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第三章「レゼンタック」

第五十一話「奥の手」

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 ここはどこだ?

 いつの間にか腰にあったポーチが無くなっていた。
 持ち物は裸の短剣のみ。
 コンパスはないし通信機で助けを呼ぶこともできない。
 かろうじて木の隙間から光が入ってくるが、雨雲と空を覆う木の葉のせいで、太陽の向きまで確認することが出来ない。

 迷子……
 雨も気持ち強くなってきた。

 こうしている間にも身体の悲鳴はどんどん大きくなっていく。

 死にそう……


 カシャンッ

 後ろから物音が聞こえて振り返ると、両手に何も持っていな黒騎士が上段蹴りの体勢で構えていた。

 やばい。
 追い付かれた。
 鎧を着てるのに普通そこまで足が上がるか?
 身体が固まってる。
 速い。
 間に合わない。

 俺は何とか腕を上げて防御姿勢に入るが、その瞬間、黒騎士が目の前から姿を消す。


 ここでそれかよ……

 俺は急いで振り返るが、既に黒騎士の踵が俺の鎖骨にめり込んでいて、そのまま引っ掛けるようにされながら地面に叩きつけられた。

 俺が痛みで身体を捩じらせていると、黒騎士は俺の胸ぐらを掴んで木に強く押しつける。


 くっそ!

 俺は左手で持っていた短剣を逆手に持ち替えると、兜の目の隙間に滑り込ませる。

 しかし、肉の感触を感じる前に身体を振り払われ、俺は黒騎士にそのまま顔面を殴りつけられた。


 50mは吹っ飛ばされたか……
 身体から力が抜けて、立ち上がれない……
 鼻血があふれ出てくるせいで呼吸もできない……

 赤く、キラキラと滲んでいく視界の中で、黒騎士が近づいてくるのが見える。


 今日、また死ぬのか……
 それも悪くない……


 ふざけるな。

「ゔあぁぁ」

 俺はうめき声を上げながら身体をうつ伏せにすると、地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。

 死ぬのは良い。
 だが他人に自分の命を奪われるのはどうも気に食わない。
 死ぬなら寿命か病気か自殺の三択だ。

 アイツをぶっ殺してから自殺してやる……


 俺が立ち上がると同時に黒騎士は足をピタリと止める。


 きっと、もう一分も動けない。

 行儀が良いのはもうやめだ。
 あと一息でひっくり返してやる。

 俺は短剣を左手で持ったまま、右手の二本指を顔の前に立てる。

 自分が知っている技術のはずなのに、今まで使うのを拒んでいた。
 なぜか憎しみと悲しみが湧いてくる。
 忘れてしまった記憶が擦り切れているようで、もどかしい。


 俺の違和感を感じたのか、黒騎士は大きく前に踏み込んで距離を詰めようとしているのが霞んだ視界に映る。

 死を目の前にすると、いまさら黒騎士に恐怖は生まれない。
 だが、まだ集中力が浅い。


「<虚栄>」

 俺が<特能>を発動すると、黒騎士は素早く50mほど距離を取って空中から直剣を発現させる。
 そして、その直剣の先に新たな剣を発現させ、そして新たに発言した剣の先にも新たな剣を発現させ、黒騎士が持っている直剣がどんどん伸びていく。

 これで数秒、時間が稼げる。


「ふぅーーー……」

 あともう少し。
 もっと刃に殺意を込める……
 無量の集中力を……

 ……きた。

 俺は腹と背中を一瞬で合わせるように、逆流する血ごと肺に酸素を送る。
 そして、息を止めながら丹田に力を込め、その力を脊髄に送り、両耳までゴムのようにゆっくりと引っ張る。

 黒騎士は50mはくだらない程に伸びた直剣を真っすぐに振りかぶっていた。


 一瞬の時間の間に日が落ち、辺りが暗い雨の音に包まれる。

 それと同時に、黒騎士は周りにある木の葉や枝を関係なしに剣を一直線に振り下ろした。

「しィッ!!」

 俺は身体の中にある空気を一気に吐き出すと同時に、身体の中に溜めた力をピタリとそろえた両脚から地面に向かって一度に放出する。
 そして、左腕と左足を一緒に前に出すように距離を詰める。

 狙うは兜の隙間。

 二歩目を踏みしめた時には黒騎士の剣の刃先が頭上に迫っていたが関係ない。
 重心を低くし、さらに加速する。
 この距離なら届く。


 バチンッ

 足元から何かが弾けた音がしたと共に、脚からふわりと力が抜け、俺は地面に滑り込む。
 黒騎士の剣の刃先が髪に触れると同時に時間の流れが遅くなる。

 これが走馬灯か……


 思い残すことはない。
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