188 / 244
第三章「レゼンタック」
第五十一話「奥の手」
しおりを挟む
ここはどこだ?
いつの間にか腰にあったポーチが無くなっていた。
持ち物は裸の短剣のみ。
コンパスはないし通信機で助けを呼ぶこともできない。
かろうじて木の隙間から光が入ってくるが、雨雲と空を覆う木の葉のせいで、太陽の向きまで確認することが出来ない。
迷子……
雨も気持ち強くなってきた。
こうしている間にも身体の悲鳴はどんどん大きくなっていく。
死にそう……
カシャンッ
後ろから物音が聞こえて振り返ると、両手に何も持っていな黒騎士が上段蹴りの体勢で構えていた。
やばい。
追い付かれた。
鎧を着てるのに普通そこまで足が上がるか?
身体が固まってる。
速い。
間に合わない。
俺は何とか腕を上げて防御姿勢に入るが、その瞬間、黒騎士が目の前から姿を消す。
ここでそれかよ……
俺は急いで振り返るが、既に黒騎士の踵が俺の鎖骨にめり込んでいて、そのまま引っ掛けるようにされながら地面に叩きつけられた。
俺が痛みで身体を捩じらせていると、黒騎士は俺の胸ぐらを掴んで木に強く押しつける。
くっそ!
俺は左手で持っていた短剣を逆手に持ち替えると、兜の目の隙間に滑り込ませる。
しかし、肉の感触を感じる前に身体を振り払われ、俺は黒騎士にそのまま顔面を殴りつけられた。
50mは吹っ飛ばされたか……
身体から力が抜けて、立ち上がれない……
鼻血があふれ出てくるせいで呼吸もできない……
赤く、キラキラと滲んでいく視界の中で、黒騎士が近づいてくるのが見える。
今日、また死ぬのか……
それも悪くない……
ふざけるな。
「ゔあぁぁ」
俺はうめき声を上げながら身体をうつ伏せにすると、地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。
死ぬのは良い。
だが他人に自分の命を奪われるのはどうも気に食わない。
死ぬなら寿命か病気か自殺の三択だ。
アイツをぶっ殺してから自殺してやる……
俺が立ち上がると同時に黒騎士は足をピタリと止める。
きっと、もう一分も動けない。
行儀が良いのはもうやめだ。
あと一息でひっくり返してやる。
俺は短剣を左手で持ったまま、右手の二本指を顔の前に立てる。
自分が知っている技術のはずなのに、今まで使うのを拒んでいた。
なぜか憎しみと悲しみが湧いてくる。
忘れてしまった記憶が擦り切れているようで、もどかしい。
俺の違和感を感じたのか、黒騎士は大きく前に踏み込んで距離を詰めようとしているのが霞んだ視界に映る。
死を目の前にすると、いまさら黒騎士に恐怖は生まれない。
だが、まだ集中力が浅い。
「<虚栄>」
俺が<特能>を発動すると、黒騎士は素早く50mほど距離を取って空中から直剣を発現させる。
そして、その直剣の先に新たな剣を発現させ、そして新たに発言した剣の先にも新たな剣を発現させ、黒騎士が持っている直剣がどんどん伸びていく。
これで数秒、時間が稼げる。
「ふぅーーー……」
あともう少し。
もっと刃に殺意を込める……
無量の集中力を……
……きた。
俺は腹と背中を一瞬で合わせるように、逆流する血ごと肺に酸素を送る。
そして、息を止めながら丹田に力を込め、その力を脊髄に送り、両耳までゴムのようにゆっくりと引っ張る。
黒騎士は50mはくだらない程に伸びた直剣を真っすぐに振りかぶっていた。
一瞬の時間の間に日が落ち、辺りが暗い雨の音に包まれる。
それと同時に、黒騎士は周りにある木の葉や枝を関係なしに剣を一直線に振り下ろした。
「しィッ!!」
俺は身体の中にある空気を一気に吐き出すと同時に、身体の中に溜めた力をピタリとそろえた両脚から地面に向かって一度に放出する。
そして、左腕と左足を一緒に前に出すように距離を詰める。
狙うは兜の隙間。
二歩目を踏みしめた時には黒騎士の剣の刃先が頭上に迫っていたが関係ない。
重心を低くし、さらに加速する。
この距離なら届く。
バチンッ
足元から何かが弾けた音がしたと共に、脚からふわりと力が抜け、俺は地面に滑り込む。
黒騎士の剣の刃先が髪に触れると同時に時間の流れが遅くなる。
これが走馬灯か……
思い残すことはない。
いつの間にか腰にあったポーチが無くなっていた。
持ち物は裸の短剣のみ。
コンパスはないし通信機で助けを呼ぶこともできない。
かろうじて木の隙間から光が入ってくるが、雨雲と空を覆う木の葉のせいで、太陽の向きまで確認することが出来ない。
迷子……
雨も気持ち強くなってきた。
こうしている間にも身体の悲鳴はどんどん大きくなっていく。
死にそう……
カシャンッ
後ろから物音が聞こえて振り返ると、両手に何も持っていな黒騎士が上段蹴りの体勢で構えていた。
やばい。
追い付かれた。
鎧を着てるのに普通そこまで足が上がるか?
身体が固まってる。
速い。
間に合わない。
俺は何とか腕を上げて防御姿勢に入るが、その瞬間、黒騎士が目の前から姿を消す。
ここでそれかよ……
俺は急いで振り返るが、既に黒騎士の踵が俺の鎖骨にめり込んでいて、そのまま引っ掛けるようにされながら地面に叩きつけられた。
俺が痛みで身体を捩じらせていると、黒騎士は俺の胸ぐらを掴んで木に強く押しつける。
くっそ!
俺は左手で持っていた短剣を逆手に持ち替えると、兜の目の隙間に滑り込ませる。
しかし、肉の感触を感じる前に身体を振り払われ、俺は黒騎士にそのまま顔面を殴りつけられた。
50mは吹っ飛ばされたか……
身体から力が抜けて、立ち上がれない……
鼻血があふれ出てくるせいで呼吸もできない……
赤く、キラキラと滲んでいく視界の中で、黒騎士が近づいてくるのが見える。
今日、また死ぬのか……
それも悪くない……
ふざけるな。
「ゔあぁぁ」
俺はうめき声を上げながら身体をうつ伏せにすると、地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。
死ぬのは良い。
だが他人に自分の命を奪われるのはどうも気に食わない。
死ぬなら寿命か病気か自殺の三択だ。
アイツをぶっ殺してから自殺してやる……
俺が立ち上がると同時に黒騎士は足をピタリと止める。
きっと、もう一分も動けない。
行儀が良いのはもうやめだ。
あと一息でひっくり返してやる。
俺は短剣を左手で持ったまま、右手の二本指を顔の前に立てる。
自分が知っている技術のはずなのに、今まで使うのを拒んでいた。
なぜか憎しみと悲しみが湧いてくる。
忘れてしまった記憶が擦り切れているようで、もどかしい。
俺の違和感を感じたのか、黒騎士は大きく前に踏み込んで距離を詰めようとしているのが霞んだ視界に映る。
死を目の前にすると、いまさら黒騎士に恐怖は生まれない。
だが、まだ集中力が浅い。
「<虚栄>」
俺が<特能>を発動すると、黒騎士は素早く50mほど距離を取って空中から直剣を発現させる。
そして、その直剣の先に新たな剣を発現させ、そして新たに発言した剣の先にも新たな剣を発現させ、黒騎士が持っている直剣がどんどん伸びていく。
これで数秒、時間が稼げる。
「ふぅーーー……」
あともう少し。
もっと刃に殺意を込める……
無量の集中力を……
……きた。
俺は腹と背中を一瞬で合わせるように、逆流する血ごと肺に酸素を送る。
そして、息を止めながら丹田に力を込め、その力を脊髄に送り、両耳までゴムのようにゆっくりと引っ張る。
黒騎士は50mはくだらない程に伸びた直剣を真っすぐに振りかぶっていた。
一瞬の時間の間に日が落ち、辺りが暗い雨の音に包まれる。
それと同時に、黒騎士は周りにある木の葉や枝を関係なしに剣を一直線に振り下ろした。
「しィッ!!」
俺は身体の中にある空気を一気に吐き出すと同時に、身体の中に溜めた力をピタリとそろえた両脚から地面に向かって一度に放出する。
そして、左腕と左足を一緒に前に出すように距離を詰める。
狙うは兜の隙間。
二歩目を踏みしめた時には黒騎士の剣の刃先が頭上に迫っていたが関係ない。
重心を低くし、さらに加速する。
この距離なら届く。
バチンッ
足元から何かが弾けた音がしたと共に、脚からふわりと力が抜け、俺は地面に滑り込む。
黒騎士の剣の刃先が髪に触れると同時に時間の流れが遅くなる。
これが走馬灯か……
思い残すことはない。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

黒豚辺境伯令息の婚約者
ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。
ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。
そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。
始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め…
ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。
誤字脱字お許しください。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した王子・アンジェロは、隣国の陰謀によって追放される。しかし、その追放が、彼の真の才能を開花させた。彼は現代知識を活かして、内政で領地を発展させ、技術で戦争を制することを決意する。
アンジェロがまず手がけたのは、領地の開発だった。新しい技術を導入し、特産品を開発することで、領地の収入を飛躍的に向上させた。次にアンジェロは、現代の科学技術と異世界の魔法を組み合わせ、飛行機を開発する。飛行機の登場により、戦争は新たな局面を迎えることになった。
戦争が勃発すると、アンジェロは仲間たちと共に飛行機に乗って出撃する。追放された王子が突如参戦したことに驚嘆の声が上がる。同盟国であった隣国が裏切りピンチになるが、アンジェロの活躍によって勝利を収める。その後、陰謀の黒幕も明らかになり、アンジェロは新たな時代の幕開けを告げる。
アンジェロの歴史に残る勇姿が、異世界の人々の心に深く刻まれた。
※書籍化、コミカライズのご相談をいただけます。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる