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じゃあ、アーユーラが代わってくれればいい
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アーユーラはやっとハルマヤさまが結婚したくない理由がわかった。
結婚というのは、卵を産んで、死ぬこと。
確かに、卵を産んだあとおひめさまたちがどうなったかは、誰の口からも語られなかった。だが結婚と産卵のために塔に籠ったどのおひめさまも、二度と戻ってこなかったことだけは確かだ。死ぬ、とはっきり言葉にされると、少したじろいだが、アーユーラはそれほど驚きはしなかった。
「でも、それも研究と同じくらいに名誉なことじゃないでしょうか。おひめさまにしかできない仕事じゃありませんか。もし私だったら……」
アーユーラは言いかけて、『私だったら』などという仮定は無意味だと思い返して口をつぐんだ。
「じゃあ、アーユーラが代わってくれればいい」
ハルマヤさまは逃げ道を見つけたように急に明るさを取り戻した。
「ねえ、そうしてくれないか? 俺の代わりにエマニの実を食べてくれればいい。俺のふりをしておとうさまと結婚してくれたら、俺はお前のふりをしてお城からそっと逃げ出すから」
「そんな……」
「新しい実ほど効果は抜群だと言うだろ。あの翼をもつ者からエマニの実を買い取って、今夜さっそく食べてみてくれ」
行きがかり上イヤとは言えなくなって、アーユーラは渋しぶうなずいた。
「どうせならここで食べてみてほしいな。どんな経過をたどるのか、どうやってエマが生じるのか見たいからね。。俺、この研究で本を書こうと思ってる。そのためにもまだ死ぬわけにはいかないんだ」
「わかりました」
ハルマヤさまは耳たぶを引っ張りながらまたぐるぐると部屋の中を歩き回り始めた。
「まずあのラ・ズーをここに連れてくるんだ。エマニの原から来たのならいろいろ聞いてみたいこともある。なにしろ古エマニ語をしゃべる生きたサンプルなんだから」
余裕を取り戻したように、学者らしい好奇心をあらわにしてそう言った。
「この前、城に翼をもたぬ者の学者が訪ねてきたんだ。俺の研究のことを話したら、本を出したいと言っていた。城を出たらそいつに連絡を取ってかくまってもらおうと思う」
ハルマヤさまは次第にうきうきした様子になってきた。
「クフベツも一緒に逃がせないかな。クフベツがいれば研究がはかどる。もう一人、結婚したいエマをもたぬ者を見つけられたら、クフベツの身代わりになってもらって……」
「無茶ばっかりおっしゃらないでください」
アーユーラは悲鳴をあげた。
「そもそも、ここに翼をもつ者を連れてくるなんて無理だってこと、ハルマヤさまにもおわかりですよね?」
おひめさまたちをこの城に集めて厳重に警護しているのは、おとうさま以外の翼をもつ者が近寄れないようにするためだ。オルさまの許しがなければ、翼をもつ者をこの建物の中に入れることはできない。
「それもそうだな……」
ハルマヤさまもがっかりしたようにうなずいた。
「じゃ、目の前で食べてもらうのは諦める。逃げたあとでいくらでもチャンスがあるだろう。とにかく実を買い取ってお前が食べてみるんだ。この指輪と引き換えにね……翼をもつ者が一生贅沢に暮らせるだけの価値がある。オルさまと交渉したところでこれ以上の褒美はもらえないと思うよ」
ハルマヤさまは指にはめていた大きな指輪を外してアーユーラに握らせた。
「もし断られたら?」
おずおずと聞くと、ハルマヤさまは耳たぶを引っ張りながら少し考えこんだ。
「翼をもつ者は力は強いけれど、とても体が弱いんだろう? 羽根が濡れただけで飛べなくなるし、ほうっておけばそのまま死んでしまう者もいるそうだね。言うことを聞かなかったら水をかけて、弱らせておいて奪ってこい」
まったく乱暴なおひめさまだね。
「では、もし私が食べてもエマが生じなかったら?」
「その時はオルさまに見つからないように逃げるしかない」
ハルマヤさまは仕方ないというように肩をすくめた。
「そんな……。卵はどうなるんです? 一定の数の卵が生まれてこそ世界は繁栄する、それが秩序だって、いつもオルさまが……」
「俺は世界なんてどうなってもいい」
ハルマヤ様は面倒くさそうに言った。
「秩序なんてクソくらえだ。俺は俺の研究を続けたいだけさ」
結婚というのは、卵を産んで、死ぬこと。
確かに、卵を産んだあとおひめさまたちがどうなったかは、誰の口からも語られなかった。だが結婚と産卵のために塔に籠ったどのおひめさまも、二度と戻ってこなかったことだけは確かだ。死ぬ、とはっきり言葉にされると、少したじろいだが、アーユーラはそれほど驚きはしなかった。
「でも、それも研究と同じくらいに名誉なことじゃないでしょうか。おひめさまにしかできない仕事じゃありませんか。もし私だったら……」
アーユーラは言いかけて、『私だったら』などという仮定は無意味だと思い返して口をつぐんだ。
「じゃあ、アーユーラが代わってくれればいい」
ハルマヤさまは逃げ道を見つけたように急に明るさを取り戻した。
「ねえ、そうしてくれないか? 俺の代わりにエマニの実を食べてくれればいい。俺のふりをしておとうさまと結婚してくれたら、俺はお前のふりをしてお城からそっと逃げ出すから」
「そんな……」
「新しい実ほど効果は抜群だと言うだろ。あの翼をもつ者からエマニの実を買い取って、今夜さっそく食べてみてくれ」
行きがかり上イヤとは言えなくなって、アーユーラは渋しぶうなずいた。
「どうせならここで食べてみてほしいな。どんな経過をたどるのか、どうやってエマが生じるのか見たいからね。。俺、この研究で本を書こうと思ってる。そのためにもまだ死ぬわけにはいかないんだ」
「わかりました」
ハルマヤさまは耳たぶを引っ張りながらまたぐるぐると部屋の中を歩き回り始めた。
「まずあのラ・ズーをここに連れてくるんだ。エマニの原から来たのならいろいろ聞いてみたいこともある。なにしろ古エマニ語をしゃべる生きたサンプルなんだから」
余裕を取り戻したように、学者らしい好奇心をあらわにしてそう言った。
「この前、城に翼をもたぬ者の学者が訪ねてきたんだ。俺の研究のことを話したら、本を出したいと言っていた。城を出たらそいつに連絡を取ってかくまってもらおうと思う」
ハルマヤさまは次第にうきうきした様子になってきた。
「クフベツも一緒に逃がせないかな。クフベツがいれば研究がはかどる。もう一人、結婚したいエマをもたぬ者を見つけられたら、クフベツの身代わりになってもらって……」
「無茶ばっかりおっしゃらないでください」
アーユーラは悲鳴をあげた。
「そもそも、ここに翼をもつ者を連れてくるなんて無理だってこと、ハルマヤさまにもおわかりですよね?」
おひめさまたちをこの城に集めて厳重に警護しているのは、おとうさま以外の翼をもつ者が近寄れないようにするためだ。オルさまの許しがなければ、翼をもつ者をこの建物の中に入れることはできない。
「それもそうだな……」
ハルマヤさまもがっかりしたようにうなずいた。
「じゃ、目の前で食べてもらうのは諦める。逃げたあとでいくらでもチャンスがあるだろう。とにかく実を買い取ってお前が食べてみるんだ。この指輪と引き換えにね……翼をもつ者が一生贅沢に暮らせるだけの価値がある。オルさまと交渉したところでこれ以上の褒美はもらえないと思うよ」
ハルマヤさまは指にはめていた大きな指輪を外してアーユーラに握らせた。
「もし断られたら?」
おずおずと聞くと、ハルマヤさまは耳たぶを引っ張りながら少し考えこんだ。
「翼をもつ者は力は強いけれど、とても体が弱いんだろう? 羽根が濡れただけで飛べなくなるし、ほうっておけばそのまま死んでしまう者もいるそうだね。言うことを聞かなかったら水をかけて、弱らせておいて奪ってこい」
まったく乱暴なおひめさまだね。
「では、もし私が食べてもエマが生じなかったら?」
「その時はオルさまに見つからないように逃げるしかない」
ハルマヤさまは仕方ないというように肩をすくめた。
「そんな……。卵はどうなるんです? 一定の数の卵が生まれてこそ世界は繁栄する、それが秩序だって、いつもオルさまが……」
「俺は世界なんてどうなってもいい」
ハルマヤ様は面倒くさそうに言った。
「秩序なんてクソくらえだ。俺は俺の研究を続けたいだけさ」
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