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まあそうだけど、性格だからしょうがない
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「翼をもつ者にはいいところがたくさんあると思うんだ。物知りだし、器用だし、私たち翼をもたぬ者とは違うものの見方を持ってる。ラ・ズーとノル・ズーが協力し合えばニンゲンは繁栄する。そのためには翼をもつ者を社会に馴らす必要があるんだ」
とオルさまは言った。ツォルガは笑ってかぶりを振った。
「無駄だと思うぜ。ラ・ズーは社会に馴れたいなんて思ってない。そもそも繁栄って何だ。その先に何がある?」
オルさまは差し伸べた手を拒まれたような気がして傷ついた。オルさまはツォルガに対して抱いた敬愛の念を素直に表したつもりだったんだ。ツォルガはそんなオルさまの気持ちを敏感に察したようだった。
「お前、おかあさんに羽根を切られたんだろ」
ツォルガはいたわるように言った。
オルさまはびっくりした。
「なぜわかる?」
「なぜだろうな」
ツォルガはちょっと言葉を探した。
「お前は普通の翼をもたぬ者とは違うような気がする。いや、ノル・ズーなんて子供の時の群れくらいでしか知らないけどさ」
ツォルガは笑った。
「羽根を切られなければ、お前は翼をもつ者だったんじゃないかな」
その言葉はオルさまには最高の賛辞に聞こえた。
「この実は何なんだ?」
ある日オルさまはツォルガに尋ねた。初めて出会った日にオルさまがツォルガにぶっかけた水、その水桶の隣に、見慣れない紫色の実を入れた桶があったんだ。
「それはエマニの実だ」
「エマニの実? 見たことない実だな」
「この実はエマニの原にしか生らないと言われているからな」
「お前、そこで生まれたのか」
「ああ」
「遠いのか?」
「ああ。南部のオモイの森の中、大地の裂け目の下にある。翼をもたぬ者が一度落ちたら二度とは上がってこられない大地の底さ」
「そんな所から、こんなにたくさんの実を持って旅をしてきたのか?」
オルさまは驚いて聞いた。
「何のために?」
ツォルガはニヤリと笑ってこう言った。
「これがないとエマをもつむすめをその気にさせられないんだ」
当時エマをもつ者の結婚の生態について、エマをもたぬ者はほとんど知らなかった。オルさまがきょとんとしているのを見て、ツォルガは説明を付け加えた。
「これを食べるとエマをもつむすめは結婚できる体になる。七年に一度しか生らない貴重な実だ。次に生るまで乾燥させて保存しておくんだ」
「お前たちってみんな、こういう塔みたいなのを作って結婚すんのか?」
「まあな。俺のはかなり大きいけどな。森の中でもこういう巣の残骸を見かけたことがあるだろ」
オルさまはうなずいた。
「なんでこんなに大きくしたんだ?」
「そりゃ、俺が精力絶倫だからさ」
ツォルガはまたニヤリと笑った。
「セイリョクゼツリンって何だ?」
ツォルガは冗談がスベった時みたいにずっこけて、
「つまり俺がすごく強いってこと。強い翼をもつ者ほど結婚する時高く飛び上がるんだ」
と言った。
「確かに。お前、あの時ものすごく高く飛んでたもんな」
何気なく言ったオルさまの言葉に、ツォルガはちょっと顔を赤らめた。
「エマをもつむすめは一年に一人しか生まれないと言われてるんだ」
「そんなに少ないのか?」
「ああ。しかも結婚してから産卵するまで三年から四年かかると言われてる。その代わり一度にたくさんの卵を産む」
「じゃあ、エマをもつむすめが一人でも卵を産まないまま死んでいったら、ニンゲンは滅ぶんじゃないか?」
「滅びはしないだろ。まあその年はニンゲンが減るだろうがね。そもそもエマをもつむすめはとても臆病で、一生洞穴に引きこもってる奴もいるらしい。身を守る本能が強いからな」
「いくら身を守ったって、卵を産まなきゃ意味ないだろうに」
「まあそうだけど、性格だからしょうがない。結婚しないまま一生を終えるラ・エマも少なくないと思うぞ。それでもニンゲンは今まで滅ばなかったんだから、それほど効率の悪いシステムじゃないってことだろうな」
「いや、すごく効率が悪いと思う」
オルさまは首を振った。
「七年に一度しか実らないエマニの実と一年に一人しか生まれないラ・エマを、一羽の翼をもつ者が両方見つけなきゃいけないんだろ。確率が低すぎる」
「そうだな。ラ・ズー同士で協力し合ったりはしないからな」
「そこを解決できたら、もっとニンゲンが増えて繁栄するんじゃないかな」
「解決だって?」
ツォルガはバカバカしいというように笑った。
「増えすぎないってのも悪いことじゃないだろ」
「なんでだよ。増えて悪いことなんてあるか?」
「それは分からないけど、今までニンゲンの数は自然の中で均衡を保ってきたんだからさ。これでいいんじゃねえの」
「なに現状に満足してんだよ。ジジイみたいに」
オルさまがからかうと、
「いや、俺、本当にけっこうジジイだと思うぞ。翼をもつ者はそんなに長生きしないから」
とツォルガは笑った。
「俺、旅に出るよ」
すっかり健康を取り戻したある日、ツォルガは突然切り出した。
とオルさまは言った。ツォルガは笑ってかぶりを振った。
「無駄だと思うぜ。ラ・ズーは社会に馴れたいなんて思ってない。そもそも繁栄って何だ。その先に何がある?」
オルさまは差し伸べた手を拒まれたような気がして傷ついた。オルさまはツォルガに対して抱いた敬愛の念を素直に表したつもりだったんだ。ツォルガはそんなオルさまの気持ちを敏感に察したようだった。
「お前、おかあさんに羽根を切られたんだろ」
ツォルガはいたわるように言った。
オルさまはびっくりした。
「なぜわかる?」
「なぜだろうな」
ツォルガはちょっと言葉を探した。
「お前は普通の翼をもたぬ者とは違うような気がする。いや、ノル・ズーなんて子供の時の群れくらいでしか知らないけどさ」
ツォルガは笑った。
「羽根を切られなければ、お前は翼をもつ者だったんじゃないかな」
その言葉はオルさまには最高の賛辞に聞こえた。
「この実は何なんだ?」
ある日オルさまはツォルガに尋ねた。初めて出会った日にオルさまがツォルガにぶっかけた水、その水桶の隣に、見慣れない紫色の実を入れた桶があったんだ。
「それはエマニの実だ」
「エマニの実? 見たことない実だな」
「この実はエマニの原にしか生らないと言われているからな」
「お前、そこで生まれたのか」
「ああ」
「遠いのか?」
「ああ。南部のオモイの森の中、大地の裂け目の下にある。翼をもたぬ者が一度落ちたら二度とは上がってこられない大地の底さ」
「そんな所から、こんなにたくさんの実を持って旅をしてきたのか?」
オルさまは驚いて聞いた。
「何のために?」
ツォルガはニヤリと笑ってこう言った。
「これがないとエマをもつむすめをその気にさせられないんだ」
当時エマをもつ者の結婚の生態について、エマをもたぬ者はほとんど知らなかった。オルさまがきょとんとしているのを見て、ツォルガは説明を付け加えた。
「これを食べるとエマをもつむすめは結婚できる体になる。七年に一度しか生らない貴重な実だ。次に生るまで乾燥させて保存しておくんだ」
「お前たちってみんな、こういう塔みたいなのを作って結婚すんのか?」
「まあな。俺のはかなり大きいけどな。森の中でもこういう巣の残骸を見かけたことがあるだろ」
オルさまはうなずいた。
「なんでこんなに大きくしたんだ?」
「そりゃ、俺が精力絶倫だからさ」
ツォルガはまたニヤリと笑った。
「セイリョクゼツリンって何だ?」
ツォルガは冗談がスベった時みたいにずっこけて、
「つまり俺がすごく強いってこと。強い翼をもつ者ほど結婚する時高く飛び上がるんだ」
と言った。
「確かに。お前、あの時ものすごく高く飛んでたもんな」
何気なく言ったオルさまの言葉に、ツォルガはちょっと顔を赤らめた。
「エマをもつむすめは一年に一人しか生まれないと言われてるんだ」
「そんなに少ないのか?」
「ああ。しかも結婚してから産卵するまで三年から四年かかると言われてる。その代わり一度にたくさんの卵を産む」
「じゃあ、エマをもつむすめが一人でも卵を産まないまま死んでいったら、ニンゲンは滅ぶんじゃないか?」
「滅びはしないだろ。まあその年はニンゲンが減るだろうがね。そもそもエマをもつむすめはとても臆病で、一生洞穴に引きこもってる奴もいるらしい。身を守る本能が強いからな」
「いくら身を守ったって、卵を産まなきゃ意味ないだろうに」
「まあそうだけど、性格だからしょうがない。結婚しないまま一生を終えるラ・エマも少なくないと思うぞ。それでもニンゲンは今まで滅ばなかったんだから、それほど効率の悪いシステムじゃないってことだろうな」
「いや、すごく効率が悪いと思う」
オルさまは首を振った。
「七年に一度しか実らないエマニの実と一年に一人しか生まれないラ・エマを、一羽の翼をもつ者が両方見つけなきゃいけないんだろ。確率が低すぎる」
「そうだな。ラ・ズー同士で協力し合ったりはしないからな」
「そこを解決できたら、もっとニンゲンが増えて繁栄するんじゃないかな」
「解決だって?」
ツォルガはバカバカしいというように笑った。
「増えすぎないってのも悪いことじゃないだろ」
「なんでだよ。増えて悪いことなんてあるか?」
「それは分からないけど、今までニンゲンの数は自然の中で均衡を保ってきたんだからさ。これでいいんじゃねえの」
「なに現状に満足してんだよ。ジジイみたいに」
オルさまがからかうと、
「いや、俺、本当にけっこうジジイだと思うぞ。翼をもつ者はそんなに長生きしないから」
とツォルガは笑った。
「俺、旅に出るよ」
すっかり健康を取り戻したある日、ツォルガは突然切り出した。
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