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第7章
第62話
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しーっと口を手で塞がれて、万葉は自分を会議室に引き入れた人物が、師匠であることを知った。
「万葉さん、しーですよ」
師匠はそう言うと、すぐさま会議室の鍵を内側から閉める。万葉の身体をくるりと回すと、そこにあった机に押し付けて座らせた。
「師匠、探しました……! うちの部長呼んでないって言ってて、もしかして違う部長が呼んでたとかで」
そこまで言ったところで、万葉の唇が塞がれてしまい言葉が紡げない。
「……え、ししょ……」
言いかけるたびに呼吸が塞がれて、結局何も言えないまま、口づけだけが深みを増していく。師匠に押し倒されそうになっているのをこらえていたが、限界だと思った時に抱き寄せられる。
「あの、師匠、部長呼んでな」
「ええ、嘘です」
優しく唇が触れる。
「嘘、ついたんですか?」
「はい。新海主任とちょっとお話がしたかったので」
「え!? 新海と何話し」
「……ちょっと黙っていましょうか」
柔らかな口づけに、思わず力が抜けそうになる。師匠は万葉を抱き寄せる力とは裏腹に、甘い口づけで万葉を黙らせた。
「貴女の口から、他の男性の名前が出てくると、どうも僕はやっかんでしまうようです。しかも二人きりで会議室にいるのを見た後ですから、ちょっとイライラしています」
万葉がそれに答えようとするのを、師匠は許さない。
「……あのね、万葉さん。貴女が泣き顔を見せていいのは、僕だけだって知っていましたか?」
「ごめんなさ……知らなっ……」
師匠が万葉の頭を押さえて離さない。そのせいで顔を動かせず、いいように師匠は万葉を焦らした。
「……師匠っ、ここ、会社!」
やっと息ができて、万葉は顔を真っ赤にしながら押しのけようとしたのだが、押しのけようとしても師匠は全く動かない。
「だから、なんです?」
「だから、その。会社でこういうことは……」
「してはいけないと、社則に書いてないでしょう?」
言い返そうとすると首筋に師匠が顔をうずめる。舌先で撫でられて思わず声が出ると、より一層責め立てられた。思わず師匠にしがみついて、声を出さないように手で口元を必死で抑える。
「言いましたよね、僕は独占欲が強いって」
持たれた首の後ろを撫でる、師匠の手には逆らえない。エアコンもついていない部屋なのに、身体の芯がかあっと熱くなっていた。
「だめですよ、他の男の人にあんな顔見せては。分かりましたか?」
「――はい」
「いい子ですね、万葉さん」
その言葉と同時に、首筋に師匠が思い切り吸い付いた。痛みと驚きで声が出そうになるのを飲み込み、慌てて師匠を叩くのだがやっぱりびくともしない。そのまましばらく吸われて、これはまずいと思った時に、髪をまとめていたシュシュが解かれる。
「……これ、今晩返しますから。帰って来るのお待ちししています」
気が済んだのか師匠はにっこりと笑って、万葉を解放する。
「では、お仕事頑張って下さいね、奥さん」
師匠は万葉の手に携帯電話を握らせると、ニコニコしながら去って行った。その場に残された万葉は、ドキドキが収まるまで深呼吸を数回してから、廊下へと出る。
すでに師匠の姿はなく、万葉は化粧室へ飛び込んで吸われた首筋を確認する。真っ赤になっていて、とてもじゃないけれど髪を縛り上げることができない。
「……やられた……」
万葉は髪が解かれた意味を知って、再度顔を赤くすると、フロアへと駆け足に戻った。
「万葉さん、しーですよ」
師匠はそう言うと、すぐさま会議室の鍵を内側から閉める。万葉の身体をくるりと回すと、そこにあった机に押し付けて座らせた。
「師匠、探しました……! うちの部長呼んでないって言ってて、もしかして違う部長が呼んでたとかで」
そこまで言ったところで、万葉の唇が塞がれてしまい言葉が紡げない。
「……え、ししょ……」
言いかけるたびに呼吸が塞がれて、結局何も言えないまま、口づけだけが深みを増していく。師匠に押し倒されそうになっているのをこらえていたが、限界だと思った時に抱き寄せられる。
「あの、師匠、部長呼んでな」
「ええ、嘘です」
優しく唇が触れる。
「嘘、ついたんですか?」
「はい。新海主任とちょっとお話がしたかったので」
「え!? 新海と何話し」
「……ちょっと黙っていましょうか」
柔らかな口づけに、思わず力が抜けそうになる。師匠は万葉を抱き寄せる力とは裏腹に、甘い口づけで万葉を黙らせた。
「貴女の口から、他の男性の名前が出てくると、どうも僕はやっかんでしまうようです。しかも二人きりで会議室にいるのを見た後ですから、ちょっとイライラしています」
万葉がそれに答えようとするのを、師匠は許さない。
「……あのね、万葉さん。貴女が泣き顔を見せていいのは、僕だけだって知っていましたか?」
「ごめんなさ……知らなっ……」
師匠が万葉の頭を押さえて離さない。そのせいで顔を動かせず、いいように師匠は万葉を焦らした。
「……師匠っ、ここ、会社!」
やっと息ができて、万葉は顔を真っ赤にしながら押しのけようとしたのだが、押しのけようとしても師匠は全く動かない。
「だから、なんです?」
「だから、その。会社でこういうことは……」
「してはいけないと、社則に書いてないでしょう?」
言い返そうとすると首筋に師匠が顔をうずめる。舌先で撫でられて思わず声が出ると、より一層責め立てられた。思わず師匠にしがみついて、声を出さないように手で口元を必死で抑える。
「言いましたよね、僕は独占欲が強いって」
持たれた首の後ろを撫でる、師匠の手には逆らえない。エアコンもついていない部屋なのに、身体の芯がかあっと熱くなっていた。
「だめですよ、他の男の人にあんな顔見せては。分かりましたか?」
「――はい」
「いい子ですね、万葉さん」
その言葉と同時に、首筋に師匠が思い切り吸い付いた。痛みと驚きで声が出そうになるのを飲み込み、慌てて師匠を叩くのだがやっぱりびくともしない。そのまましばらく吸われて、これはまずいと思った時に、髪をまとめていたシュシュが解かれる。
「……これ、今晩返しますから。帰って来るのお待ちししています」
気が済んだのか師匠はにっこりと笑って、万葉を解放する。
「では、お仕事頑張って下さいね、奥さん」
師匠は万葉の手に携帯電話を握らせると、ニコニコしながら去って行った。その場に残された万葉は、ドキドキが収まるまで深呼吸を数回してから、廊下へと出る。
すでに師匠の姿はなく、万葉は化粧室へ飛び込んで吸われた首筋を確認する。真っ赤になっていて、とてもじゃないけれど髪を縛り上げることができない。
「……やられた……」
万葉は髪が解かれた意味を知って、再度顔を赤くすると、フロアへと駆け足に戻った。
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