30 / 244
第一章「ウォロ村」
第二十八話「分かれ道」
しおりを挟む
「オムじい、どういうことだよ」
「まあまあ、落ち着け」
カイはオムさんに詰め寄ったが、オムさんは片手でカイを押し返した。
カイは渋々引き下がる。
「ケイ、カイ」
「二人は自分の<職業>を自覚しているな?」
「ああ」「うん!」
カイとケイが口を揃えて返事をする。
「<メイド>と<守護者>は本来このような辺境の村にいてはおかしいのだ」
「<メイド>は貴族や<王>の元で働き、<守護者>も<王>の元で働くか騎士団に入るのが一般的だろう」
「そのための学校もある」
「……そこでだ、二人とも学校に行く気はないか?」
「行きたい!」「……」
ケイが元気に返事をする横でカイはなにも答えず何かを考えているようだった。
「行ったらいいじゃん!」
俺は首を傾げているカイの背中を叩く。
カイの強さは一応知っているつもりだ。
この世界の事はよく分からないが現代ならば最強と名乗っても馬鹿にされないだろう。
「金はどうすんだよ」
カイはしばらく考え込んだ後、一歩前に出て口を開いた。
「確かに」
俺は小声で呟く。
言っちゃ悪いが、店も宿も無いこの村にお金があるとは思えない。
「そこは心配するな」
「二人のその<職業>ならばメイド協会や騎士団から学費を借りることは簡単だ」
「将来自分で返すことにはなるが、二人ならば容易に返せるだろう」
オムさんがそう言うと、カイは一歩下がる。
この世界に奨学金のような物があるとは驚いた。
この様子だとおそらく法整備もしっかりとされているため、この村を離れても思ったよりも安全に暮らせるかもしれない。
「……」
カイは目に手を当て、再び考え出す。
「行こうよ!」
ケイがカイの手を両手で握った。
「……ありがとう、オムじい」
「でも、やっぱりこの村が心配だ」
カイがケイの手を軽く振り払った。
「学校に入学してから考えても遅くないぞ?」
「それに、ここ10年はモンスターたちも大人しい」
「カイがいなくても大丈夫だ」
「分かってる」
「それでも俺はこの村に残るよ」
「……アレン、ケイをよろしくな」
そう言い残し、カイはこの場を後にした。
どうやら、カイの決意は固まったようだ。
「そうか」
オムさんは渋い顔をしている。
「困ったな……」
「城下町まではカイに案内してもらおうと思っていたのだが……」
「そうだな……」
「それならば、ケイとアレンは二週間後に来る行商人と共に行くといい」
「入学式に間に合わせたかったが、その方が安全だろう」
……なーんだ。
俺は明日にでも出発しようと意気込んでいたのだが、もう少しこの村のお世話になるようだ。
オムさんの説明によると、まず3日ほど掛けてセントエクリーガ城下町まで行き、そこからさらに2週間ほどかけてアプレディメントというメイド学校がある町まで行くらしい。
学校には寮があり、ケイはそこで暮らすことになる。
ケイとはセントエクリーガ城下町でお別れになるのだが、この長旅は少し心配だ。
しかし、ケイの中に一切不安は無いようだった。
「ありがと!」
オムさんが一通り話し終えると、ケイはそう言い残し奥の部屋に姿を消す。
「それじゃ」
「アレンはちょっと待て」
俺が家を後にしようとすると、オムさんに後ろから呼び止められた。
「城下町に行ってからの事は考えているのか?」
オムさんがそう言うと俺は大きく首を横に振る。
SPのことばかり考えていて、そっちの方はまったく考えていなかった。
「はぁ……」
オムさんが大きなため息をつく。
「セントエクリーガ城下町に着いたらレゼンタックという場所を訪ねろ」
「大きな建物だから行けばすぐに分かる」
「そこならば仕事は見つかる上に、レゼンタック直轄の宿ならば住む場所にも困らない」
「どうせ、お金は持っていないのだろう?」
「いや?」
俺はポケットの中にある財布から一万円を取り出しオムさんに見せた。
「まあまあ、落ち着け」
カイはオムさんに詰め寄ったが、オムさんは片手でカイを押し返した。
カイは渋々引き下がる。
「ケイ、カイ」
「二人は自分の<職業>を自覚しているな?」
「ああ」「うん!」
カイとケイが口を揃えて返事をする。
「<メイド>と<守護者>は本来このような辺境の村にいてはおかしいのだ」
「<メイド>は貴族や<王>の元で働き、<守護者>も<王>の元で働くか騎士団に入るのが一般的だろう」
「そのための学校もある」
「……そこでだ、二人とも学校に行く気はないか?」
「行きたい!」「……」
ケイが元気に返事をする横でカイはなにも答えず何かを考えているようだった。
「行ったらいいじゃん!」
俺は首を傾げているカイの背中を叩く。
カイの強さは一応知っているつもりだ。
この世界の事はよく分からないが現代ならば最強と名乗っても馬鹿にされないだろう。
「金はどうすんだよ」
カイはしばらく考え込んだ後、一歩前に出て口を開いた。
「確かに」
俺は小声で呟く。
言っちゃ悪いが、店も宿も無いこの村にお金があるとは思えない。
「そこは心配するな」
「二人のその<職業>ならばメイド協会や騎士団から学費を借りることは簡単だ」
「将来自分で返すことにはなるが、二人ならば容易に返せるだろう」
オムさんがそう言うと、カイは一歩下がる。
この世界に奨学金のような物があるとは驚いた。
この様子だとおそらく法整備もしっかりとされているため、この村を離れても思ったよりも安全に暮らせるかもしれない。
「……」
カイは目に手を当て、再び考え出す。
「行こうよ!」
ケイがカイの手を両手で握った。
「……ありがとう、オムじい」
「でも、やっぱりこの村が心配だ」
カイがケイの手を軽く振り払った。
「学校に入学してから考えても遅くないぞ?」
「それに、ここ10年はモンスターたちも大人しい」
「カイがいなくても大丈夫だ」
「分かってる」
「それでも俺はこの村に残るよ」
「……アレン、ケイをよろしくな」
そう言い残し、カイはこの場を後にした。
どうやら、カイの決意は固まったようだ。
「そうか」
オムさんは渋い顔をしている。
「困ったな……」
「城下町まではカイに案内してもらおうと思っていたのだが……」
「そうだな……」
「それならば、ケイとアレンは二週間後に来る行商人と共に行くといい」
「入学式に間に合わせたかったが、その方が安全だろう」
……なーんだ。
俺は明日にでも出発しようと意気込んでいたのだが、もう少しこの村のお世話になるようだ。
オムさんの説明によると、まず3日ほど掛けてセントエクリーガ城下町まで行き、そこからさらに2週間ほどかけてアプレディメントというメイド学校がある町まで行くらしい。
学校には寮があり、ケイはそこで暮らすことになる。
ケイとはセントエクリーガ城下町でお別れになるのだが、この長旅は少し心配だ。
しかし、ケイの中に一切不安は無いようだった。
「ありがと!」
オムさんが一通り話し終えると、ケイはそう言い残し奥の部屋に姿を消す。
「それじゃ」
「アレンはちょっと待て」
俺が家を後にしようとすると、オムさんに後ろから呼び止められた。
「城下町に行ってからの事は考えているのか?」
オムさんがそう言うと俺は大きく首を横に振る。
SPのことばかり考えていて、そっちの方はまったく考えていなかった。
「はぁ……」
オムさんが大きなため息をつく。
「セントエクリーガ城下町に着いたらレゼンタックという場所を訪ねろ」
「大きな建物だから行けばすぐに分かる」
「そこならば仕事は見つかる上に、レゼンタック直轄の宿ならば住む場所にも困らない」
「どうせ、お金は持っていないのだろう?」
「いや?」
俺はポケットの中にある財布から一万円を取り出しオムさんに見せた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
風ノ旅人
東 村長
ファンタジー
風の神の寵愛『風の加護』を持った少年『ソラ』は、突然家から居なくなってしまった母の『フーシャ』を探しに旅に出る。文化も暮らす種族も違う、色んな国々を巡り、個性的な人達との『出会いと別れ』を繰り返して、世界を旅していく——
これは、主人公である『ソラ』の旅路を記す物語。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる