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ーサザンクロスー
第一章 6/6
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***
和也が落ち着くまでに、そう時間は、掛からなかった。
落ち着いた和也は、「帰るか。」と言い出し頷いた。
来た道を二人で歩いていると、和也は前を向いたまま。
「ありがとな、話したら気が楽になったよ。」
あんまり、まともに感謝された事もなかった為、少し照れる。
「いつでも、聞いてやるよ。」
そんな事を言い照れるのを誤魔化した。
和也は、俺の家まで付いてきてくれた。
「ついて来なくていいよ。」と遠慮すると「運動も兼ねてだから良いんだよ。」と笑顔で答えてくれる。
その笑顔は、さっきまでとは違い、前まで見せてくれていた笑顔に一瞬見えた。
話した事で、少しでも和らいだと思うと、嬉しかった。これからも、話を聞いてあげようと思った。
優希の家の前まで着くと、和也は、また「ありがとう」と言い帰っていった。
和也の背中が遠くなるまで見送った。
途中、誰かと話しているのが見えた。距離が離れていた為、誰なのかが分からなかったが。知り合いにでも会ったのだろと思い。俺は家に入った。
***
そして次の日、和也は学校に来た。
クラスのみんなが心配そうに話しかけてくれて和也は、「風邪が長引いていたんだ。」とみんなに話していた。
すると和也がこちらに気づき寄ってくる。
「おはよう。優希」
「おはよう。」
和也の顔色は、良くなっていた。昨日までの彼とは、別人じゃないのかと疑う程に。
きっと昨日、色々と話して落ち着いたんだろと思っていた。
すると和也が申し訳無さそうにして言った。
「昨日は、悪かったな。せっかく見舞いに来てくれたのに気づかなくて。」
一瞬、何を言っているんだ?と思った。
気づかないってなんだ?俺の中で何かがモヤモヤしたものが襲いかってくる。
すると和也がまた何かを言い出した。
「母さんに教えてもらったんだ。優希が昨日来たって。俺の部屋にお菓子と飲み物とか持ってきてくれたんだろ?なんで部屋に入ったのに起こしてくれなかったんだよ。」
全く理解できない。昨日、見舞いには行った。そして、和也と話をした。
それなのに、和也はそれを覚えていない。
俺は、慌てて尋ねた。
「昨日、話しただろ?」
和也は、不思議な顔をして。
「いや、話してないよ。だって寝てたし。」
嘘だ。確かに昨日、話をした。それに加え外にも出たって言うのに。
「小学校まで歩いていたよな?」
和也は、困った様子で。
「いや、行ってないよ。寝てたって言っただろ。大丈夫か?」
外に出た事も覚えていない。昨日の出来事を忘れているのか?もしかして、からかっているのかと疑ったが和也は、至って平然だ。
あんな、出来事を一日で忘れるなんてありえない。でも現に和也は、昨日の事を何一つ覚えていなかった。
一つだけ気になった事があった。
「和也、お前さ昨日、怖い夢とか見なかったか?」
和也は、首を横に振って不思議そうに答える。
「怖い夢?そんなの見てないよ。」
「じぁ、今までに悪夢を頻繁に見たとかない?」
和也は、困った様子だったが質問には、答えてくれた。
「何?心理テストかなんか?悪夢か、そんなの見た事ないな。小さい事、怖い夢を見た事は、あるけど、でっかい怪獣が追いかけてきたりとかって言う夢だったかな確か。」
何?これってどんなテストなの?と聞いてくる和也、何も言えなかった。
悪夢を見なくなったのではなく、悪夢なんて最初っから見ていたい事になっている。
あんなに、辛かったのに罪悪感で苦しんでいたのに、その事が無かったことになっている。
もう一つだけ不謹慎な事を承知の上で和也に尋ねた。
「和也、お前ってお兄さんいただろ?」
和也は、またも不思議そうに頷く。
続けて優希が話す。
「確か、事故にあって亡くなったんだよな。」
少し顔色が悪くなったが答えてくれた。
「うん。そうだよ。今の俺たちと同じ歳ぐらいの時に亡くなったんだ。」
「原因とかって知ってるのか?」
何故そんな事を聞くと、言わんばかりの顔だったが続けて話してくれた。
「家族で川に遊びに行った時に、足を滑らせて流されたんだよ。俺、その時、小学一年生ぐらいだったからあんまり詳しい事は、覚えてないけど怖かった記憶はある。」
「その時って和也何してたか覚えてないの?」
「確か母さんが言うには、父さんと一緒にテントを立てていたそうだよ。兄ちゃんは、一人で川に釣りをしに行ってたらしい。」
「その際に川に流されてしまったらしいんだ。見つかったのは、翌日の朝だって言ってた。」
記憶が改変されている。
和也が、溺れた記憶も、それを助けた正の記憶も、助けた際に正が流されてしまった記憶も全部忘れてしまっている。
「なんでそんな事、聞くんだ?」と和也は聞いてきたが同時にチャイムの音が鳴ってかき消された。
頭の中が混乱する。昨日までの和也は、もういない、あんなに悩んで苦しんでいたはずの和也は、いなのだ。それじゃ今ここに居る彼は誰なんだ?
そんな事を考えるとさらに混乱してしまう。
このまま、忘れていれば、きっとあの事故の事も記憶の片隅に閉まったまま、悪夢に魘される事もなく楽な毎日を送れるだろ。
何処かホッとした感じがすると同時に、複雑な気持ちになってしまう。
もう昨日までの和也は、何処にも居ないと思うと罪悪感が襲いかかってしまう。
何か出来なんじゃないかと。もっと話をするべきだったと後悔している。
誰も知らない、和也本人も知らない。
悪夢に魘されて苦しんでいた彼を俺一人がしている。
そして、この事が空想の怪人「夢喰人」の仕業だと知るのにそんな、時間は掛からなかった。一年上の先輩、長澤 綾野が悪夢に魘されている事を知るまでは。
和也が落ち着くまでに、そう時間は、掛からなかった。
落ち着いた和也は、「帰るか。」と言い出し頷いた。
来た道を二人で歩いていると、和也は前を向いたまま。
「ありがとな、話したら気が楽になったよ。」
あんまり、まともに感謝された事もなかった為、少し照れる。
「いつでも、聞いてやるよ。」
そんな事を言い照れるのを誤魔化した。
和也は、俺の家まで付いてきてくれた。
「ついて来なくていいよ。」と遠慮すると「運動も兼ねてだから良いんだよ。」と笑顔で答えてくれる。
その笑顔は、さっきまでとは違い、前まで見せてくれていた笑顔に一瞬見えた。
話した事で、少しでも和らいだと思うと、嬉しかった。これからも、話を聞いてあげようと思った。
優希の家の前まで着くと、和也は、また「ありがとう」と言い帰っていった。
和也の背中が遠くなるまで見送った。
途中、誰かと話しているのが見えた。距離が離れていた為、誰なのかが分からなかったが。知り合いにでも会ったのだろと思い。俺は家に入った。
***
そして次の日、和也は学校に来た。
クラスのみんなが心配そうに話しかけてくれて和也は、「風邪が長引いていたんだ。」とみんなに話していた。
すると和也がこちらに気づき寄ってくる。
「おはよう。優希」
「おはよう。」
和也の顔色は、良くなっていた。昨日までの彼とは、別人じゃないのかと疑う程に。
きっと昨日、色々と話して落ち着いたんだろと思っていた。
すると和也が申し訳無さそうにして言った。
「昨日は、悪かったな。せっかく見舞いに来てくれたのに気づかなくて。」
一瞬、何を言っているんだ?と思った。
気づかないってなんだ?俺の中で何かがモヤモヤしたものが襲いかってくる。
すると和也がまた何かを言い出した。
「母さんに教えてもらったんだ。優希が昨日来たって。俺の部屋にお菓子と飲み物とか持ってきてくれたんだろ?なんで部屋に入ったのに起こしてくれなかったんだよ。」
全く理解できない。昨日、見舞いには行った。そして、和也と話をした。
それなのに、和也はそれを覚えていない。
俺は、慌てて尋ねた。
「昨日、話しただろ?」
和也は、不思議な顔をして。
「いや、話してないよ。だって寝てたし。」
嘘だ。確かに昨日、話をした。それに加え外にも出たって言うのに。
「小学校まで歩いていたよな?」
和也は、困った様子で。
「いや、行ってないよ。寝てたって言っただろ。大丈夫か?」
外に出た事も覚えていない。昨日の出来事を忘れているのか?もしかして、からかっているのかと疑ったが和也は、至って平然だ。
あんな、出来事を一日で忘れるなんてありえない。でも現に和也は、昨日の事を何一つ覚えていなかった。
一つだけ気になった事があった。
「和也、お前さ昨日、怖い夢とか見なかったか?」
和也は、首を横に振って不思議そうに答える。
「怖い夢?そんなの見てないよ。」
「じぁ、今までに悪夢を頻繁に見たとかない?」
和也は、困った様子だったが質問には、答えてくれた。
「何?心理テストかなんか?悪夢か、そんなの見た事ないな。小さい事、怖い夢を見た事は、あるけど、でっかい怪獣が追いかけてきたりとかって言う夢だったかな確か。」
何?これってどんなテストなの?と聞いてくる和也、何も言えなかった。
悪夢を見なくなったのではなく、悪夢なんて最初っから見ていたい事になっている。
あんなに、辛かったのに罪悪感で苦しんでいたのに、その事が無かったことになっている。
もう一つだけ不謹慎な事を承知の上で和也に尋ねた。
「和也、お前ってお兄さんいただろ?」
和也は、またも不思議そうに頷く。
続けて優希が話す。
「確か、事故にあって亡くなったんだよな。」
少し顔色が悪くなったが答えてくれた。
「うん。そうだよ。今の俺たちと同じ歳ぐらいの時に亡くなったんだ。」
「原因とかって知ってるのか?」
何故そんな事を聞くと、言わんばかりの顔だったが続けて話してくれた。
「家族で川に遊びに行った時に、足を滑らせて流されたんだよ。俺、その時、小学一年生ぐらいだったからあんまり詳しい事は、覚えてないけど怖かった記憶はある。」
「その時って和也何してたか覚えてないの?」
「確か母さんが言うには、父さんと一緒にテントを立てていたそうだよ。兄ちゃんは、一人で川に釣りをしに行ってたらしい。」
「その際に川に流されてしまったらしいんだ。見つかったのは、翌日の朝だって言ってた。」
記憶が改変されている。
和也が、溺れた記憶も、それを助けた正の記憶も、助けた際に正が流されてしまった記憶も全部忘れてしまっている。
「なんでそんな事、聞くんだ?」と和也は聞いてきたが同時にチャイムの音が鳴ってかき消された。
頭の中が混乱する。昨日までの和也は、もういない、あんなに悩んで苦しんでいたはずの和也は、いなのだ。それじゃ今ここに居る彼は誰なんだ?
そんな事を考えるとさらに混乱してしまう。
このまま、忘れていれば、きっとあの事故の事も記憶の片隅に閉まったまま、悪夢に魘される事もなく楽な毎日を送れるだろ。
何処かホッとした感じがすると同時に、複雑な気持ちになってしまう。
もう昨日までの和也は、何処にも居ないと思うと罪悪感が襲いかかってしまう。
何か出来なんじゃないかと。もっと話をするべきだったと後悔している。
誰も知らない、和也本人も知らない。
悪夢に魘されて苦しんでいた彼を俺一人がしている。
そして、この事が空想の怪人「夢喰人」の仕業だと知るのにそんな、時間は掛からなかった。一年上の先輩、長澤 綾野が悪夢に魘されている事を知るまでは。
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