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第二章「セントエクリーガ城下町」
第二十五話「揺らぎ」
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「……水飲む?」
ヒナコは俺の手から自分の手を放し、食器棚からコップを2つ持ってきた。
「……大丈夫」
俺が返事をする前にヒナコは2つのコップに水を注いだ。
「それで……どこかってどこ?」
ヒナコは水を一口飲むと椅子に座り直した。
「……分からない」
「海かな」
俺はヒナコにつられるように水を一口飲んだ。
めまいが少し治まったので、コップを両手で持ったままゆっくりと顔を上げる。
「そっか……」
「でもそんな事しないでしょ?」
ヒナコの姿はぼやけてよく分からないが、机の上にある手が少し震えているように見えた。
「うん……多分……」
俺は再び水を飲もうと口に含んだが、喉を通らなかったので少しコップに戻してしまった。
手持無沙汰になったので机の下で手を組む。
「……私の両親はさ、私が13歳の時からこの宿を残してギルセリアに働きに行ってるの」
「ちょうどケイちゃんと同じぐらいの歳の時だよ」
ヒナコは話し始めると、再び俺の手に自分の両手を被せる。
やはりヒナコの手は少し震えていたが、俺の手も同じく震えていたようだ。
ヒナコの手の冷たさのせいか、段々と身体が楽になってくる。
「でもね、捨てられた訳じゃなくってね」
「さっきも言ったけどこの宿、全然儲からなくてさ、何度も話し合って決めた事だよ」
「本当は私も一緒に行けばよかったんだけど、おばあちゃんが建てたこの場所が好きで壊したくなかったから残ったの」
「だから会うことが出来なくても毎月、何枚もの手紙が送られてくるし電話もたまにしてる」
「……それでも私は寂しいよ」
ヒナコが片方の手を離したので無理やり顔を上げて確認すると、涙を隠すように目を拭っていた。
「だからさ……」「ごめん」
ヒナコが続けようとしたのを、俺は遮る。
「今の話忘れて」
「……ヒナコは俺とケイの事聞かないの?」
俺はヒナコの涙を見て、話を無理やり変えた。
「訳アリなのは薄々感じてるよ?」
「でもまだ初日だし、そのうち聞こうと思ってた」
ヒナコは目尻を少し赤くしながら笑顔を見せた。
どたどたどたどた
廊下を走る音が近づいてくる。
「出たよーー!」
引き戸を勢いよく開け、ケイがダイニングに飛び込んできた。
髪が湿っていて、服も変わっている。
「テレビ見ていい?」
ケイは返事を待たずにテレビから一番近い椅子に腰かける。
「うん、いいよ」
ヒナコが返事をすると同時に、ケイは手慣れた手つきでテレビに電源を入れた。
「俺も風呂入ってくるよ」
「ケイ、このドーナツ食べていいよ」
俺はわざとらしくそう言って席を立ちあがり、ケイに背を向けて部屋を出ようとする。
「ありがと!」
ケイの元気な返事が背後から聞こえた。
「あ、タオルの場所教えるね」
ヒナコもそう言って立ち上がり、早歩きで俺の横に並んだ。
薄暗い廊下をケイの残した水滴に沿って進む。
「俺とケイの事はまた今度話すよ」
俺は風呂場らしき場所の引き戸を開ける。
「うん、ありがと」
「タオルそこにあるから」
そう言い残しヒナコは廊下を戻っていった。
脱衣場は洗面台が一つと棚があるだけで、宿として見れば小さいのかもしれないが、一人で着替えるのには十分広い。
俺はタオルの入っている棚の近くにスーツを脱ぎ捨て、急いで浴室に入った。
ウォロ村ほど大きくないが、日本人が作っただけあって木製の浴槽だ。
手入れがしっかりされているのか、木目がしっかりと出ていてカビ1つ無い。
テキトーに身体を洗うと浴槽に素早く入り肩まで浸かる。
「はぁ……ダメだろ」
10秒ほど額までお湯に浸かると、顔を出し、浴槽の淵に頭を乗せて天井を見上げた。
ヒナコは俺の手から自分の手を放し、食器棚からコップを2つ持ってきた。
「……大丈夫」
俺が返事をする前にヒナコは2つのコップに水を注いだ。
「それで……どこかってどこ?」
ヒナコは水を一口飲むと椅子に座り直した。
「……分からない」
「海かな」
俺はヒナコにつられるように水を一口飲んだ。
めまいが少し治まったので、コップを両手で持ったままゆっくりと顔を上げる。
「そっか……」
「でもそんな事しないでしょ?」
ヒナコの姿はぼやけてよく分からないが、机の上にある手が少し震えているように見えた。
「うん……多分……」
俺は再び水を飲もうと口に含んだが、喉を通らなかったので少しコップに戻してしまった。
手持無沙汰になったので机の下で手を組む。
「……私の両親はさ、私が13歳の時からこの宿を残してギルセリアに働きに行ってるの」
「ちょうどケイちゃんと同じぐらいの歳の時だよ」
ヒナコは話し始めると、再び俺の手に自分の両手を被せる。
やはりヒナコの手は少し震えていたが、俺の手も同じく震えていたようだ。
ヒナコの手の冷たさのせいか、段々と身体が楽になってくる。
「でもね、捨てられた訳じゃなくってね」
「さっきも言ったけどこの宿、全然儲からなくてさ、何度も話し合って決めた事だよ」
「本当は私も一緒に行けばよかったんだけど、おばあちゃんが建てたこの場所が好きで壊したくなかったから残ったの」
「だから会うことが出来なくても毎月、何枚もの手紙が送られてくるし電話もたまにしてる」
「……それでも私は寂しいよ」
ヒナコが片方の手を離したので無理やり顔を上げて確認すると、涙を隠すように目を拭っていた。
「だからさ……」「ごめん」
ヒナコが続けようとしたのを、俺は遮る。
「今の話忘れて」
「……ヒナコは俺とケイの事聞かないの?」
俺はヒナコの涙を見て、話を無理やり変えた。
「訳アリなのは薄々感じてるよ?」
「でもまだ初日だし、そのうち聞こうと思ってた」
ヒナコは目尻を少し赤くしながら笑顔を見せた。
どたどたどたどた
廊下を走る音が近づいてくる。
「出たよーー!」
引き戸を勢いよく開け、ケイがダイニングに飛び込んできた。
髪が湿っていて、服も変わっている。
「テレビ見ていい?」
ケイは返事を待たずにテレビから一番近い椅子に腰かける。
「うん、いいよ」
ヒナコが返事をすると同時に、ケイは手慣れた手つきでテレビに電源を入れた。
「俺も風呂入ってくるよ」
「ケイ、このドーナツ食べていいよ」
俺はわざとらしくそう言って席を立ちあがり、ケイに背を向けて部屋を出ようとする。
「ありがと!」
ケイの元気な返事が背後から聞こえた。
「あ、タオルの場所教えるね」
ヒナコもそう言って立ち上がり、早歩きで俺の横に並んだ。
薄暗い廊下をケイの残した水滴に沿って進む。
「俺とケイの事はまた今度話すよ」
俺は風呂場らしき場所の引き戸を開ける。
「うん、ありがと」
「タオルそこにあるから」
そう言い残しヒナコは廊下を戻っていった。
脱衣場は洗面台が一つと棚があるだけで、宿として見れば小さいのかもしれないが、一人で着替えるのには十分広い。
俺はタオルの入っている棚の近くにスーツを脱ぎ捨て、急いで浴室に入った。
ウォロ村ほど大きくないが、日本人が作っただけあって木製の浴槽だ。
手入れがしっかりされているのか、木目がしっかりと出ていてカビ1つ無い。
テキトーに身体を洗うと浴槽に素早く入り肩まで浸かる。
「はぁ……ダメだろ」
10秒ほど額までお湯に浸かると、顔を出し、浴槽の淵に頭を乗せて天井を見上げた。
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