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第一章「ウォロ村」

第三十四話「後悔」

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 俺は雨が降りしきる中、ケイを背中に乗せてひたすらに走っていた。
 ケイの泣き声もいつの間にか収まり、今では寝息が聞こえる。

 いくら走っても景色は変わらない。

 雨が痛い……

 息が苦しい……


「……くそっ」

 息苦しくなった胸は、後悔という感情にも締め付けられていた。


 俺がスキルポイントを100ポイント使った<職業スキル>とは<貧者>だ。

 <貧者>は10ポイントで<貧者の袋>、40ポイントで<猫足>、70ポイントで<我慢>、100ポイントで<遁走>という<特能>を得ることができる。

 その中でも<遁走>の魅力に惹かれ、<貧者>にスキルポイントを使っていた。

 これは『敵意を持った相手から逃げる際に<AGI>と<EVA>が900%up』つまり逃げ足が10倍になるという弱者の弱者による弱者のための<特能>だ。
 『逃げる際』という定義は曖昧だが、スライムを使って色々試してみて走り始めてから止まるまでは持続することは分かっている。
 しかし、ウォロ村からここに至るまでは一度止まってから走り始めても効果は持続していた。
 これは恐怖による影響が大きいと考えられる。

 もちろん余裕があれば<刀>や<英雄>などにスキルポイントを使いたかったが、俺は身の安全を第一に考えた。
 それに<貧者>は神に至る力を秘めている。


 そして<勇者>と<魔王>についてだ。

 この世界の仕組みとして、普通の<職業スキル>ならば3つのステータスに補正がかかるが<勇者>と<魔王>に関してはすべてのステータスに補正がかかるぶっ壊れた<職業スキル>だ。

 それならば、なぜ俺は<勇者>や<魔王>にスキルポイントを使わなかったのか。
 それには2つの理由がある。

 1つ目は<職業スキル>で得られる補正は元のステータスに%で加算されるが故に、元のステータスが低ければ使い物にならないからだ。
 それならば<貧者>に振ったところで変わらない……と思っていた。
 まんべんなくステータスを上げないとダメだと分かった時にはもう手遅れだった。

 2つ目は<特能>だ。
 この2つの<職業スキル>は10ポイント振ることで<勇者>ならば<聖剣召喚>、<魔王>ならば<魔剣召喚>という<特能>が得られる。
 この二つの<特能>は『召喚した聖剣or魔剣ではない物を持って戦うことは出来ない』と記載してある。
 これは、他の武器を使おうと思えば使えるのかもしれないし、何かしらの力が働いて本当に使えなくなるのかは不明だ。

 この二点から俺は<勇者>と<魔王>にスキルポイントを振らなかった。


 ……しかし、俺の後悔はそこにある。

 カイが鬼に重傷を負わされた時、カイの大剣は粉々に砕けていた。
 それは少なくともカイは鬼の一振りをあの大剣で受けたことを物語っている。

 もしあの時、俺がどちらかの<職業スキル>に10ポイントでも振っていて、カイに剣を渡すことができたなら状況は変わっていたのかもしれない。
 
 それに<勇者>に100ポイント振ることで得られる<破晄剣>という<特能>は『実体のない光の剣を放出する』と記載してある。
 それを使えば遠距離からあの鬼を倒すことができたのかもしれない。


 ……そして一番の後悔はあの時40ポイントを<運び屋>ではなく<貧者>に振らなかったことだ。

 <貧者>に130ポイント振ることで得られる<懦弱>という<特能>は『集団でいる際に敵意を向けられる』という物だ。

 この<特能>と<遁走>を使った俺の足を使えば、村の皆を逃がすことができたかもしれない。

 しかし、俺はあの場面でその<特能>を見て見ぬふりをした。
 恐怖に勝てなかった。

 俺はオムさんのように自分の命を犠牲にできるほど大きな器は持っていない。

 しかし、その選択が今になって胸を強く締め付ける。


「くそっ……くそっ……くそっ……」

 俺は痛みを誤魔化すように、ひたすら走り続けた。



 しばらくの間、走っては休み、走っては休みを繰り返していると、日が昇り始める頃には森を抜け、草原に出た。

 そこで俺が目にしたものは遥か先まで続く黒い道と、その先にあるここからでも分かるほど大きな灰色の建造物だった。
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