夢喰人ーユメクイビトー

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ーサザンクロスー

第一章 5/6

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夢なんてどんな形にもなる。
怖い体験や悲しい思い出の夢を見た時、そのままの経験が、夢になる事もあれば、自分が無意識のうちに、芽生えた感情が夢と混ざり合い無かったはずの空想を見せてしまう事もある。

和也は、正を殺してしまった、悪夢を見ていると言う。
実際には、正が亡くなったのは不運な事故であり、和也自身もそれをわかっているはずだ。

きっと、罪悪感からくる感情が、和也にそのような悪夢を見せているのだ。
本当は、夢なのだから気にする必要なんてないと声を掛けるべきなんだろうが、俺が思っている以上に和也の中にある傷は深く重いものなんだろう。

それから、和也は窓の方へと顔を向けて突然言った。

「この前、学校で話したこと覚えてるか?」

この前・・・学校・・・。
和也と学校で何を話したのだろう。数週間も学校に来なかった事もあったし、たまに来ても話せる元気は、なかったはずだ。
少し悩んだ。
すると和也は続けて話した。

「ほら、都市伝説の話をしただろ。」

その言葉を聞いてようやく気づいた。
都市伝説・・・確かに一度だけ和也とそんな事を話した事があった。
確か、夢を食べる怪人の話。怪人の名前までは思い出せないが確かに話した記憶はある。

「あれか。夢を食うって言う怪人だっけ?」

和也は、一度こっちを向き頷いてから、また窓の方へと向いてしまう。

「そう、夢喰人。怖い夢なんかで悩んでいる人の前に現れ、その夢を食べてくれるって言う。」

前も同じような事を話していた。
怪人、都市伝説なんて作り話でしかないと思い深く考えないようにしていた。そのせいで和也が、この話をするまで忘れていた。

「都市伝説だろ。和也、もしかして信じてるのか?」

和也は、頷いた。

「馬鹿らしいだろ。ありもしない、怪人なんかを信じてるなんて。」

和也は、本当に信じているんだ。信じるしか無いんだ。例えそれが空想上の怪人だとしても。

「笑うか?」

和也は、悲しい顔で無理に微笑んで言った。
たしかに、普段の会話でそんなものを信じるなんて言ったらいい笑い物だ。サンタクロースが実在すると言っているよなものだから。

でも今は、そんな事は思わなかった。
きっと、逆の立場だったら俺も、その夢喰人と言う怪人を信じてしまうと思うから。

もし本当に、そんな怪人がいるのだとしたら和也の悪夢を食べてほしいと心から思う。

俺は、首を横に振り「そんな事はない。」と答えると。和也は微笑んでくれた。

すると突然、和也が立ち上がって優希の方を見て言った。

「外に行かないか?ずっと家にいたから体が鈍っちゃたよ。」

きっと和也は、俺に気お使ってくれたのだろう。俺は、「そうだな。」と言い立ち上がった。

***

家を出ると外は、もう夕方になっていた。
今日、俺がきた方向とは逆の道を二人で歩いた。逆の道には、小学校がある俺も和也もそこに通っていた。俺が学校へ向かう途中に和也の家があって良く一緒に行ったものだ。

すると、和也が口を開いた。

「こっち側に来るのは、久しぶりだよな。なんか小学生の頃を思いだすよ。」

「そうだな。いつもこうやって一緒に学校に行ったよな。」

他愛もない会話をしながら小学校の前に着いた。すると少しの間、沈黙が包む。

すると、和也が口を開く。

「きっと、あの事故がなければ、俺はここに引っ越して来る事もなかったと思う。」

突然そんな事を言い出すので、和也の方を向いた。

「あの事故が原因で俺は、引きこもってたんだ。」

「そんな、俺を見兼ねて母さん達は、遠く離れた場所で暮らそうと考えたんだ。きっとあのままだったら引きこもってしまっていたと思うから。」

「だけど引っ越してきてよかったと思ってる。優希に会えてよかったと思ってる。お前と一緒にいると前を向いて進める気がしたんだ。」

それは、本音なんだろと思った。和也は、真剣な表情で喋っていたので黙って聞いていた。
すると、予想もしない言葉が飛び交った。

「本当は、あの事故で死ぬのは、俺だったんだ。」

「えっ。」

とっさに声が出た。和也が死ぬはずだった?
どうゆう事だ?亡くなったのは、正なのに。

和也は、事故の事を話してくれた。

「あの日、家族で川に遊びに行った日、いつもより川の勢いが強くて母さん達から川の中で遊ぶのは、やめなさいって言われてたんだ。」

「兄ちゃんが俺の面倒を見てくれて、俺は川の側で魚を見てたんだ。兄ちゃんもあまり近くに行くなって言ってたんだけど、俺、魚を見るのに夢中でゆう事を聞かなかったんだ。」

察してしまった、気がする。これから和也が何を言おうとしているのかを。

「魚が近くまで来て、それを捕まえて兄ちゃんをびっくりさせようと思ったんだ。」

「そしたら、勢い余って川に落ちた。兄ちゃんが叫んで近づいて来るのが見えたよ。」

「運良く兄ちゃんが俺を引き上げてくれて、助かったって思った。その瞬間、引き上げた際に兄ちゃんは、足を滑らせたんだ。」

「その後、母さん達が来てくれたんだけど兄ちゃんは、見つからなかった。見つかったのは、その翌日だった。」

そこで和也が少し黙ってから覚悟を決めたように話した。

「母さん達は、俺が溺れた事は知らないんだ。」

息を呑む、和也が抱える悩みがわかった気がするから。

「兄ちゃんがただ足を滑らせてしまったと、思い込んでるんだ。俺を助けようとして起きた事故なのに…」

俺は、とっさに口を挟んだ。

「でも お前、溺れて全身濡れてたんじゃないのか?その事について何も言われなかったのか。」

すると和也は。

「言われたよ。川で遊んじゃダメでしょって。ただそれだけしか言われなかった。」

和也の目から涙が溢れるのがわかった。とっさに目を逸らし見ないようにする。
それから和也は、震えた声で言った。

「もう、兄ちゃんと同じ歳になったんだ。あの時の兄ちゃんも高校二年生だった。」

「不安になったよ。もし生きていれば、大好きだったサッカーを続けていたかもしれないのに。」

またも、思いもよらない事を話してくれた。
和也が、サッカーをやっている理由がわかった。和也は、高校生になってからサッカーをやり始めた。最初は、驚いた。サッカーに興味があるなんて知らなかったから。
きっとそれは、正の分も大好きだったサッカーをやろうとする罪滅ぼしだったのかもしれない。

俺は、何も言えずにいた。ただ泣いている親友を見る事しか出来ずにいた。

兄と同じ高校二年生になって一気にその罪悪感が和也を襲ってきたのだろう。
そして、たまにしか見ないはずの悪夢が頻度を上げてさらに自分を苦しめる事になっていったんだ。

そしてどうしようも無くなって、夢喰人という空想の怪人を頼ることしかできなくなったんだ。

小学校のチャイムが鳴った。
もう夕日が落ちかけているのに気づいた。







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