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第二章「セントエクリーガ城下町」
第六話「親切」
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「ごちそうさまでした」
ケイは泣いたことで少しスッキリしたのか、パストラミサンドをあっという間に完食した。
もちろん俺も既に完食している。
正直、残した分を持ち帰り夕食の足しでもしようかと思っていたのだが、意外とあの大きさでも食べきれるらしい。
……そういえば、英語に「いただきます」と「ごちそうさま」ってあったっけ?
というかケイは日本語で発音していた気がする。
あまりにも自然すぎてスルーしてしまうところだった。
きっと、過去に日本人が『いただきます』の文化をケイに教えたのだろう。
もしかしたら、この世界では当たり前の事なのかもしれない。
久しぶりに聞いた日本語はちょっと嬉しかった。
「これ」
ケイはお金の入っている袋を差し出す。
「ん」
俺はお金の入っている袋を受け取ると、袋の口を開け中を覗き込んだ。
俺がオムさんから貰ったのは400ギニーだ。
そして、今使ったのが30ギニーなので残りは370ギニーになる。
オムさんから貰った金額が少ないのか、この町の物価が高いのかは分からないが、とにかく金が足りない。
住む場所などを考えれば、明日にでも働き始めなければいけないだろう。
「これケイが持ってていいよ」
「俺が持ってても使い方分からないからね」
俺は袋の口を強く締めて、ケイに返した。
「うん」
ケイは袋を受け取り、大切そうにリュックサックにしまう。
「そろそろ行こうか」
「うん」
俺が席を立ちあがると、ケイも急いでリュックを背負って立ち上がる。
返事に元気はなかったが、朝のような無気力な感じは無くなったような気がする。
やはり多少、気持ちの整理がついたのだろう。
それに、この激ウマのサンドイッチの力も大きい気がする。
「ごちそうさま!」
俺は厨房にいるおじさんに一声かけて店を出ようとする。
「おう!」
「兄ちゃんちょっと待ちな!」
おじさんはそう言うと、厨房から紙袋を持って出てきた。
「これ持っていきな」
俺は紙袋を受け取ると中を覗く。
中には穴の開いていないドーナッツのような物が10個ほど詰められていた。
「いいんですか?」
俺はケイに紙袋の中身を見せながらおじさんに言う。
「おうよ!」
「どうせ兄ちゃん金ないんだろ?」
「朝の余りものだから遠慮すんな!」
「その代わり、金が貯まったらまた来いよ!」
おじさんが俺の肩を強めに叩く。
「これなぁに?」
下に目を落とすとケイが不思議そうな顔をしながら紙袋の中を覗いていた。
どうやらケイはドーナッツを知らないらしい。
「おお!嬢ちゃん食ったことねえのか!」
「馬鹿みたいに美味いから気に入ると思うぜ!」
「それと、あまり泣いて兄ちゃんを困らせてあげるなよ!」
おじさんはしゃがんでケイと目を合わせる。
「うん、ありがとう」
ケイの顔に少し笑顔が戻ったような気がした。
俺はもう一度おじさんにお礼を言い、店を後にして再び歩き始める。
それにしても親切なおじさんだった。
絶対にまた来よう。
「……あ」
おじさんにレゼンタックの場所を聞くのを忘れてしまった。
かと言って、戻って場所を聞くのも少し恥ずかしい。
どうするかな……
とりあえずドーナツの袋が邪魔だったのでつぶれるのを覚悟でケイのリュックに詰め込んだ。
「ケイちゃん?」
あてもなくフラフラと歩いていると、突然、後ろから誰かに話しかけられる。
男性の声だ。
振り向くとケイが30歳ぐらいの男の足に抱き着いていた。
「あのー、すみません、どちら様ですか?」
その男はケイの頭を笑顔でなでながら俺に聞いた。
ケイは泣いたことで少しスッキリしたのか、パストラミサンドをあっという間に完食した。
もちろん俺も既に完食している。
正直、残した分を持ち帰り夕食の足しでもしようかと思っていたのだが、意外とあの大きさでも食べきれるらしい。
……そういえば、英語に「いただきます」と「ごちそうさま」ってあったっけ?
というかケイは日本語で発音していた気がする。
あまりにも自然すぎてスルーしてしまうところだった。
きっと、過去に日本人が『いただきます』の文化をケイに教えたのだろう。
もしかしたら、この世界では当たり前の事なのかもしれない。
久しぶりに聞いた日本語はちょっと嬉しかった。
「これ」
ケイはお金の入っている袋を差し出す。
「ん」
俺はお金の入っている袋を受け取ると、袋の口を開け中を覗き込んだ。
俺がオムさんから貰ったのは400ギニーだ。
そして、今使ったのが30ギニーなので残りは370ギニーになる。
オムさんから貰った金額が少ないのか、この町の物価が高いのかは分からないが、とにかく金が足りない。
住む場所などを考えれば、明日にでも働き始めなければいけないだろう。
「これケイが持ってていいよ」
「俺が持ってても使い方分からないからね」
俺は袋の口を強く締めて、ケイに返した。
「うん」
ケイは袋を受け取り、大切そうにリュックサックにしまう。
「そろそろ行こうか」
「うん」
俺が席を立ちあがると、ケイも急いでリュックを背負って立ち上がる。
返事に元気はなかったが、朝のような無気力な感じは無くなったような気がする。
やはり多少、気持ちの整理がついたのだろう。
それに、この激ウマのサンドイッチの力も大きい気がする。
「ごちそうさま!」
俺は厨房にいるおじさんに一声かけて店を出ようとする。
「おう!」
「兄ちゃんちょっと待ちな!」
おじさんはそう言うと、厨房から紙袋を持って出てきた。
「これ持っていきな」
俺は紙袋を受け取ると中を覗く。
中には穴の開いていないドーナッツのような物が10個ほど詰められていた。
「いいんですか?」
俺はケイに紙袋の中身を見せながらおじさんに言う。
「おうよ!」
「どうせ兄ちゃん金ないんだろ?」
「朝の余りものだから遠慮すんな!」
「その代わり、金が貯まったらまた来いよ!」
おじさんが俺の肩を強めに叩く。
「これなぁに?」
下に目を落とすとケイが不思議そうな顔をしながら紙袋の中を覗いていた。
どうやらケイはドーナッツを知らないらしい。
「おお!嬢ちゃん食ったことねえのか!」
「馬鹿みたいに美味いから気に入ると思うぜ!」
「それと、あまり泣いて兄ちゃんを困らせてあげるなよ!」
おじさんはしゃがんでケイと目を合わせる。
「うん、ありがとう」
ケイの顔に少し笑顔が戻ったような気がした。
俺はもう一度おじさんにお礼を言い、店を後にして再び歩き始める。
それにしても親切なおじさんだった。
絶対にまた来よう。
「……あ」
おじさんにレゼンタックの場所を聞くのを忘れてしまった。
かと言って、戻って場所を聞くのも少し恥ずかしい。
どうするかな……
とりあえずドーナツの袋が邪魔だったのでつぶれるのを覚悟でケイのリュックに詰め込んだ。
「ケイちゃん?」
あてもなくフラフラと歩いていると、突然、後ろから誰かに話しかけられる。
男性の声だ。
振り向くとケイが30歳ぐらいの男の足に抱き着いていた。
「あのー、すみません、どちら様ですか?」
その男はケイの頭を笑顔でなでながら俺に聞いた。
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