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第二章「セントエクリーガ城下町」

第七十七話「鬱積」

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「おかえり!」

 俺がヒナコの宿の扉を開けるやいなや、ケイがダイニングから笑顔で飛び出してきた。
 その奥には、少し怒っている顔をしているヒナコが顔を覗かしている。

「ご飯食べちゃったよ!」

 ケイはそう言いながら俺の腰付近に抱き着いた。

 しかし俺の持っている赤い花の詰まった紙袋を見ると、俺から離れる。

「アレン嫌い!」
「嘘つき!!」

 ケイは俺の持っている紙袋を叩き落とし、階段を上っていってしまった。

 おそらくウォロ村に行ったことがバレたのだが、行かないなんて約束はした覚えは無い。
 しかし、こういう反応はなんとなく予想していた。


 俺は落ちた花を慎重に紙袋に戻すと、それを玄関に置き、ダイニングに行った。

 ダイニングではヒナコが仁王立ちして待っている。

「なんで謝りに追いかけないの?」
「ケイちゃん、アレンの帰りが遅いからここでずっと心配してたんだよ?」

 ヒナコは怒った目で俺を見つめる。

「……ケイが怒ったのは俺が遅くなったからじゃないと思うよ」
「そもそも、俺は嘘ついてない」

 咄嗟に言い訳が口からこぼれ出す。

 しかし俺のその言葉を聞いたヒナコは、肩をすくめ、涙目になった。

「だとしても、悪いのが自分って分かってるんだから謝らないとダメだよ!」
「今すぐ行かないとここから追い出すから!!」

 ヒナコはそう言うと俺を後ろに付き飛ばそうと、手を出してきた。

 俺は咄嗟にその手を横から手首を掴んで止め、優しくヒナコの身体の傍に戻す。


 俺はダイニングを後にし、紙袋を持って部屋に戻る。

 ケイは薄暗い寝室で布団の中にくるまっていた。


「……勝手に帰ったのは悪かったと思ってる」
「でも……」
「いや、うん……、ごめん」

 俺はしばらくケイの閉じこもった布団を眺め、色々と言いたいことを飲み込んでとりあえず謝った。

 しかし、そこから言葉が続かない。

「……もういいよ」

 しばらく静寂の時間が続き、諦めて部屋を出ようとした時、布団の中から声が返ってきた。

 俺はなにも答えずに部屋を後にする。


 ダイニングに戻ると、ヒナコがキッチンから出てきた。

 どうやら俺の夕食の準備をしていてくれたようだ。

「ケイちゃんにちゃんと謝ったの?」

 ヒナコは俺の前で再び仁王立ちになる。

「謝ったよ」
「『もういいよ』だって」

 俺はそう言うと椅子に座った。

「ケイちゃんに今日は私の部屋で寝ていいよって言ってきて」

「え……、わかった」

 俺はヒナコに少し面倒くさそうな顔を向けると、ヒナコが俺に向かってにらみを利かせた。


 仕方なく俺はダイニングを出て、重い脚を持ち上げ階段を上り、部屋に戻る。


 ケイはさっきの位置から動いていなかった。

「ヒナコが、私の部屋で寝ていいよだって」

 俺はケイが入っている布団を上から眺めながら声を掛ける。

「もういいって言ったじゃん!」

 ケイの声が返ってきたと同時に、布団が大きく盛り上がる。

 俺はなにも答えず、ケイの返事を伝えに再びダイニングに戻った。
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