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第三章「レゼンタック」

第七十六話「シンプルに」

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 俺は短剣を腰の鞘に納め、右手の二本指を顔の前に立ててゆっくりとまばたきをする。

「ふぅ……」

 亀猿が投擲した石つぶては、目を開けた時には手の届く距離まで迫ってきていた。


 小が20、中が6、大が1ってところか……
 大丈夫、全部見える。

 俺は重心を低くすると同時に脚に力を溜める。
 そして次の瞬間、亀猿に向かって飛び上がった。

 急に成長した今の身体では、いくら石の挙動を把握できても真正面で避けるような細かな動きは出来ない。
 だからこそシンプルが良い。


 亀猿は既に俺の落下地点を予測し、その長い手足を振り回しながら近づいてきている。
 おそらくあの剛力で俺を掴むつもりだろう。

 バンッ!!

 ハリソンの放った銃弾が亀猿に当たるが、亀猿はもはや気にしてもいない。


「<コール>」

 俺がそう言うと、亀猿の背後に付いていいた召喚獣が俺の目の前まで一瞬で移動する。

 ごめんっ!

 召喚獣は俺に同調し身体を小さく丸め、俺はその重心を狙うように召喚獣を踏み場にして亀猿に向かって加速した。

 亀猿は腕を俺に向かって伸ばしてきたが、その時には俺は着地を済ませ腰の短剣に手をかける。


 あの長い腕に捕まるのは危険だ。
 だからこそ近づく。
 亀猿の射程距離内の更に内へ。


 亀猿は俺を掴もうと肘を曲げるが、その速度は腕を伸ばす速さとは明らかに劣る。
 柔道家や相撲取りならまだしも動物なら当然だ。

 俺は抜刀と同時に振り向いて亀猿の両手首の肉を外核ごとそぎ落とし、瞬時に生成された新たな外核も斬りつけながら腕をくぐり抜ける。

「<コール>」

 俺がそう言うと、俺の目の前まで移動した召喚獣が亀猿の腕を下がっていた顎を巻き込むように蹴り上げた。

 亀猿の身体が浮き上がり地面と水平になった隙に、俺は亀猿の両足首の肉を外核ごとそぎ落とす。

 亀猿がなすすべもなく地面に背中から落ちると、召喚獣は亀猿の顔を全体重を乗せて踏みつけ、俺はその隙に新たに生成された両足首の外核に追撃を入れる。


「……っし」

 俺は一旦ハリソンがいる場所まで距離をとり、様子を確認する。
 先程よりは顔色が良い。

「おいアレン、俺はどうすればいい?」
「狙いぐらい教えてくれ」

「まずはあの脱皮を止める」

「どうやってだ?」

「まぁ見とけって……」

 亀猿は10秒もしない内に立ち上がる。
 傷も既に治りかけているようだ。

「切り裂け」

 俺がそう言うと、召喚獣は亀猿の首元を噛み千切る。

 亀猿は特に気にすることなく脱皮を始めるが、先程とは様子が少し違うようだ。
 急激に成長した手足に外核が引っ掛かり、うまく脱皮が出来ていない。
 亀猿は口を使って外核を引きちぎろうとしているが、矛より盾が勝っているようだ。


 急激な成長によるデメリットは痛い程、身に染みてるからな……


 何はともあれ、脱皮阻止作戦は成功だ。
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