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第三章「レゼンタック」

第五十話「綺麗なリズム」

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 黒騎士は肘の内側から手を離すと、盾を俺に向かって構え直す。

 怪我が治るまでは6秒ってところか……
 とはいえ、俺の攻撃でもアイツの身体に傷を負わせることが可能な事はわかった。

 後は傷を負わせる箇所だけだ。


 黒騎士は盾を前に構えたまま、俺に向かって急接近してくる。

 俺は重心を後ろに下げ、距離を取ろうと、身体を空中に1センチ浮かせた。


 バギンッ

 目の前から黒騎士が消えたのが見えた瞬間、俺の背中に強い衝撃が走る。

 俺は前方向に20mほど吹っ飛ばされ、呼吸も出来ないまま着地と同時になんとか体勢を立て直したが、黒騎士の姿が見当たらない。

 慌てて後ろを振り返ったが、先程と同様に黒騎士の左拳が目の前まで迫ってきていた。

 俺は黒騎士の左腕を右手で内方向に向かって押して攻撃を逸らすと同時に、身体を捌きながら短剣の刃で黒騎士の肩から脇にかけて円状に強くなぞる。

 くっそ……
 力が入らない……

 黒騎士は一瞬、怯んだものの、すかさず俺の胸ぐらを掴み上げると、盾を横にして構えて身体の後ろまで振りかぶる。

 俺は右手で持っていた鞘を捨てて黒騎士の手首を掴むと、最大の遠心力をかけながら黒騎士の外方向に向かって前宙した。

 黒騎士の体勢が崩れたものの、俺の手は黒騎士から離れてしまったので再び距離を取る。


「グチュッ……ペッ!」

 俺は口の中に溜まった血を吐き捨て、酸素を身体の中に取り込む。


 黒騎士は体勢を戻すと同時に盾を消し、代わりに細身の黒い直剣を空中から取り出した。


 もう防御は必要ないということか……
 あの剣を受けられる鞘は黒騎士の足元に転がっている……

 なんとか動かしてきた身体も意識と分離し始めてきた……
 頭が重い……
 気持ち悪い……

 ストレスで吐き気を催すのはいつぶりだろうか……
 動いていないと恐怖で身体が固まっていく……


 俺は黒騎士から目を切らないまま、後方にある森の奥へ奥へとステップをしながら入っていく。
 森の中なら幾分か県は振るいにくいだろう。


 俺が距離を取ると同時に黒騎士は剣を身体の脇で構えながら距離を詰めてくる。

 黒騎士が俺と5mまで近づくと、俺は木に身体を預けて急停止し、黒騎士と間合いを一気に詰める。

 黒騎士は足を浮かせて横蹴りの体勢に入ったが、俺は身体を滑り込ませるようにしながら黒騎士の股を斬りつけた。

 しかし、黒騎士の身体からは血の一滴もでない。


 やっぱり、この短剣から伝わってくる感触は……
 <DEF>が異常値だ。

 だが、こんな綺麗なリズムなら好都合だ。


 俺が黒騎士の身体を通り抜けて構え直すと、黒騎士は既に剣を振りかぶろうとしていた。

 俺は黒騎士が振りかぶると同時に近間に踏み込み、右手で直剣の柄を押し上げながら身体を捌いて黒騎士の側に寄せ、左手で首を巻き取るようにしながら地面に叩きつけるように投げる。
 そして、地面に倒れる瞬間にできた鎧の隙間を狙って、首に短剣を差し込んだ。


「っし!」

 俺は左手に伝わってきた肉の感触を信じ、黒騎士に背を向けて一目散に逃げる。

 武器を盾から剣に変えたのが馬鹿だったな。
 そこで寝てろ、ブルジョア野郎。


 俺は今更、湧き上がってくる鬱憤を感じながら森の中に姿を消した。
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