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第一章「ウォロ村」
第三十一話「黒鬼」
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ザーーーーー-
「……アレン!起きろ!!」
いつもの可愛らしい声と違い、野太い声と共に身体をゆすられる。
外はまだ雨が降っているようだ。
まだ視界がぼやけているまま身体を起こすと、オムさんの顎に俺の頭がぶつかった。
「なんだよ、オムさん」
俺は目をこすり意識をハッキリとさせる。
オムさんはなにか焦っているようだ。
「逃げるぞ!」
オムさんは俺のスーツの襟を片手で掴み、無理やり身体を起こす。
暗闇の中にうっすら見えるオムさんの顔から異常事態だということを悟った。
「私の家にケイとカイがいるから二人を連れて川を下れ!」
「二人には話してある!」
オムさんはそう言いながら俺を家の外に引きずり出した。
外に出ると俺の身体に頭の先からつま先まで寒気が襲った。
村の入り口の方を見ると5mほどある柵より遥かに大きい黒い塊が見える。
その物体からは目には見えない何か恐ろしい物が漂っている気がした。
俺はオムさんに何も聞かず、震える足を必死に鼓舞しオムさんの家に向かって走った。
焦っているからか、地面が上手く蹴れずに何度も転びそうになる。
数十秒ほどで村長の家に到着し、その勢いのままドアを開けた。
「ケーイ!」
「カーイ!」
大声で二人の名前を呼ぶと奥の部屋からリュクサックを背負ったケイが出てきた。
「アレン!!」
そう言うとケイは俺の腰に抱きついた。
「カイは?」
俺はケイの肩をつかんで身体から離し、なるべく冷静を装いながらカイの居場所を尋ねる。
「倒しに行くって倉庫の方に走って行っちゃった」
ケイの目には涙が滲んでいる。
最悪だ……
「とりあえずここにいたら危ないから行こう」
「カイはどうするの?」
俺がケイの手を引っ張って外に出ようとすると、ケイが俺の手を引っ張り返した。
「カイなら大丈夫だ」
俺は少しの間も置かずに必死に作った笑顔を返し、震えるケイの手を取ってドアを開けた。
バゴーーーンッ!
村長の家を出ると村の入り口の方から雨音よりも遥かに大きい鐘のような鈍い音が聞こえた。
それと同時に何か黒い物体が真っすぐこちらに飛んでくる。
バチーンッ!
俺とケイの目の前で、砕けた大剣と血まみれのカイがゴムボールのように跳ねた後、足元に転がった。
ケイは腰を抜かしてしまったのか膝から崩れ落ちる。
「嘘だろ……」
ここから村の入り口までは距離にして200m以上ある。
俺が呆然と立ち尽くしていると、オムさんがこっちに走ってきた。
オムさんはカイに近づくや否や、座り込んで口元に手を近づけ目を瞑った。
「……アレン!」
「ケイを連れて逃げろ!」
オムさんの言葉が頭の中に入ってこない。
「カイも一緒じゃなきゃ嫌だ!」
ケイの叫び声と共に、ようやく状況を理解する。
とにかく冷静にならなくてはダメだ。
「アレンよく聞け」
「あの鬼は良くも悪くも村の入り口から動こうとしない」
「私たちで引き付けるからその隙に村から出ろ」
「5分後には始めるからな」
オムさんはケイの言葉にいっさい耳を傾けず、俺の目を真っすぐと見る。
「他に出られるところは?」
「私の家の裏にもう一つ入り口があるのだが、何故か開かないのだ」
「短時間で柵を壊せる道具もこの村には無い」
「とにかく今は逃げることだけを考えろ」
オムさんはそれだけ言い残し再び何処かに走っていった。
「……アレン」
ケイがこちらをじっと見ている。
「ごめん……行かなきゃ」
俺はケイに背中を向けてその場でしゃがむ。
ケイは何も言わずに俺の背中に覆いかぶさった。
「カハッ」
ケイを背負って立ち上がろうとした瞬間、カイが大量の血を口から吐き出した。
「……アレン!起きろ!!」
いつもの可愛らしい声と違い、野太い声と共に身体をゆすられる。
外はまだ雨が降っているようだ。
まだ視界がぼやけているまま身体を起こすと、オムさんの顎に俺の頭がぶつかった。
「なんだよ、オムさん」
俺は目をこすり意識をハッキリとさせる。
オムさんはなにか焦っているようだ。
「逃げるぞ!」
オムさんは俺のスーツの襟を片手で掴み、無理やり身体を起こす。
暗闇の中にうっすら見えるオムさんの顔から異常事態だということを悟った。
「私の家にケイとカイがいるから二人を連れて川を下れ!」
「二人には話してある!」
オムさんはそう言いながら俺を家の外に引きずり出した。
外に出ると俺の身体に頭の先からつま先まで寒気が襲った。
村の入り口の方を見ると5mほどある柵より遥かに大きい黒い塊が見える。
その物体からは目には見えない何か恐ろしい物が漂っている気がした。
俺はオムさんに何も聞かず、震える足を必死に鼓舞しオムさんの家に向かって走った。
焦っているからか、地面が上手く蹴れずに何度も転びそうになる。
数十秒ほどで村長の家に到着し、その勢いのままドアを開けた。
「ケーイ!」
「カーイ!」
大声で二人の名前を呼ぶと奥の部屋からリュクサックを背負ったケイが出てきた。
「アレン!!」
そう言うとケイは俺の腰に抱きついた。
「カイは?」
俺はケイの肩をつかんで身体から離し、なるべく冷静を装いながらカイの居場所を尋ねる。
「倒しに行くって倉庫の方に走って行っちゃった」
ケイの目には涙が滲んでいる。
最悪だ……
「とりあえずここにいたら危ないから行こう」
「カイはどうするの?」
俺がケイの手を引っ張って外に出ようとすると、ケイが俺の手を引っ張り返した。
「カイなら大丈夫だ」
俺は少しの間も置かずに必死に作った笑顔を返し、震えるケイの手を取ってドアを開けた。
バゴーーーンッ!
村長の家を出ると村の入り口の方から雨音よりも遥かに大きい鐘のような鈍い音が聞こえた。
それと同時に何か黒い物体が真っすぐこちらに飛んでくる。
バチーンッ!
俺とケイの目の前で、砕けた大剣と血まみれのカイがゴムボールのように跳ねた後、足元に転がった。
ケイは腰を抜かしてしまったのか膝から崩れ落ちる。
「嘘だろ……」
ここから村の入り口までは距離にして200m以上ある。
俺が呆然と立ち尽くしていると、オムさんがこっちに走ってきた。
オムさんはカイに近づくや否や、座り込んで口元に手を近づけ目を瞑った。
「……アレン!」
「ケイを連れて逃げろ!」
オムさんの言葉が頭の中に入ってこない。
「カイも一緒じゃなきゃ嫌だ!」
ケイの叫び声と共に、ようやく状況を理解する。
とにかく冷静にならなくてはダメだ。
「アレンよく聞け」
「あの鬼は良くも悪くも村の入り口から動こうとしない」
「私たちで引き付けるからその隙に村から出ろ」
「5分後には始めるからな」
オムさんはケイの言葉にいっさい耳を傾けず、俺の目を真っすぐと見る。
「他に出られるところは?」
「私の家の裏にもう一つ入り口があるのだが、何故か開かないのだ」
「短時間で柵を壊せる道具もこの村には無い」
「とにかく今は逃げることだけを考えろ」
オムさんはそれだけ言い残し再び何処かに走っていった。
「……アレン」
ケイがこちらをじっと見ている。
「ごめん……行かなきゃ」
俺はケイに背中を向けてその場でしゃがむ。
ケイは何も言わずに俺の背中に覆いかぶさった。
「カハッ」
ケイを背負って立ち上がろうとした瞬間、カイが大量の血を口から吐き出した。
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