を大事にするだろ。おかあさんが引き渡すはずがない」
「いろいろやり方はあるさ。懸賞金をかけるとか、罰則を決めるとか」
「話がどんどんデカくなるな」
「前から思ってたんだ。卵が毎年同じくらいの数生まれて、みんなに平等に行きわたるようにすれば、世界はもっと良くなるって」
思いつくまま話しているうちに、本当に実現できるような気がしてきた。
「私がここに城を作って、お前は王様になるんだ」
「いや、王様は勘弁してくれよ……」
ツォルガは辟易したように言った。
「まあ王様じゃなくてもいいけど、じゃあ『お塔さま』ってのはどうかな。とにかくお前の巣にエマをもつむすめを集めて、生まれた卵をタダで配るんだ」
「そんなことをしたら俺以外の翼をもつ者が黙っていないだろ」
「一人一人のラ・ズーなんか怖くないさ」
オルさまはさっきの言葉と矛盾したようなことを言ったが、無我夢中でしゃべっていたので自分では気づかなかった。
「どんなに強くても、ラ・ズーは翼をもたぬ者に勝てない。群れを作らないからだ」
「へえ。群れっていうのはすごい力を持っているもんなんだな」
ツォルガは鼻白んだように言った。
「なにもそんな、ペテン師みたいなマネをしなくても、エマをもつむすめは俺が自分で探せばいいじゃないか」
「ペテンではないぞ。前から思ってたんだ。都を作ってニンゲンを集めれば商売も盛んになるし、生活が豊かになる」
その構想はこれまでさんざんツォルガを相手にオルさまがしゃべり散らしてきた机上の理想論をつぎはぎにしてまとめたようなものだったが、ツォルガは辛抱強く聞いていた。やっとオルさまが話し終わると、ツォルガは諦めたように言った。
「わかった。旅に出るのはやめるよ」
ツォルガを引き留めたいあまりに荒唐無稽なことをしゃべったのを、見透かされたような気がしてオルさまは焦った。
「私は理想郷を作ってみせる。まあ見てろ。私の正しさを証明してやるよ」
ツォルガは苦笑したがそれ以上止めなかった。
「どうしてもと言うならやってみろ。理想郷なんてないってことがいずれ分かるさ」
その口調はすべてを見通したように静かだった。
オルさまはさっそく城の建設に取り掛かった。理想郷を現実のものにするために。
「城が完成したんだ」
ある日ツォルガの巣にやってきたオルさまは、上機嫌でこう報告した。
「へえ。よくカネがあったな」
それまで半信半疑だったツォルガはびっくりした。
「まあね。私のアイデアに賛成してくれるパトロンをみつけたのさ」
「そのカネは返さなくていいのか?」
「将来的には何倍にもして返すさ。城の周りで商売をする者からは場所代を取る」
「そこまでしてここで商売したがる奴がいるのかね」
「ああ。ニンゲンが多い所で商売した方が絶対に儲かるからな」
「ここ、そんなにニンゲンが多くはないだろ」
「これからだよ。ここを都にしてニンゲンを集めるんだ」
城が完成するとオルさまはまずお披露目の祭りを開催した。だが他に何も目玉がないので思ったほど人が集まらなかった。
「もっとたくさんニンゲンが来なくちゃダメなんだ。卵が生まれるまでにはまだ時間がかかりそうだし、みんなを集めるイベントが何かないかな」
オルさまは忙しい活動の合間にもちょくちょく塔に顔を出しては聞かれもしない報告をした。ツォルガはオルさまの語る政治的構想をバカにすることもなく聞き、時にはアドバイスもしてくれた。
「お前は弓が得意じゃないか。弓の大会でも開いたら?」
「お前、頭いいな。それ、いただきだ」
オルさまは弓の大会を開いて自ら優勝し、世界に名を売った。
「どこへ行く気だ」
「エマをもつむすめを探しに行く」
「エマをもつむすめなら、私が連れてきてやるよ」
自分でも思ってもいなかった言葉が口を突いて出た。
「どうやってだよ」
ツォルガは苦笑した。
「翼をもたぬ者のネットワークをなめるなよ。どんな噂もパッと広がるんだ。嘘でもホントでもな。エマをもつむすめがいたら教えろって言っとけば、すぐ情報は集まるさ」
「へえ。ノル・ズーってすげえな」
「私はこれでも人望があるんだ。みんな私のところに真っ先に情報を持ってくる」
オルさまについてくるノル・ズーは当時から多かった。弓の腕前は右に出る者がいないし、勇気も決断力も備えていて、何よりリーダーシップがあったからだ。
「へえ、そうか。俺のところにばっかり来るから、ハブられてるのかと思ったよ」
「バカ言うな。翼をもたぬ者の連中と話しても退屈だからお前の所に来るんだ。大体お前は私のせいで死にかけたんだしな」
オルさまはもっともらしく言ったが、本当はただツォルガに会いたいだけだった。
「エマをもつむすめを見つけたら連れてこさせるよ。お前の話が本当なら、結婚しないまま成長したラ・エマは世界のあちこちにいるはずだろ」
「そりゃいるだろうけど」
「ノル・ズーは簡単にリーダーの言うなりになる。ましてお前みたいな強い翼をもつ者がついてれば、みんな私の言うことを聞くさ。翼をもたぬ者はラ・ズーを恐れてるからな」
言葉が途切れたらその瞬間にツォルガが去って行ってしまうとでもいうように、オルさまはぺらぺらと思いつくままにしゃべった。
「だからここにいろよ。これはニンゲンの繁栄のためでもあるんだ。お前、セイリョクゼツリンなんだろ。お前が産ませた卵ならきっと強い子が孵る」
「お前はすぐ『繁栄のため』だな」
ツォルガは苦笑した。
「ゆくゆくはは子供のうちにエマをもつむすめを集めるようにすればいいんだ。そうすれば他のひ弱なラ・ズーと結婚しちまう心配もない」
「翼をもたぬ者は子供を大事にするだろ。おかあさんが引き渡すはずがない」
「いろいろやり方はあるさ。懸賞金をかけるとか、罰則を決めるとか」
「話がどんどんデカくなるな」
「前から思ってたんだ。卵が毎年同じくらいの数生まれて、みんなに平等に行きわたるようにすれば、世界はもっと良くなるって」
思いつくまま話しているうちに、本当に実現できるような気がしてきた。
「私がここに城を作って、お前は王様になるんだ」
「いや、王様は勘弁してくれよ……」
ツォルガは辟易したように言った。
「まあ王様じゃなくてもいいけど、じゃあ『お塔さま』ってのはどうかな。とにかくお前の巣にエマをもつむすめを集めて、生まれた卵をタダで配るんだ」
「そんなことをしたら俺以外の翼をもつ者が黙っていないだろ」
「一人一人のラ・ズーなんか怖くないさ」
オルさまはさっきの言葉と矛盾したようなことを言ったが、無我夢中でしゃべっていたので自分では気づかなかった。
「どんなに強くても、ラ・ズーは翼をもたぬ者に勝てない。群れを作らないからだ」
「へえ。群れっていうのはすごい力を持っているもんなんだな」
ツォルガは鼻白んだように言った。
「なにもそんな、ペテン師みたいなマネをしなくても、エマをもつむすめは俺が自分で探せばいいじゃないか」
「ペテンではないぞ。前から思ってたんだ。都を作ってニンゲンを集めれば商売も盛んになるし、生活が豊かになる」
その構想はこれまでさんざんツォルガを相手にオルさまがしゃべり散らしてきた机上の理想論をつぎはぎにしてまとめたようなものだったが、ツォルガは辛抱強く聞いていた。やっとオルさまが話し終わると、ツォルガは諦めたように言った。
「わかった。旅に出るのはやめるよ」
ツォルガを引き留めたいあまりに荒唐無稽なことをしゃべったのを、見透かされたような気がしてオルさまは焦った。
「私は理想郷を作ってみせる。まあ見てろ。私の正しさを証明してやるよ」
ツォルガは苦笑したがそれ以上止めなかった。
「どうしてもと言うならやってみろ。理想郷なんてないってことがいずれ分かるさ」
その口調はすべてを見通したように静かだった。
オルさまはさっそく城の建設に取り掛かった。理想郷を現実のものにするために。
「城が完成したんだ」
ある日ツォルガの巣にやってきたオルさまは、上機嫌でこう報告した。
「へえ。よくカネがあったな」
それまで半信半疑だったツォルガはびっくりした。
「まあね。私のアイデアに賛成してくれるパトロンをみつけたのさ」
「そのカネは返さなくていいのか?」
「将来的には何倍にもして返すさ。城の周りで商売をする者からは場所代を取る」
「そこまでしてここで商売したがる奴がいるのかね」
「ああ。ニンゲンが多い所で商売した方が絶対に儲かるからな」
「ここ、そんなにニンゲンが多くはないだろ」
「これからだよ。ここを都にしてニンゲンを集めるんだ」
城が完成するとオルさまはまずお披露目の祭りを開催した。だが他に何も目玉がないので思ったほど人が集まらなかった。
「もっとたくさんニンゲンが来なくちゃダメなんだ。卵が生まれるまでにはまだ時間がかかりそうだし、みんなを集めるイベントが何かないかな」
オルさまは忙しい活動の合間にもちょくちょく塔に顔を出しては聞かれもしない報告をした。ツォルガはオルさまの語る政治的構想をバカにすることもなく聞き、時にはアドバイスもしてくれた。
「お前は弓が得意じゃないか。弓の大会でも開いたら?」
「お前、頭いいな。それ、いただきだ」
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