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第三章「レゼンタック」

第九十六話「無茶」

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 あれから何分たっただろうか。
 10分?5分?
 もしかしたら1分もたっていないかもしれない。

 苦しい。
 頭が回らない。

 服は高い防水性能のおかげで水を吸っていないが、靴が大量に水を吸ったせいで足が重い。
 しかし、きっちりと閉められた靴紐を解いて靴を脱ぐ余裕もない。

 ノアもまだ動かない。
 もしかしたらもう……
 いや、ノアに限ってそんな事はない。


 とにかく、いったん呼吸を整えなければ。
 しかしどうやって……

 あのクジラは俺を追いつめる方法を学習し始めている。

 だめだ。
 考えれば考えるほど身体から酸素が無くなっていく感覚が大きくなる。


「ブクブクブクンッ」

 俺はイチかバチか海面に向かって水を掻く。
 しかし、思った通りクジラは俺を追いかけように真下から迫ってきた。

「……ッは、はぁ……はぁ……、スッ」

 俺は海面から顔を出し、呼吸を整えながら船の方を確認してからすかさず海の中に潜った。
 しかし、2体のクジラは口を150度開いて足元まで迫ってきている。

 やるしかないか……

 俺は水中で右手の二本指を顔の前に立て、集中を高める。
 得た酸素の全てを使い、丹田に力を込める。


「グリュリュリ……」

 身体がクジラの口の中に入った瞬間、辺りの音が消えた。
 それを合図に、俺はクジラの口の中から<弱点感知>でぼんやり光る核に向かって咥内を蹴り上げた。

 クジラの核が破壊されたと同時に、脚に激痛が走る。
 おそらく、また骨でも飛び出ているのだろう。


 俺が呼吸を乱さないように激痛に耐えていると、もう1体のくじらが胸びれをピンと張り、核が破壊され身体が崩れていくクジラを切断しながら襲ってきた。

 俺はクジラの胸びれが身体に当たると同時に右腕をクジラの胸びれに覆いかぶせ、そのまま抉り取る。
 クジラはダメージを感じたのか90度旋回し、そのまま海深くに潜っていった。
 その代償に俺の千切れかかった右腕がクジラの起こした水流によって身体から離れようとしている。

 俺は自分の右腕を左腕で抱きかかえながら身体を丸めてじっとする。

 脚でこうなるなら腕じゃあこうなるのも当然か……
 痛いな。
 笑える。


「ブクブクブクブク……」

 視界が溶けかかったクジラの死体と自分の血で覆われている。
 痛みで身体が燃えるように熱いのと対照に、体温はだんだん冷たくなっていく。


 もう空気を体内に留めて置く気力もない……


 身体が海の底へ沈んでいく……
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