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第7章
第64話
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持って行かれたシュシュは、特にお気に入りだったわけではないが、使いやすくて重宝していた。なので、返してもらわなかったとしても困らないのだが、無いと困ると言えば困る。
帰宅して泊まり道具を鞄に詰めると、万葉はワンルームの部屋を出る。すでに毎晩ちょっとずつ片づけた部屋は、段ボールが積み重なっていた。師匠の家に先に置いておいても問題ないものは、すでに師匠の家に置いてある。
会社員として働いてから、ずっと住んでいた部屋を出て行く名残惜しさと、あのぬくもりの灯る家が、自分の帰っていい場所になるという嬉しさに、どことなく浮足立っているのは間違いなかった。
歩いて十分もかからない師匠の家に行くと、チャイムを押して中に入る。なかなかこの習慣は変わらなくて、しかし、いつも玄関に出て来てくれる師匠に、心が癒されていた。
「ただいまです、師匠」
「はい、お帰りなさい万葉さん」
この挨拶を何度かわしたか分からないが、言う度に信頼度が増して、安心感が膨らむ。師匠に手を引かれてリビングへと行き、荷物を置いてからご飯を食べた。
「今日は、僕も忙しくて……あんまり作れなかったんですが」
そういう割には、炒め物とご飯にお味噌汁を用意してくれていて、万葉は感激した。常務というのがどんな仕事をしているのか分からないが、きっと忙しいに違いない。その中でもこうしてもてなしてくれる気持ちに、万葉は心がいっぱいになる。
「今度、師匠が遅くなる時は私が用意します」
「楽しみですねえ、奥さんの手料理。毎日食べたいです」
「別に作るの嫌じゃないですけど、師匠も多分、作るの嫌じゃない人ですよね?」
「ええ。苦じゃなくできるタイプです」
だったら一緒に今度作ろうと万葉は思案する。お互い食の好みも似ているので、きっと楽しいはずだと思った。
***
「――ところで師匠、まったりしてしまって忘れるところでしたが、私のシュシュは……?」
お風呂にも入って、二人でソファでくつろいでそろそろ寝てもいいかもと思っている頃に、ふと万葉は今日訪問した根本的理由を思い出した。
「ああ、そうでした。お返しすると言いましたね」
「……今日は、すごくびっくりしました」
師匠は寝ましょうと言いながら、立ち上がると二階へと行こうとする。万葉も後ろから付いて行き、師匠が自室に入って行くのを見て、寝室で師匠が来るのを待った。
「――お待たせしました。はい、これお返しします」
「ありがとうございます!」
万葉が受け取って嬉しそうにした瞬間、布団へひょいと押し倒される。
「あの、師匠……?」
「先日の続きしましょう? 僕は今日、とってもイラっとしたので、万葉さんの泣き顔が見たいです……ああ違うな、僕にしか見せない万葉さんの顔を見たいです」
「ええええと、ごめんなさい。イラっとしていたんですね、やっぱり!?」
当たり前でしょう、と万葉を布団へ押しやって覆いかぶさってくると、あっという間にキスで万葉を困らせる。
「だからって、会社であんな……」
「じゃあ、家でならいいですよね。いっぱい僕に困ってもらっていいですよ?」
なんだその屁理屈はと思ったのだが、結局、師匠の思い通り。いつもは手のひらの上で踊らされているだけだが、今夜は師匠の腕の中に全てを委ねて、熱く焦がされるだけなのだ。
帰宅して泊まり道具を鞄に詰めると、万葉はワンルームの部屋を出る。すでに毎晩ちょっとずつ片づけた部屋は、段ボールが積み重なっていた。師匠の家に先に置いておいても問題ないものは、すでに師匠の家に置いてある。
会社員として働いてから、ずっと住んでいた部屋を出て行く名残惜しさと、あのぬくもりの灯る家が、自分の帰っていい場所になるという嬉しさに、どことなく浮足立っているのは間違いなかった。
歩いて十分もかからない師匠の家に行くと、チャイムを押して中に入る。なかなかこの習慣は変わらなくて、しかし、いつも玄関に出て来てくれる師匠に、心が癒されていた。
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「はい、お帰りなさい万葉さん」
この挨拶を何度かわしたか分からないが、言う度に信頼度が増して、安心感が膨らむ。師匠に手を引かれてリビングへと行き、荷物を置いてからご飯を食べた。
「今日は、僕も忙しくて……あんまり作れなかったんですが」
そういう割には、炒め物とご飯にお味噌汁を用意してくれていて、万葉は感激した。常務というのがどんな仕事をしているのか分からないが、きっと忙しいに違いない。その中でもこうしてもてなしてくれる気持ちに、万葉は心がいっぱいになる。
「今度、師匠が遅くなる時は私が用意します」
「楽しみですねえ、奥さんの手料理。毎日食べたいです」
「別に作るの嫌じゃないですけど、師匠も多分、作るの嫌じゃない人ですよね?」
「ええ。苦じゃなくできるタイプです」
だったら一緒に今度作ろうと万葉は思案する。お互い食の好みも似ているので、きっと楽しいはずだと思った。
***
「――ところで師匠、まったりしてしまって忘れるところでしたが、私のシュシュは……?」
お風呂にも入って、二人でソファでくつろいでそろそろ寝てもいいかもと思っている頃に、ふと万葉は今日訪問した根本的理由を思い出した。
「ああ、そうでした。お返しすると言いましたね」
「……今日は、すごくびっくりしました」
師匠は寝ましょうと言いながら、立ち上がると二階へと行こうとする。万葉も後ろから付いて行き、師匠が自室に入って行くのを見て、寝室で師匠が来るのを待った。
「――お待たせしました。はい、これお返しします」
「ありがとうございます!」
万葉が受け取って嬉しそうにした瞬間、布団へひょいと押し倒される。
「あの、師匠……?」
「先日の続きしましょう? 僕は今日、とってもイラっとしたので、万葉さんの泣き顔が見たいです……ああ違うな、僕にしか見せない万葉さんの顔を見たいです」
「ええええと、ごめんなさい。イラっとしていたんですね、やっぱり!?」
当たり前でしょう、と万葉を布団へ押しやって覆いかぶさってくると、あっという間にキスで万葉を困らせる。
「だからって、会社であんな……」
「じゃあ、家でならいいですよね。いっぱい僕に困ってもらっていいですよ?」
なんだその屁理屈はと思ったのだが、結局、師匠の思い通り。いつもは手のひらの上で踊らされているだけだが、今夜は師匠の腕の中に全てを委ねて、熱く焦がされるだけなのだ。
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