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序章

第一話「朝」

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 その日、俺が目を覚ましたのは、異世界だった。




「ピピピピピピピピ……」

 久しぶりに聞く音だ。

 仰向けの状態から身体を起こし、目の前にある白くて丸い物を3回ほど叩く。
 その後、うつ伏せに体勢を変え、顔を9000円の枕にうずめた。

「ピピピピピピピピ……」

「よし、起きよう」

 そう心の中で決心し、俊敏に身体を起こす。
 ぼやけた目を擦りながら白くて丸い目覚まし時計を止めた。

 朝日が窓から差し込んでいる。
 母親が仕事に行く前にカーテンを開けたのだろう。
 
 窓の前に足を進めると、ベランダにあった小さな水滴に反射した光が俺の目に突き刺さる。
 自分の部屋が二階にあるのはいいものだ。

「あ、い、う、え、お、か」
 
 軽く発声練習を終え、俺は部屋を出る。
 
 家に中に人の気配を感じない。

 階段を降りると、真っ先に冷蔵庫の前に足を進める。
 キッチンには用意された朝ごはんらしき物は見当たらず、冷蔵庫の中もほとんど空だ。

 ついてないな

 そう思いながらも、手慣れた手つきで電子ポットでお湯を沸かし、朝ごはんのメニューを考えつつ洗面所に向かい、顔を洗った。


 冷蔵庫の前に戻りもう一度、扉を開ける。
 しかし何度見ても俺の朝ごはんは無い。

 俺の手には冷凍うどんとカップラーメンの選択肢が握られている。

「……」

 俺は後者を選んだ。
 お湯を注ぎ、ため息を3回ほどつく頃には、買い置きしてあるお気に入りのカップラーメンが出来上がっていた。

 カップラーメンをボーっとしながら口に掻き込むと、再び洗面所に向かい、服を脱ぐ。
 そして、少し肌寒さをかんじながら3日ぶりのシャワーを素早く浴びた。


 風呂場から出るとパンツを準備するのを忘れたことに気づいた。
 俺は身体をあらわにしながら急ぎ足で階段を上り、自分の部屋でパンツを探す。


 パンツを手に入れ、再び一階に戻ると、椅子の背にかかっている身の丈に合わない既製品のスーツに着替える。
 そして、みたび洗面所に向かい、ネクタイを締め、髪形を整え、髭を剃った。

「ふぅ……」
 そろそろ行くか

 洗面所で大きな息を吐くと、また階段を上り部屋に戻る。
 そして、少し大きめの鏡の前にある3つの香水の前で足を止めた。

 ディ○ール、ド〇チェ&ガッバー〇、ファブ〇ーズ
 俺が持っている物はどれも古かったので兄の使っているブ○ガリという選択肢もあったが、迷った挙句、結局3つの香水をちょっとずつ自分に振りかけた。

 久しぶりに嗅ぐ匂いを楽しみながら階段を降り、玄関の段差に腰をかける。

「はぁ……」

 自然とため息が漏れた。
 なぜか物凄く疲れた気がする。

 新品の革靴に足を通し、まず靴の甲を何回か押して硬さを確かめ、次に立ち上がって履き心地を確かめる。
 これならバイクにのっても大丈夫そうだ。

 そして玄関に置いてある小さな時計をチラっと見てから、ドアを開け慌ただしく外に飛び出した。

「遅刻だ」

 そう呟くと、ヘルメットを片手に、駐輪場へ不格好にダッシュする。
 流石に何年も走っていないと走り方を忘れてしまう。

 今日は入学式だ。

 ……何か大事な忘れ物をした気がする。


 静寂が残った玄関に置いてある時計は10時を指していた。
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