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第6章
第58話
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「遊び人だと散々言っておいて、自分はそれでいいのかよ?」
新海は遠藤にあきれたのだが、遠藤はどこ吹く風だ。
「だって格好いいし、高給取りだし。若い子が好きなら、私の方が若いです」
「常務は若い子が好きなのか?」
「知りませんけど、恵さんとだって十以上も違うんですから、若い子を選んだ感じじゃないですか?」
「そうかなあ……」
常務のことはよく分からないが、万葉が幸せそうにしているのを見ていると、若いだけで選んだわけではないのではないかと新海は感じていた。
「どちらにしても、イケメンな人の玉の輿に乗りたいんで、私。恋愛は面倒ですから、結婚したいんです」
「ずいぶんと目的がはっきりしているな」
遠藤はふうと息を吐くと、至極真面目な顔になる。
「だって、このご時世、いつ何が起こるかわかんないじゃないですか。だったら、やっぱり、お金に重きを置いた結婚したいです。金と愛だったらお金の方が大事っていう、現実主義なだけです。でもだからといって、ずっと一緒に居るし子供も欲しいから、顔が好みじゃないのは嫌です」
「……なるほどね。だから、遊んでたとしても常務ってわけか。確かに、あの歳まで独身貫いてたら、貯まるもんはたまってそうだよな」
「そういうことです。わがままですかね?」
「わがままというよりかは、恋愛が面倒ってところとか、愛より金っていうところが、今どきの考えだなと思うけど。俺は、こう見えて金より愛のタイプだ。金は俺が稼ぐし、愛のない結婚は無理だな」
それに遠藤はほんの少し驚いて、意外という顔をした。
「でも、じゃあ恵先輩がこのままもてあそばれているの、見てるだけでいいんですか? 私だったら傷つかないけど、恵先輩傷つきそう」
「それでもいいさ。遊ばれようが愛されようが、選んだのは恵なんだ。あいつが決めることだよ。遠藤が常務のこと本気で考えてるなら、悪いこと言わないから止めておけ。相手はすでに結婚してるんだからな。それでも気持ちが落ち着かないなら、自分でけりつけて来いよ」
新海は遠藤の肩にポンと手を置くと、その場を去って行く。遠藤はあまりにもあっさりと新海が引き下がったので、ふーんと腕を組んでその後ろ姿を見送る。
「何だ、案外、一途なタイプだったんだ……」
でも、と遠藤は考える。
(一途だったら、なおさらさっきの情報は、効いたかも……)
遊び人だという田中常務の噂話は、このままにしておけば新海経由でなくとも万葉も耳に入ることは間違いない。
「恵さんいいなあ。常務にも、新海先輩にも愛されて。っていうか、そもそも私、同じ土俵にさえ上がっていないのに、負けてるんだよね。ちょっとダサいかも」
遠藤の目標は玉の輿というシンプルなものだ。それ以上でも以下でもない。苦労している両親を見て育っているため、玉の輿に乗って両親を安心させたい気持ちがある。それに、貧乏で苦労するのは、もう散々だった。
「居酒屋って言ってたから……」
万葉に直接、いつも飲みに行っている居酒屋の場所を聞けばいい。遠藤はそうと決まると、休憩を取りに行った万葉の後について行って、居酒屋の場所を聞き出した。
もちろん、お目当てが常務であることは伏せて、いつもどこに飲みに行っているのかを、それとなく尋ねる。
「遠藤もお酒飲むの?」
「たまに友達につき合うだけなんですけど、恵先輩ならいいお店知ってそうだったから」
「○○駅近くの居酒屋しか私行かないから、他の店は分からないけど。あのお店はおすすめだよ。今度友達と行ったら、感想聞かせて」
遠藤の魂胆を見抜いていない万葉は、快くいつも行く居酒屋を教えた。
(行ってみよう……私も、常務のこと知りたいもん)
新海の言うようにけりをつけるのであれば、まずは接点を持たないと始まらない。遠藤は万葉にお礼を伝えて、仕事へと戻った。
新海は遠藤にあきれたのだが、遠藤はどこ吹く風だ。
「だって格好いいし、高給取りだし。若い子が好きなら、私の方が若いです」
「常務は若い子が好きなのか?」
「知りませんけど、恵さんとだって十以上も違うんですから、若い子を選んだ感じじゃないですか?」
「そうかなあ……」
常務のことはよく分からないが、万葉が幸せそうにしているのを見ていると、若いだけで選んだわけではないのではないかと新海は感じていた。
「どちらにしても、イケメンな人の玉の輿に乗りたいんで、私。恋愛は面倒ですから、結婚したいんです」
「ずいぶんと目的がはっきりしているな」
遠藤はふうと息を吐くと、至極真面目な顔になる。
「だって、このご時世、いつ何が起こるかわかんないじゃないですか。だったら、やっぱり、お金に重きを置いた結婚したいです。金と愛だったらお金の方が大事っていう、現実主義なだけです。でもだからといって、ずっと一緒に居るし子供も欲しいから、顔が好みじゃないのは嫌です」
「……なるほどね。だから、遊んでたとしても常務ってわけか。確かに、あの歳まで独身貫いてたら、貯まるもんはたまってそうだよな」
「そういうことです。わがままですかね?」
「わがままというよりかは、恋愛が面倒ってところとか、愛より金っていうところが、今どきの考えだなと思うけど。俺は、こう見えて金より愛のタイプだ。金は俺が稼ぐし、愛のない結婚は無理だな」
それに遠藤はほんの少し驚いて、意外という顔をした。
「でも、じゃあ恵先輩がこのままもてあそばれているの、見てるだけでいいんですか? 私だったら傷つかないけど、恵先輩傷つきそう」
「それでもいいさ。遊ばれようが愛されようが、選んだのは恵なんだ。あいつが決めることだよ。遠藤が常務のこと本気で考えてるなら、悪いこと言わないから止めておけ。相手はすでに結婚してるんだからな。それでも気持ちが落ち着かないなら、自分でけりつけて来いよ」
新海は遠藤の肩にポンと手を置くと、その場を去って行く。遠藤はあまりにもあっさりと新海が引き下がったので、ふーんと腕を組んでその後ろ姿を見送る。
「何だ、案外、一途なタイプだったんだ……」
でも、と遠藤は考える。
(一途だったら、なおさらさっきの情報は、効いたかも……)
遊び人だという田中常務の噂話は、このままにしておけば新海経由でなくとも万葉も耳に入ることは間違いない。
「恵さんいいなあ。常務にも、新海先輩にも愛されて。っていうか、そもそも私、同じ土俵にさえ上がっていないのに、負けてるんだよね。ちょっとダサいかも」
遠藤の目標は玉の輿というシンプルなものだ。それ以上でも以下でもない。苦労している両親を見て育っているため、玉の輿に乗って両親を安心させたい気持ちがある。それに、貧乏で苦労するのは、もう散々だった。
「居酒屋って言ってたから……」
万葉に直接、いつも飲みに行っている居酒屋の場所を聞けばいい。遠藤はそうと決まると、休憩を取りに行った万葉の後について行って、居酒屋の場所を聞き出した。
もちろん、お目当てが常務であることは伏せて、いつもどこに飲みに行っているのかを、それとなく尋ねる。
「遠藤もお酒飲むの?」
「たまに友達につき合うだけなんですけど、恵先輩ならいいお店知ってそうだったから」
「○○駅近くの居酒屋しか私行かないから、他の店は分からないけど。あのお店はおすすめだよ。今度友達と行ったら、感想聞かせて」
遠藤の魂胆を見抜いていない万葉は、快くいつも行く居酒屋を教えた。
(行ってみよう……私も、常務のこと知りたいもん)
新海の言うようにけりをつけるのであれば、まずは接点を持たないと始まらない。遠藤は万葉にお礼を伝えて、仕事へと戻った。
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