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第一章「ウォロ村」
第三十三話「遁走」
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家の陰に隠れながらじっと鬼を観察していると、鬼が身体の向きを変えた。
「こっちだー!」「こっちにこい!」
微かに聞こえていた村人たちの声が叫び声に変わっていく。
「ケイ、行くよ?」
ケイは俺の背中で小さく頷く。
俺は息を殺しながらゆっくりと足を進め、村の入り口から30mほどの距離まで近づくことができた。
「アレン?」
ケイが俺の肩を二回、叩いた。
……おかしい。
一度は村人たちの方に身体を向けたものの、すぐに見向きもしなくなり、あれだけ叫んでいるのに、鬼は動かず辺りを見渡している。
まるで、何かを探しているようだ。
ズチュン!
いきなり鬼が斧を振り下ろしたかと思えば、何かがはじけるような音が闇夜に響いた。
物陰から半身を出して鬼の足元を見ると、袈裟懸けに分断された人影が転がっている。
この様子だと近づいた人から襲われるらしい。
ケイの心臓の音が急激に激しくなったのを背中で感じた。
ズスッ
鬼の方から先程と違うかすれた音が聞こえた。
恐る恐る鬼の足元を確認したが死体の数は増えていなかった。
だが、鬼の横っ腹には細長い木の棒が刺さっている。
ズスッ
音と共に今度は胸の中心あたりに棒が刺さった。
あれは槍だ。
ズチャ ズチャ ズチャ
鬼はゆっくりと身体の向きを変え村人の声の方向へ動き出した。
ぬかるみを踏みしめる音で、その重さが分かる。
「ふぅ……ケイ?」
俺がケイの名前を呼ぶと、俺の身体を締め付ける力が強くなった。
俺は覚悟を決めて心の中でカウントを始める。
5……4……3……2……1……
「ケイちゃん?」
突然、背後からケイとは違う女の子の声が聞こえた。
「ねぇ!」
「ケイちゃん、待って!」
俺は女の子の声を無視し、ケイの力が一瞬ゆるんだが、それも無視して走り出した。
ケイは俺が走り出したと同時に再び力をこめる。
俺は2秒もかからずに鬼の足元を走り抜ける。
その僅かな時の中で、雨で濡れたオムさんの顔が胴体から切り離されるのを俺は目にした。
入り口を飛び出すと足を滑らせながらも急ブレーキをかけ、Uターンをして川沿いを全力で下る。
数十秒ほど走った時、急に足に力が入らなくなり、ケイを背負ったまま前のめりに転んだ。
俺はカイから手を離すことはなかったが、ケイは前方向に飛ばされてしまった。
慌てて足元を確認すると、どうやら右の革靴の底が抜けてしまったようだ。
村と鬼が見えなくなっていることを確認するとカイを一度川辺に置き、急いでケイの方へ駆け寄った。
「ごめん」
「大丈夫?」
うずくまるケイの身体を起こすと、ケイの目から溢れるように涙が流れ始める。
それに伴って泣き声も大きくなっていった。
俺は身体を起こしたケイをその場に座らせ、カイの元に歩み寄る。
うつ伏せになっているカイをゆっくりと仰向けに転がし、オムさんのように口元に手を当てた。
「……くそっ」
温かさどころか、何も感じない。
胸に手を当てても結果は変わらなかった。
顔面を砂利にぶつけたが、大きなけがは無く鼻血も出ていない。
これならまだ走れる。
俺はカイの靴を脱がせて、壊れた自分の靴と履き替える。
そしてカイを川辺から草陰に運んだ後、再びケイの元に歩み寄り背中を向けてしゃがんだ。
少しぶかぶかだが、靴紐を強く締めれば大丈夫だ。
「……早く行こう」
ケイは何も言わずに俺の背中に覆いかぶさる。
俺はカイを置いて再び川沿いを走り始めた。
背中でケイの泣き声が聞こえる中、不思議と俺の目に涙は浮かばなかった。
それは強がりなのか責任感なのか自分でも分からない。
ただ確かな後悔がそこにはあった。
「こっちだー!」「こっちにこい!」
微かに聞こえていた村人たちの声が叫び声に変わっていく。
「ケイ、行くよ?」
ケイは俺の背中で小さく頷く。
俺は息を殺しながらゆっくりと足を進め、村の入り口から30mほどの距離まで近づくことができた。
「アレン?」
ケイが俺の肩を二回、叩いた。
……おかしい。
一度は村人たちの方に身体を向けたものの、すぐに見向きもしなくなり、あれだけ叫んでいるのに、鬼は動かず辺りを見渡している。
まるで、何かを探しているようだ。
ズチュン!
いきなり鬼が斧を振り下ろしたかと思えば、何かがはじけるような音が闇夜に響いた。
物陰から半身を出して鬼の足元を見ると、袈裟懸けに分断された人影が転がっている。
この様子だと近づいた人から襲われるらしい。
ケイの心臓の音が急激に激しくなったのを背中で感じた。
ズスッ
鬼の方から先程と違うかすれた音が聞こえた。
恐る恐る鬼の足元を確認したが死体の数は増えていなかった。
だが、鬼の横っ腹には細長い木の棒が刺さっている。
ズスッ
音と共に今度は胸の中心あたりに棒が刺さった。
あれは槍だ。
ズチャ ズチャ ズチャ
鬼はゆっくりと身体の向きを変え村人の声の方向へ動き出した。
ぬかるみを踏みしめる音で、その重さが分かる。
「ふぅ……ケイ?」
俺がケイの名前を呼ぶと、俺の身体を締め付ける力が強くなった。
俺は覚悟を決めて心の中でカウントを始める。
5……4……3……2……1……
「ケイちゃん?」
突然、背後からケイとは違う女の子の声が聞こえた。
「ねぇ!」
「ケイちゃん、待って!」
俺は女の子の声を無視し、ケイの力が一瞬ゆるんだが、それも無視して走り出した。
ケイは俺が走り出したと同時に再び力をこめる。
俺は2秒もかからずに鬼の足元を走り抜ける。
その僅かな時の中で、雨で濡れたオムさんの顔が胴体から切り離されるのを俺は目にした。
入り口を飛び出すと足を滑らせながらも急ブレーキをかけ、Uターンをして川沿いを全力で下る。
数十秒ほど走った時、急に足に力が入らなくなり、ケイを背負ったまま前のめりに転んだ。
俺はカイから手を離すことはなかったが、ケイは前方向に飛ばされてしまった。
慌てて足元を確認すると、どうやら右の革靴の底が抜けてしまったようだ。
村と鬼が見えなくなっていることを確認するとカイを一度川辺に置き、急いでケイの方へ駆け寄った。
「ごめん」
「大丈夫?」
うずくまるケイの身体を起こすと、ケイの目から溢れるように涙が流れ始める。
それに伴って泣き声も大きくなっていった。
俺は身体を起こしたケイをその場に座らせ、カイの元に歩み寄る。
うつ伏せになっているカイをゆっくりと仰向けに転がし、オムさんのように口元に手を当てた。
「……くそっ」
温かさどころか、何も感じない。
胸に手を当てても結果は変わらなかった。
顔面を砂利にぶつけたが、大きなけがは無く鼻血も出ていない。
これならまだ走れる。
俺はカイの靴を脱がせて、壊れた自分の靴と履き替える。
そしてカイを川辺から草陰に運んだ後、再びケイの元に歩み寄り背中を向けてしゃがんだ。
少しぶかぶかだが、靴紐を強く締めれば大丈夫だ。
「……早く行こう」
ケイは何も言わずに俺の背中に覆いかぶさる。
俺はカイを置いて再び川沿いを走り始めた。
背中でケイの泣き声が聞こえる中、不思議と俺の目に涙は浮かばなかった。
それは強がりなのか責任感なのか自分でも分からない。
ただ確かな後悔がそこにはあった。
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