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第6章

第56話

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 結局その後、二人して布団にもぐりこんだ。いつものようにお休みと言う。反対を向いてしまった師匠の背中を見るのが切なくて、万葉はその背中にくっついてみた。

「師匠、好きです。私だって、師匠ともう少し進展したいです……」

 師匠が起きていて、万葉の言葉を聞いているのを万葉は知っている。

「恋愛はほぼ初めてです。彼氏だってずっといません。だから、ちょいちょい師匠の上級恋愛テクに戸惑ってしまって……顔が赤くなってばっかですが、嫌ってわけじゃなくて、慣れていないってだけで」

 師匠が動いて、振り返る。暗闇に慣れてきた目に、師匠の表情がぼんやりと見えた。

「嫌じゃないですか、僕のこと?」

「はい。今までも嫌なんじゃなくて、照れてしまっただけで」

 師匠は大きくため息を吐くと、万葉の手をぎゅっと握りしめてキスをした。

「では、受け入れてくれますか、僕のこと?」

「……あの、お手柔らかに」

 それに師匠はふふふっと微笑んだ。

 もちろんですよと答えると、万葉の指先を齧る。

「……でも、僕は多分、狼ですよ?」

「え、それはちょっと……!」

「大事にしますよ、ちゃんと」

  手に優しく何度もキスをされて、そのうちに唇が交わった。

 師匠が覆いかぶさってくると、何度も深く口づけが重なる。熱い舌先に焦らされて、万葉の頭がぼーっとしてきた。

 ぎゅっと師匠は万葉を抱きしめる。苦しくて窒息するくらいの締め付けに、思わず吐息が漏れると、呼吸が塞がれる。

 こんなに切ない師匠を、万葉は今まで見たことがない。

「万葉さん……」

 つぶやく声がかすれて、万葉の耳元をくすぐる。首筋を入念に唇が彷徨い、それだけで身体の芯が熱く火照って来るのを感じた。

「師匠、恥ずかしい……」

「可愛いですよ」

 恥ずかしすぎて全身が発火するかと思っていると、師匠が優しく万葉の頭を撫でる。甘い口づけに万葉が困っていると、いつもの笑顔が見えた。

「今日はここまでです、万葉さん」

「え、どうして……?」

「無理強いはしたくないので。ゆっくり僕たちのペースにしましょう。明日も仕事でしょうし、夜更かしはよくありません」

 万葉の身体が緊張で強張っているのを察した師匠は、万葉をぎゅっと抱きしめると、頭を撫でる。

「師匠、ごめんなさい」

「謝ることはないですよ。僕みたいな年上を、男と思ってくれるだけで嬉しいですから」

 師匠は立派に男性だ、と万葉は思う。もうどうしようもないくらいに、師匠に対するドキドキが収まらない。このまま、ずっと溺愛されてしまうのが予想できて、万葉は抑えられない気持ちで師匠にしがみついた。

「万葉さん、本当は僕は、貴女をめちゃくちゃにしたいですよ。僕だけしか考えられなくして、僕しか見えなくさせたいくらい好きです」

「師匠しかもう見えていませんって」

「あはは、嬉しいなあ。悪い虫、早くどっか行ってほしいです」

 師匠がふと万葉のパジャマを引っ張って、鎖骨の所に顔をうずめた。

「痛っ……?」

「独占欲の塊ですからね、僕」

 おやすみなさいと言われて、万葉は何が起きたのか理解できなかったのだが、翌朝鏡を見て、そこにつけられた赤い痕に、全身発火するほど真っ赤になったのは言うまでもない。
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