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翼をもつ者は一人でいるのが好きらしい
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エマニの実は7年に一度しか実らないと言われてる。それも大地の裂け目の下にある、エマニの原にしか実らない。私たち翼をもたぬ者なら、一度落ちれば二度と這い上がれない奈落の底さ。つまり、エマニの実をお城に届けることは、翼をもつ者にしかできない仕事なんだ。
ただしエマニの原を見つけることは難しい。欝蒼とした森の中で、大地のどこにこのわずかな裂け目が口を開けているのか、空を飛ぶ者が見つけられると思うかい? かといって森の中をやみくもに歩き回ったりすれば、ひ弱なラ・ズーはたちまち命を落としかねない。よほど運が良くないかぎりはね……。
この実はよく乾燥させて風通しのいい部屋に保存しておくが、時間が経てば経つほど効果が薄れてくる。新鮮な実は1粒でも効くのに、古くなった実は酒杯いっぱい食べても効かないと言われているほどさ。
イスメヤさまの時は本当にギリギリだった。最後の一粒がようやく効いたそうだよ。それがハルマヤさまの一つ上のおねえさまだ。だから今年はもう一粒も残ってなかった。このままではハルマヤさまは結婚できない。オルさまもそりゃあ気をもんでいたけれど、こればかりはどうしようもないからね。
日が陰る頃ようやく、塔の上から一つ目の卵が落ちてきた。
それを皮切りに、一つ、また一つと卵が降ってくる。落としているのは塔の上に集まった翼をもつ者の群れだ。卵が産まれる頃になるとこうして集まってきて、塔に登れないノル・ズーたちに卵を投げ与えてくれるんだ。
ノル・ズーとあまり関わろうとしないラ・ズーが、なぜそんなことをするのかはわからない。そういう習性があるんだね。大人のラ・ズーの生態についてはよくわかっていないことが多いんだ。彼らは社会と関わらないからね。
翼をもたぬ者の社会に一番近いところにいるラ・ズーはおとうさまだ。おとうさまの住んでいる塔は、ずっと昔におとうさまが自分で建てたものらしい。塔に住んでいるから『おとうさま』と呼ばれている。
おとうさまに食べ物を運ぶ役のノル・ズーでも、おとうさまの姿はめったに見られない。食べ物は小さな窓から差し入れてすぐに手を引っ込めるんだけど、運悪く指先をがぶりと噛まれたノル・ズーもいるというよ。
おとうさまはとても獰猛だし警戒心が強いんだ。当然翼をもたぬ者の言うことなんか聞かない。近づいてくるノル・ズーをおとうさまが殺さないのは、おとなしくしていれば食べ物とおひめさまを充てがってもらえるからだ。そうでなければおとうさまだって今頃他の翼をもつ者たちと同じように、血眼になって世界中を旅しておひめさまを探していたことだろう。
「塔の掃除は危険だからと言って、オルさまが自らなさって決して他人には任せないの」
とアーユーラは言う。
「私、オルさまが塔から戻ってくるところに出くわしたことがあるんだけど、まるで命からがら逃げてきたみたいに見えたわ。着ている服もズタズタに裂けていて、体のところどころから血がにじんでた。オルさまほどの武芸の達人でもそうなんだもの、普通のノル・ズーがうっかり塔に入ったりしたら大変でしょうね」
翼をもつ者がデタラメに卵を投げるもんで、中には地面に落ちて割れる卵もある。ラ・ズーは物事をきちんと丁寧にやるということがまるでない。けれど、落ちて割れるような卵は元々殻が薄くて、生まれてくる子も弱いんだ。落ちても割れないくらい丈夫なのがいい卵さ。苦労して温める前に弱い卵を選り分けてくれると思えば、ラ・ズーもまんざら役立たずってわけでもないね。
ラ・ズーを育てたことがあれば分かるだろうけど、彼らは粗暴ではあるがバカではない。自己中心的で集団生活ができないだけさ。ぶっきらぼうだけど悪い連中じゃない。腕力があるし手先も器用で、便利な道具を作る者もいる。祭りでも時々売っている。
この機械をごらんよ。ただの棒みたいに見えるけど、よく見ると取っ手のそばに小さな突起がついているだろう? ここを押すといつでもどこでも簡単に火をつけることができるのさ。どういう仕掛けか知らないけど、便利なものだね。しばらく使うと壊れてしまうから、私は卵祭りに来るたびに群れの仲間の分まで買うんだ。
1年前の卵祭りでは、夜になってから買いに行ったらもう売り切れていた。
「今年は売り切れかい。とても便利だから欲しかったのに」
と言うと、そのラ・ズーはまんざらでもなさそうにニヤリと笑った。
「けっこう人気があるんでね。来年はもっと早く買いに来なよ」
「仲間と一緒に、もっとたくさん作ったらどうだい。きっと儲かるよ」
と提案したら、
「いや、俺は仲間とかいないし」
と言う。
「いなければ、声をかけて集めればいいじゃないか」
と言ったら、
「いや、めんどくさいし」
と言う。
「作り方を教えてくれたら、私たちが手伝ってもいいよ」
と言うと、
「俺が発明した作り方を、なんでおばさんに教えなきゃいけないんだよ」
と逆にすごまれた。親切で言っているのにね。
私らみたいにラ・ズーも群れを作ればいいと思うんだけど、ラ・ズーっていうのはよほど一人でいるのが好きらしい。エマをもつ者のことは結局ラ・エマにしか分からないってことだね。
ただしエマニの原を見つけることは難しい。欝蒼とした森の中で、大地のどこにこのわずかな裂け目が口を開けているのか、空を飛ぶ者が見つけられると思うかい? かといって森の中をやみくもに歩き回ったりすれば、ひ弱なラ・ズーはたちまち命を落としかねない。よほど運が良くないかぎりはね……。
この実はよく乾燥させて風通しのいい部屋に保存しておくが、時間が経てば経つほど効果が薄れてくる。新鮮な実は1粒でも効くのに、古くなった実は酒杯いっぱい食べても効かないと言われているほどさ。
イスメヤさまの時は本当にギリギリだった。最後の一粒がようやく効いたそうだよ。それがハルマヤさまの一つ上のおねえさまだ。だから今年はもう一粒も残ってなかった。このままではハルマヤさまは結婚できない。オルさまもそりゃあ気をもんでいたけれど、こればかりはどうしようもないからね。
日が陰る頃ようやく、塔の上から一つ目の卵が落ちてきた。
それを皮切りに、一つ、また一つと卵が降ってくる。落としているのは塔の上に集まった翼をもつ者の群れだ。卵が産まれる頃になるとこうして集まってきて、塔に登れないノル・ズーたちに卵を投げ与えてくれるんだ。
ノル・ズーとあまり関わろうとしないラ・ズーが、なぜそんなことをするのかはわからない。そういう習性があるんだね。大人のラ・ズーの生態についてはよくわかっていないことが多いんだ。彼らは社会と関わらないからね。
翼をもたぬ者の社会に一番近いところにいるラ・ズーはおとうさまだ。おとうさまの住んでいる塔は、ずっと昔におとうさまが自分で建てたものらしい。塔に住んでいるから『おとうさま』と呼ばれている。
おとうさまに食べ物を運ぶ役のノル・ズーでも、おとうさまの姿はめったに見られない。食べ物は小さな窓から差し入れてすぐに手を引っ込めるんだけど、運悪く指先をがぶりと噛まれたノル・ズーもいるというよ。
おとうさまはとても獰猛だし警戒心が強いんだ。当然翼をもたぬ者の言うことなんか聞かない。近づいてくるノル・ズーをおとうさまが殺さないのは、おとなしくしていれば食べ物とおひめさまを充てがってもらえるからだ。そうでなければおとうさまだって今頃他の翼をもつ者たちと同じように、血眼になって世界中を旅しておひめさまを探していたことだろう。
「塔の掃除は危険だからと言って、オルさまが自らなさって決して他人には任せないの」
とアーユーラは言う。
「私、オルさまが塔から戻ってくるところに出くわしたことがあるんだけど、まるで命からがら逃げてきたみたいに見えたわ。着ている服もズタズタに裂けていて、体のところどころから血がにじんでた。オルさまほどの武芸の達人でもそうなんだもの、普通のノル・ズーがうっかり塔に入ったりしたら大変でしょうね」
翼をもつ者がデタラメに卵を投げるもんで、中には地面に落ちて割れる卵もある。ラ・ズーは物事をきちんと丁寧にやるということがまるでない。けれど、落ちて割れるような卵は元々殻が薄くて、生まれてくる子も弱いんだ。落ちても割れないくらい丈夫なのがいい卵さ。苦労して温める前に弱い卵を選り分けてくれると思えば、ラ・ズーもまんざら役立たずってわけでもないね。
ラ・ズーを育てたことがあれば分かるだろうけど、彼らは粗暴ではあるがバカではない。自己中心的で集団生活ができないだけさ。ぶっきらぼうだけど悪い連中じゃない。腕力があるし手先も器用で、便利な道具を作る者もいる。祭りでも時々売っている。
この機械をごらんよ。ただの棒みたいに見えるけど、よく見ると取っ手のそばに小さな突起がついているだろう? ここを押すといつでもどこでも簡単に火をつけることができるのさ。どういう仕掛けか知らないけど、便利なものだね。しばらく使うと壊れてしまうから、私は卵祭りに来るたびに群れの仲間の分まで買うんだ。
1年前の卵祭りでは、夜になってから買いに行ったらもう売り切れていた。
「今年は売り切れかい。とても便利だから欲しかったのに」
と言うと、そのラ・ズーはまんざらでもなさそうにニヤリと笑った。
「けっこう人気があるんでね。来年はもっと早く買いに来なよ」
「仲間と一緒に、もっとたくさん作ったらどうだい。きっと儲かるよ」
と提案したら、
「いや、俺は仲間とかいないし」
と言う。
「いなければ、声をかけて集めればいいじゃないか」
と言ったら、
「いや、めんどくさいし」
と言う。
「作り方を教えてくれたら、私たちが手伝ってもいいよ」
と言うと、
「俺が発明した作り方を、なんでおばさんに教えなきゃいけないんだよ」
と逆にすごまれた。親切で言っているのにね。
私らみたいにラ・ズーも群れを作ればいいと思うんだけど、ラ・ズーっていうのはよほど一人でいるのが好きらしい。エマをもつ者のことは結局ラ・エマにしか分からないってことだね。
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