うららかな恋日和とありまして～結婚から始まる年の差恋愛～

第7章

第70話

　師匠の家に泊まるのは何度目になるだろうか。万葉はまどろみながら、その回数を考える。両手で足りないくらいに増えた回数を思うと、名前も知らない人と結婚したのが、まるで遠い昔の出来事のように思えた。

　師匠は疲れているようで、布団に入るなりすぐに寝てしまった。万葉はなぜだか眠れなくて、うとうとしながら師匠のきれいな寝顔を見る。

　そのうちにベッドから起き上がると、カーテンをちょっとだけ開けて、空に昇っている月を見つめた。近くの公園の桜が満開で、一緒にピクニックに行きたいなと考える。

「今度の週末、お弁当作ってお花見に行こうかな」

　師匠が疲れていなければ、午前中からゆっくりとお花見を楽しんで、デートをしたいなと思った。

「そういえば、二人で外でデートしたこともない……」

　いつも居酒屋で会うか家で会うかで、まともにデートというデートをしていないので、明日の朝に提案しようとして、行きたいところがありすぎて困ってしまった。

　行きたいところを数えていると、手の指だけでは足りなくなってしまう。やりたいこともたくさんある。楽しみが増えた気がして、万葉は心が弾んだ。

「眠れないですか？」

　急に声をかけられて、見れば師匠が目を開けて、ベッドから万葉の方を見ていた。

「……起こしちゃいました？」

「いえ、眠りが浅かったみたいで」

　師匠が扇情的な瞳で万葉を見つめる。思わず、切なくなってしまうような胸の痛みを覚えた。

「万葉さん、月がきれいですね」

　言われて万葉は、カーテンを開けたままにして、ベッドへと戻った。月明かりが差し込んでいる。今夜は満月だ。

「初めて貴女を見た時も、こんな月がきれいな夜でした」

　いらっしゃいと言われて、万葉は師匠の胸の中へと納まる。

「冷えちゃいましたね」

「師匠が温めてくれるから、問題ないです」

「あはは、万葉さん、煽ってます？」

　それに、万葉はじっと師匠を覗き込む。穏やかで優しい瞳がそこにあって、愛しいと本当に思った。

「……師匠、私、死んでもいいです」

「万葉さんに死なれたら僕が困りますけど……その答えは嬉しいですね」

　優しく唇が交差して、甘く吐息が混じり合う。温もりを感じながら、月明りの下でお互いのまだ知らない部分をゆっくりと深く確かめ合っていった。