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第一章「ウォロ村」

第二十一話「強さの弊害」

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「どこいってたんだ」
「もう昼飯の時間はとっくに過ぎてるぞ」

 村の入り口まで戻るとカイが大剣を背負いながらこちらを睨んでいた。
 俺は瞬時に鼻歌を止め、カイと目を合わせずに急いで家に戻る。


 昼ご飯は既に用意されていたので急いで口に頬張った。


「さてと……」

 今日の朝、ケイに靴を用意してもらうようにお願いするつもりだったが、すっかり忘れていた。
 仕方ないので、俺は昨日カイにもらった紐を靴に強めに巻きつける。

「……よしっ」

 俺はドアの近くに置いてあった鎌を持ち、家を飛び出た。


「お待たせしました」

 俺は苦笑いをしながらカイに軽く頭を下げる。

「これ持ってろ」

 あの赤い花がカイのゴツゴツとした人差し指と親指でつままれている。
 なんとも似つかわしくない光景だ。

 ……やはりカイはツンデレなのかもしれない。

 俺は口角を少し上げながら花を優しく受け取った。

「はぁ……」

 カイがため息をつく。
 俺が花を受け取った瞬間、花びらが2枚散ったのだ。

「やめるか?」

 俺は大きく首を横に振る。


 カイは少し考えたが、なにも言わず村を離れ川を下っていく。
 俺もなにも言わずにカイの後について行った。


 しばらくするとアイツの姿が見えてくる。
 カイは岩の上に飛び乗り、大剣を背中から降ろすとそこに座った。

 どうやらそこが定位置になったようだ。

「ふんっ」

 昨日とは違い、俺は躊躇わずにリベイロに近づくと、鎌を思い切って振りかぶる。

 少し恐怖はあるが、昨日あれだけ倒したら流石に慣れた。

 スルッ

 勢いよく振りかぶった鎌は俺の手からすっぽ抜け、後ろに吹っ飛ぶ。

「えっ?」

 俺は一瞬戸惑ったが、すぐさま後ろを振り返り鎌を拾いに行こうとする。

 ビュチビュチビュチビュチッ

 突然、左足にギューーーっと、ものすごい圧力がかかる。
 慌てて足元を見ると、リベイロが俺の足に乗りかかっていた。

 リベイロが足に這い上がってくるにつれて圧力はどんどん上がっていき、思わず膝を地面についてしまう。

 見た目によらず物凄い重さだ。100キロはあるかもしれない。
 このままでは確実に足の骨が砕ける。


「カイ!」
「たすけ……」

 俺がカイの方を振り返った瞬間、足にかかっていた重さがピタリと無くなった。
 目の前にカイの姿はない。

 もう一度足の方を見るとリベイロは既に真っ二つになっていた。

「足元に気をつけろって言っただろ!」

 カイの顔が少し怒っているように見える。

「うん……ごめん」
「ありがとう」

 俺がお礼を言うとカイは俺に鎌を渡して元の位置に戻った。

 いつの間にか俺の鎌を拾っていたようで、つくづく感心する。

 俺は渡された鎌を強く握り直しその場で軽く振ってみた。
 すると、昨日と違い鎌の遠心力で腕が持っていかれそうになる。

 おかしい……
 昨日は普通に振れたはずだ。

「……うわ」

 考えられる理由は1つしかない……
 それは、数あるステータスの内<AGI>のみが急に上がったからだ。

 スライムを倒して得たSPを俺が上げていた<職業スキル>に使うことで、既に<AGI>は60%あがっている。
 
 スライム狩りで悠々とケイに勝つことができた時に多少の違和感は感じていたが、その時は気にするほどでもなかった。

 ……しかし、俺は昨日SPを使って<AGI>を+100にした。

 もし仮に、元々の<AGI>が<HP>や<DEF>と同じで50以下だとしたら、<職業スキル>で上がった分も含めて俺の<AGI>は昨日より3倍から4倍になっているということだ。
 おそらく普通ならばレベルと共に他の<STR(筋力)>などのステータスも一緒に上がることで調和するのだろう。

 だが今のところ俺にレベルは存在しない……


「……ふぅ」

 俺はリベイロに足を踏まれないように近づき、ゆっくりと鎌の先端を突き刺した。

 すこし惨いかもしれないが仕方がない。
 だが、今いくら考えを巡らせても現状は変わらない。


 ビチャビチャビチャビチャ

 リベイロの体液が飛び散る音が、静かな川辺に響き渡る。


 最後のリベイロを倒すや否や、カイは岩から飛び降り、洞窟の方へ向かった。
 カイはなにかに気づいているようだったが、何も言わない。

 花びらは既に6枚になっている。
 

 俺は小さい歩幅でカイの後に続き、カイが洞窟に入ったのを確認して一旦足を止めた。

「アクティベイト」

 今の分を含めてSPが34ポイントになっていた、
 
 俺は10ポイントを<STR>に振る。

「ステイ」

 俺は洞窟の中に入り、急いでカイを追いかけた。
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