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第6章
第52話
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「新海、おはよ。あのね、私結婚して名字変わったの」
「おはよ。はいはい、まーたそうやって冗談を。しかも朝から」
全く相手にしない新海に腹を立てて、万葉は新海の手のひらを、えいやとつねった。
「痛っ、なんだよ?」
「本当だってば、田中になったの、さっき部長にも報告したし、総務にも書類だした。だから、助っ人頼む機会減ると思う。今までたくさん迷惑かけてごめん」
新海は目を見開くと「マジ?」と声音が落ちる。それに「大マジ」と返事をしていると、就業スタンバイのチャイムが鳴った。
「そういうことだから、よろしくね。呼び方は恵のままでいいよ!」
万葉は手を振るとすたすたと自分のデスクへと戻った。おかえり、と桃花が微笑んで、様子を聞いてくる。
「なんか、失礼なくらい驚いていたし、相手にしてくれなかった」
万葉がちらりと新海を見ると、未だ眉根に盛大にしわを収集させている。桃花はそれを見て苦笑いをした。
「まあ、聞かれたら答えればいいんじゃないかな」
「聞いてこないでしょ。どうせ私のことなんて、興味ないんだろうから」
しかし、万葉の予想とは裏腹に、昼食の時間に休憩室へ行くと、新海が怖い顔をして万葉の目の前に立ちふさがった。
「新海も休憩?」
「恵、どういうことだよ?」
「はい、何の話?」
ここじゃ立ち話になるからと、万葉は新海を引っ張って隅のソファへと腰を下ろす。昼ご飯に買ってきたおにぎりを食べながら、しかめっ面の新海を見た。
「だから、なんで結婚したんだよ、誰とだ? この間、好きな人できたばっかりって言ってただろうが」
「ちょっとちょっと、質問多い!」
万葉は目を白黒させて、どうして新海がこんなに怒っているのかも分からないまま、おにぎりを飲み込んだ。
「その好きな人と結婚したの。スピード婚というか、交際ゼロ日婚だけど……まあ、よく知っている人だし問題ないかな」
「ありまくりだろうが。けっこう年上なんだろ? 前も言ったけど、一回りも違って未婚だったってことは、相当難ありかバツイチか借金か……まあとにかく、大丈夫なのかよ?」
「うん、借金もないし、バツイチでもなかったし、性格は……ちょっと分かんないけど、普通だと思う」
しかし、説得する万葉の言葉が増える度、新海のしわがどんどんと深くなっていく。元々シャープな顔立ちなので、もはや怒っていないわけがない、というような顔つきになっていた。
「なんだよ、俺が結婚してやってもいいって言ってたのに」
「何よ、冗談でしょ?」
「冗談で言うかよ……俺はずっと本気だ」
「あーそうでしたか、それはそれは……え? 本気!?」
聞き返して、新海のめちゃくちゃ怒った顔を見て、万葉は手に持っていたおにぎりを落としかける。慌てて口へと放り込んで、お茶で流し込んだ。
「本気だよ、バカ。なのに、結婚したとか意味わかんねぇ」
新海が万葉の手首をぎゅっと掴んだ。反射的に見れば、新海の真剣な瞳と目が合った。
「今だったらまだ間に合うだろ。俺にしておけよ、恵」
「え、は……嘘だよね……?」
新海は万葉の手を離すと、大げさとも思えるため息を吐いた。そして立ち上がる。
「冗談でも嘘でもないからな、これだけは覚えておけよ。俺はお前に惚れてんだよ、このバカ、鈍感!」
「な……!」
怒鳴ることないじゃんかと万葉が混乱すると、ほっぺたを掴まれた。
「こんなんで急に諦めるとかできないからな、俺は」
そう言い残すと、新海は不機嫌に去って行く。万葉は訳が分からなくて、冗談だよねと呟きながら、結局もう一個のおにぎりが食べられないまま、昼休みが過ぎてしまった。
「おはよ。はいはい、まーたそうやって冗談を。しかも朝から」
全く相手にしない新海に腹を立てて、万葉は新海の手のひらを、えいやとつねった。
「痛っ、なんだよ?」
「本当だってば、田中になったの、さっき部長にも報告したし、総務にも書類だした。だから、助っ人頼む機会減ると思う。今までたくさん迷惑かけてごめん」
新海は目を見開くと「マジ?」と声音が落ちる。それに「大マジ」と返事をしていると、就業スタンバイのチャイムが鳴った。
「そういうことだから、よろしくね。呼び方は恵のままでいいよ!」
万葉は手を振るとすたすたと自分のデスクへと戻った。おかえり、と桃花が微笑んで、様子を聞いてくる。
「なんか、失礼なくらい驚いていたし、相手にしてくれなかった」
万葉がちらりと新海を見ると、未だ眉根に盛大にしわを収集させている。桃花はそれを見て苦笑いをした。
「まあ、聞かれたら答えればいいんじゃないかな」
「聞いてこないでしょ。どうせ私のことなんて、興味ないんだろうから」
しかし、万葉の予想とは裏腹に、昼食の時間に休憩室へ行くと、新海が怖い顔をして万葉の目の前に立ちふさがった。
「新海も休憩?」
「恵、どういうことだよ?」
「はい、何の話?」
ここじゃ立ち話になるからと、万葉は新海を引っ張って隅のソファへと腰を下ろす。昼ご飯に買ってきたおにぎりを食べながら、しかめっ面の新海を見た。
「だから、なんで結婚したんだよ、誰とだ? この間、好きな人できたばっかりって言ってただろうが」
「ちょっとちょっと、質問多い!」
万葉は目を白黒させて、どうして新海がこんなに怒っているのかも分からないまま、おにぎりを飲み込んだ。
「その好きな人と結婚したの。スピード婚というか、交際ゼロ日婚だけど……まあ、よく知っている人だし問題ないかな」
「ありまくりだろうが。けっこう年上なんだろ? 前も言ったけど、一回りも違って未婚だったってことは、相当難ありかバツイチか借金か……まあとにかく、大丈夫なのかよ?」
「うん、借金もないし、バツイチでもなかったし、性格は……ちょっと分かんないけど、普通だと思う」
しかし、説得する万葉の言葉が増える度、新海のしわがどんどんと深くなっていく。元々シャープな顔立ちなので、もはや怒っていないわけがない、というような顔つきになっていた。
「なんだよ、俺が結婚してやってもいいって言ってたのに」
「何よ、冗談でしょ?」
「冗談で言うかよ……俺はずっと本気だ」
「あーそうでしたか、それはそれは……え? 本気!?」
聞き返して、新海のめちゃくちゃ怒った顔を見て、万葉は手に持っていたおにぎりを落としかける。慌てて口へと放り込んで、お茶で流し込んだ。
「本気だよ、バカ。なのに、結婚したとか意味わかんねぇ」
新海が万葉の手首をぎゅっと掴んだ。反射的に見れば、新海の真剣な瞳と目が合った。
「今だったらまだ間に合うだろ。俺にしておけよ、恵」
「え、は……嘘だよね……?」
新海は万葉の手を離すと、大げさとも思えるため息を吐いた。そして立ち上がる。
「冗談でも嘘でもないからな、これだけは覚えておけよ。俺はお前に惚れてんだよ、このバカ、鈍感!」
「な……!」
怒鳴ることないじゃんかと万葉が混乱すると、ほっぺたを掴まれた。
「こんなんで急に諦めるとかできないからな、俺は」
そう言い残すと、新海は不機嫌に去って行く。万葉は訳が分からなくて、冗談だよねと呟きながら、結局もう一個のおにぎりが食べられないまま、昼休みが過ぎてしまった。
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