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第6章
第51話
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師匠と手を繋いで、抱きしめ合いながら眠った。何度か唇が交差して、その度に胸が締め付けられるような気持ちが疼く。師匠が万葉のことを大事にしているのは明確で、朝起きると師匠はすでに布団から出ていて、階下でコーヒーを淹れていた。
穏やかな日曜日の朝、万葉は師匠の笑顔を見て、引っ越しを決めた。この人の元にだったら、大丈夫だろうという、確信が持てた。迷う必要が一気に無くなって、万葉は家へと帰り、引っ越しの準備をする為に部屋を片付けた。
翌日の月曜日、万葉は出勤すると総務部へと駆け足に向かって、早瀬を呼び止めた。手に持っているのは、社内用の結婚報告の書類だ。
「早瀬さん、お待たせしました」
「とんでもないです。引っ越し、決まったんですね。よかったです」
それに万葉は微笑む。
「はい、月末を目安に、四月からは一緒に住もうかと」
「すごく幸せそうな顔しています。安心しました」
万葉は思わずはにかんだ。結局日曜日の夜も泊まりに行ってしまい、今朝は師匠の家から出勤したのだった。幸せが体中に詰まっている気がするのは、万葉も分かっていた。
自分のフロアに戻ると、出勤してきた部長を見つけて、万葉は進み出る。ちょっと怖い顔をした部長なのだが、芯は優しい。結婚の報告をすると、表情をぱああと明るくして、喜んでくれた。
「じゃあ、苗字も変わったのか?」
「はい、田中になります……。皆さんに呼ばれるのは以前のままでいいんですが、応答時の名前の変更をしてもいいですか? システム上の変更は、先ほど総務部に行って来たので数日後には変わるかと」
「もちろんだよ、また、ずいぶんと一般的な苗字になったな。これで、悩みだったクレームも減るかもしれないし、これからも仕事を一緒に頑張ってくれると嬉しいよ」
「はい、ありがとうございます!」
万葉はニコニコと笑って部長の前から下がると、デスクには桃花が出勤してきていた。
「おっはよー! ついに、ついに部長に報告!?」
「えへへ……そうなの」
「顔がにやついてますぞ。よ、新妻!」
桃花には、師匠が実は親会社の常務だったということをこっそり伝えており、びっくりしていたものの、それはそれでいいじゃないと、応援してくれたのが嬉しかった。
「じゃあ、ついに新海にも言わなきゃいけない時が来たわけね……」
「あ、そうだった。違う名字で応答していたら、新海もびっくりするだろうから、先に言っておかなくちゃ」
そう言って万葉が振り返ると、ちょうどタイミングよく新海が出勤してきて、自分のデスクに鞄を置いている。万葉がすぐさまそちらへとつま先を向け、それを見送った桃花はほんの少しだけ困り顔をする。
「新海と、ひと悶着ないと良いけど……」
その呟きが万葉に聞こえることはなく、万葉はすたすたと新海の方へと向かった。もうすぐ新入社員も入ってきて、新海も忙しくなる。その準備もあるのか、最近は忙しそうにしていたので、話しかけるのは久しぶりだった。
穏やかな日曜日の朝、万葉は師匠の笑顔を見て、引っ越しを決めた。この人の元にだったら、大丈夫だろうという、確信が持てた。迷う必要が一気に無くなって、万葉は家へと帰り、引っ越しの準備をする為に部屋を片付けた。
翌日の月曜日、万葉は出勤すると総務部へと駆け足に向かって、早瀬を呼び止めた。手に持っているのは、社内用の結婚報告の書類だ。
「早瀬さん、お待たせしました」
「とんでもないです。引っ越し、決まったんですね。よかったです」
それに万葉は微笑む。
「はい、月末を目安に、四月からは一緒に住もうかと」
「すごく幸せそうな顔しています。安心しました」
万葉は思わずはにかんだ。結局日曜日の夜も泊まりに行ってしまい、今朝は師匠の家から出勤したのだった。幸せが体中に詰まっている気がするのは、万葉も分かっていた。
自分のフロアに戻ると、出勤してきた部長を見つけて、万葉は進み出る。ちょっと怖い顔をした部長なのだが、芯は優しい。結婚の報告をすると、表情をぱああと明るくして、喜んでくれた。
「じゃあ、苗字も変わったのか?」
「はい、田中になります……。皆さんに呼ばれるのは以前のままでいいんですが、応答時の名前の変更をしてもいいですか? システム上の変更は、先ほど総務部に行って来たので数日後には変わるかと」
「もちろんだよ、また、ずいぶんと一般的な苗字になったな。これで、悩みだったクレームも減るかもしれないし、これからも仕事を一緒に頑張ってくれると嬉しいよ」
「はい、ありがとうございます!」
万葉はニコニコと笑って部長の前から下がると、デスクには桃花が出勤してきていた。
「おっはよー! ついに、ついに部長に報告!?」
「えへへ……そうなの」
「顔がにやついてますぞ。よ、新妻!」
桃花には、師匠が実は親会社の常務だったということをこっそり伝えており、びっくりしていたものの、それはそれでいいじゃないと、応援してくれたのが嬉しかった。
「じゃあ、ついに新海にも言わなきゃいけない時が来たわけね……」
「あ、そうだった。違う名字で応答していたら、新海もびっくりするだろうから、先に言っておかなくちゃ」
そう言って万葉が振り返ると、ちょうどタイミングよく新海が出勤してきて、自分のデスクに鞄を置いている。万葉がすぐさまそちらへとつま先を向け、それを見送った桃花はほんの少しだけ困り顔をする。
「新海と、ひと悶着ないと良いけど……」
その呟きが万葉に聞こえることはなく、万葉はすたすたと新海の方へと向かった。もうすぐ新入社員も入ってきて、新海も忙しくなる。その準備もあるのか、最近は忙しそうにしていたので、話しかけるのは久しぶりだった。
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