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第三章「レゼンタック」
第九十八話「人間離れ」
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「アレンさーん、車いす持ってきましたよー」
俺が物陰で隠れていると、マルセア君がこそこそと俺の姿を探している声が聞こえてくる。
「こっち」
俺が物影から姿を現し手招きをすると、マルセア君はすぐに気づいてくれた。
「遅くなってすみません」
「ノアさんは4階の病室にいるそうです」
「じゃあいこっか」
俺はマルセア君の押す車いすに乗り、病人を装いながらなんとかエレベーターに乗る。
「アレンさん、やっぱり治療は受けた方がいいと思いますよ……」
「今からでも戻りましょうよ……」
マルセア君は心配そうな顔をしながら俺の顔を覗き込んでくる。
そう言われてもな……
トレバーさんに俺の身体が人間ではないかもしれないと伝えられた時、一つ約束をした。
それは、命に係わる事態でなければ病院にいかないという事だ。
もし何かあった時、人体実験されるならまだしも敵対する者だと認識されてしまえばケイの面倒を見ることが出来なくなってしまう。
それは少し避けたい。
「えーっと、まぁいいから」
「そうですよね……、すみません……」
エレベーターを降りると静まり返った廊下が出迎えてくれた。
419号室ということは……左だ。
静かな廊下に車いすのタイヤがカーペットと擦れる音が漂う。
マルセア君はノアのいる病室の前までくると車いすを止めた。
「アレンさん、入りますよ?」
「え?あーうん、ドア開けるね」
「ノア―、元気―?」
俺は前かがみになって引き戸を開けながら病室に入ると、ベッドの上で小さな食器に囲まれたノアに声をかける。
「え……」
マルセア君が口を開けたまま動かなくなってしまったので、俺は壁に手をつけながら立ち上がりノアが座っているベッドに近づいて、腰を下ろした。
「ノア、死にそうだったみたいじゃん」
「あぁ、そうらしいな!」
「だがこのくらいの怪我なら飯食えば治る!!」
マルセア君は驚いているようだがノアという人間はこんなもんだ。
たった数か月だが散々みせつけられてきた。
俺なんかよりよっぽど人間離れしている。
まぁ、治療室ではなく病室にいることを知るまでは少し心配してたけど……
「アレン、お前の怪我はどうだ?」
「重症だけど多分すぐに治せる」
「ちょっとそれ貸して」
俺はノアのベッドの脇にある酸素吸入器に手を伸ばした。
予想通り、普通の救急病院にノアの肌を通る道具が置いてあるはずもない。
となれば、これがここにあるのも当然だ。
「マルセア君、ちょっときて!」
俺がそう言うと、マルセア君はハッとして動き出した。
「あのー……、なんですか?」
マルセア君はノアに怯えているのか目が泳いでいる。
「そしたらさ、マルセア君に俺の腕と脚を縫ってほしいんだ」
「できる?」
「え……」
マルセア君は再び口を開いたまま固まる。
「……すみません、できないです」
俺が物陰で隠れていると、マルセア君がこそこそと俺の姿を探している声が聞こえてくる。
「こっち」
俺が物影から姿を現し手招きをすると、マルセア君はすぐに気づいてくれた。
「遅くなってすみません」
「ノアさんは4階の病室にいるそうです」
「じゃあいこっか」
俺はマルセア君の押す車いすに乗り、病人を装いながらなんとかエレベーターに乗る。
「アレンさん、やっぱり治療は受けた方がいいと思いますよ……」
「今からでも戻りましょうよ……」
マルセア君は心配そうな顔をしながら俺の顔を覗き込んでくる。
そう言われてもな……
トレバーさんに俺の身体が人間ではないかもしれないと伝えられた時、一つ約束をした。
それは、命に係わる事態でなければ病院にいかないという事だ。
もし何かあった時、人体実験されるならまだしも敵対する者だと認識されてしまえばケイの面倒を見ることが出来なくなってしまう。
それは少し避けたい。
「えーっと、まぁいいから」
「そうですよね……、すみません……」
エレベーターを降りると静まり返った廊下が出迎えてくれた。
419号室ということは……左だ。
静かな廊下に車いすのタイヤがカーペットと擦れる音が漂う。
マルセア君はノアのいる病室の前までくると車いすを止めた。
「アレンさん、入りますよ?」
「え?あーうん、ドア開けるね」
「ノア―、元気―?」
俺は前かがみになって引き戸を開けながら病室に入ると、ベッドの上で小さな食器に囲まれたノアに声をかける。
「え……」
マルセア君が口を開けたまま動かなくなってしまったので、俺は壁に手をつけながら立ち上がりノアが座っているベッドに近づいて、腰を下ろした。
「ノア、死にそうだったみたいじゃん」
「あぁ、そうらしいな!」
「だがこのくらいの怪我なら飯食えば治る!!」
マルセア君は驚いているようだがノアという人間はこんなもんだ。
たった数か月だが散々みせつけられてきた。
俺なんかよりよっぽど人間離れしている。
まぁ、治療室ではなく病室にいることを知るまでは少し心配してたけど……
「アレン、お前の怪我はどうだ?」
「重症だけど多分すぐに治せる」
「ちょっとそれ貸して」
俺はノアのベッドの脇にある酸素吸入器に手を伸ばした。
予想通り、普通の救急病院にノアの肌を通る道具が置いてあるはずもない。
となれば、これがここにあるのも当然だ。
「マルセア君、ちょっときて!」
俺がそう言うと、マルセア君はハッとして動き出した。
「あのー……、なんですか?」
マルセア君はノアに怯えているのか目が泳いでいる。
「そしたらさ、マルセア君に俺の腕と脚を縫ってほしいんだ」
「できる?」
「え……」
マルセア君は再び口を開いたまま固まる。
「……すみません、できないです」
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