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第三章「レゼンタック」

第五十二話「恋人」

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 パチッ……パチンッ……パチン……パチ……

 冷たい闇の中で微かに炎が弾ける音がする。


 俺はまだ生きてるのか。


「……ペッ」

 口の中で固まっていた血を吐き出すと同時に、ゆっくりと目を開ける。
 目の前に、あの黒騎士が焚火の前で座っていた。


「……目を覚ましたか」

 寝ていた身体を起こそうとするが、身体が動かない。
 どうやら縄できつく縛られているようだ。

「……待て、殺す気は無い」
「少し話をしよう」

 黒騎士そう言うと、俺の腕を掴んで身体を起こした。

 肩が痛い。
 肋骨は砕けてるな……


「……なんで亀甲縛り?」

 俺は顎を引いて自分の胸を見る。

「君は侍だろ?」
「それにデザインが好きなんだ」

 黒騎士の答えの意味が分からなかったが、気は合いそうだ。
 それに、恐怖を感じない。


「……お姫様を誘拐したのはあなたですか?」

「誘拐……、か」
「そうとも言えるな」

「だれか私のことを呼びましたか?」

 背後から気配を感じると共に、女の人の声が聞こえた。

「あなた生きていたんですね」
「名前はなんていうの?」

 そう俺に質問しながら、焚火を飛び越えて黒騎士の隣に腰を下ろした美しい女性の姿は、一般人とは明らかに異なる雰囲気を醸し出していた。

「アレンです」

「そう、私はソフィア」
「はじめまして」
「そしてあなたを半殺しにしたこの人はウィリアム」

「……あ、はじめまして」

「そう、あなた強いわね」
「レベルはいくつなの?」

「あ、えーっと」

 なんだこの人……


「ソフィア、君がいると話が進まないからあっちにいっててくれないか?」

「やーだ!」
「聞いてるからいいでしょ?」

 そう言うと、お姫様は黒騎士の腕をぎゅっと抱きしめる。


「まず、先程の仕打ちを詫びたい」
「すまなかった」
「ただ、少し傷を負わせて足止めするつもりだけだったんだ……」

「いえ、あなたに殺意がないのは分かっていました」
「だけど、多分あなたは俺の実力を過大評価しすぎです」
「<HP>なんて指でつまめる程しかありませんから……」

 俺はかすれた声で苦笑いする。

「君のレベルはいくつだ?」
「もしや100より少ないのか?」

「……はい」

「それが本当ならば先程の実力はありえないぞ?」
「あんな殺気は大戦以来だ」

「最初からあなたに勝てるのは気持ちだけだと分かっていましたから」
「まぁ、それはもういいです」
「それで……お姫様とのご関係は?」

「恋人よ!」
「見て分かるでしょ!」

 お姫様は会話の中に割り込んでくる。

「……あ、はい」

「ウィル!」
「あなたがそんなので顔を隠してるから伝わらないのよ!」

 お姫様はそう言いながら立ち上がり、黒騎士の兜を上に引っ張る。

「ソフィア、自分で外すよ」
「……すまない、兜を着けていた事をすっかり忘れてしまっていた」

 黒騎士はお姫様の手を振り払い、自分の両手で兜を脱ぐ。

 ……なるほど、お似合いだ。


「つまり、誘拐じゃなくて駆け落ちですか?」

「……そうとも言えるな」

 黒騎士はその兜の下から現した美しい顔を赤らめながら、目線を焚火に逸らした。
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